第二章 猛を救え!

第16話 ついにバレた? 猛の正体!



 廊下の声は僕らがひそむ部屋のすぐ外を通っていく。巡回中の衛兵だ。


「まさか、あのユダさまが偽者だったとはな」

「人間が化けてたんだろ? 信じらんねぇよ。あんな強い人間がいるかね? たとえ、竜人だとしてもだ」

「だいたい、なんで人間がユダさまのふりしてたんだ?」


 ああ、それは、魔王軍の偵察のためだよ。魔王の正体とか、侵略計画をあばこうと……。


 やっぱり、猛が偽者だと知れ渡ったんだ。心配してたとおりになった。猛を助けに行かないと!


 京都五条の町屋でいっしょに暮らす兄の猛。でも、なぜか、この世界に召喚されたとき、猛だけは魔王軍のさなかに現れた。そんで、まわりの魔物たちに四天王のユダって呼ばれた。と、本人が言ってた。


 でも、ほんとのユダが別にいるらしいのは前からわかってたんだ。猛は姿が似てたから、勘違いされたんだろう。


 ユークリッドさんが本物のユダ。そう思えば、たしかにとてもよく似てた。肌の色がちょっと猛より濃かったけど、魔物って別の姿に化けられるから、そのていどの違いは、僕らが髪型変えたくらいにしか思わないのかも。


 誰かがユークリッドの本体を封印したのなら、そいつだけは猛が偽者だと知ってたはずだけど、あえて泳がせてたのか。それとも、自分の悪行を隠すために真相を話せなかったのか。


「で、ユダさま……じゃねぇや。その人間はどうなったんだ?」

「裁判にかけられて、死刑が決まったってよ」

「まあ、当然だな」

「けど、どうやって殺すんだ? もうゴドバさまも、ヤドリギさまもいないのに?」

「そりゃ、もちろん、ホウレンさまだろ? それか、魔王さまお直々にだ」

「バカなヤツだな。人間のぶんざいで身のほど知らずなんだよ」


 足音が通りすぎたところで、僕はドアをあける。竜兵士系の最終形態、竜近衛兵が二人、話しながら歩いてる。僕はそいつらの背中に声をかけた。


「で、その人間は今、どこにいるの?」

「キュイって言われてもな。罪人の塔だよ。当然だろ?」

「キュイなんて言ってねぇぜ? 明日の朝には、きっとその人間の死体が塔のてっぺんからつるされるだろうぜ」


 ハハハと笑いながら、竜近衛兵は去っていった。魔王軍の兵隊って、けっこうおバカだよね。


「罪人の塔か。そこに行かないと」

「アニキ。それ、たぶん、あそこじゃないっすか?」


 ぽよちゃんが窓から見える景色を示す。そこには無気味な月を背景にした黒い塔のシルエットが浮かびあがっていた。そのまわりを飛びまわる無数のコウモリみたいなのは、よく見るとドラゴンだ。

 頑丈そうな鉄格子が塔の窓をふさいでる。屋上に見えるのはギロチン台。まちがいなく、あそこだね。


 僕は窓辺に近づいて、じっくりと外を見る。位置関係を確認しとかないと。ついでにスマホで写真も撮っておいた。


 とは言え、あそこに行くにはどうしたらいいのかな?

 というのも、塔は広大な城の中庭に、周囲のすべての建物から孤立して、ポツリと建っている。中庭から近づいていけば、まわりを飛びまわるドラゴンにすぐ見つかるよね。全部倒すのも難しくないとは思うけど、もしも援軍がたくさん来て、僕らまで捕まったら元も子もない。

 どうにか、コッソリ忍びこめないかな?


 僕が考えていると、背後で声がした。

 ビクーッ。だ、誰?


「あそこへ行きたいのですか?」


 ふりかえると、扉のかげから女の人がのぞいてる。長い黒髪のキレイな人だ。踊り子みたいなカッコしてる。

 なんで魔王城に女の人がいるんだろうなぁ? ダークエルフかな。褐色の肌で耳がとがってる。なんだか、どっかで見たような?


「どなたですか?」

「わたしはブラックロータス。この城で女官をしております」


 日本語で言えば、黒いはすさん。

 目の色が黄色いから猫っぽい。


「えっと、魔王軍なんですよね?」

「そうなりますね。子どものころ、わたしたちの村は魔王軍に襲われました。そのあと、わたしと姉は奴隷として、ここへつれてこられたのです」


 ふむふむ。まあ、そういう人もいるかもしれないね。美人が嘘つくわけないし。


「でも、今は魔王軍?」

「心の底まで屈しているわけではありません。見たところ、とても強そうなぽよぽよさんたちですね。あの塔へ侵入する秘密の通路を知っています。わたしがご案内いたしましょう。そのかわり、わたしの姉を助けてほしいのです」

「お姉さんを?」

「姉はミスをして、何年も前にあの塔へつれていかれたきり、今も牢に入れられているのです」


 ふむふむ。だから助けたい、と。うちと似たような境遇だね。

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