第17話 潜入するよ
ここは信用するしかないか。猛を助けないといけないのは事実だし、朝には処刑されちゃう。あんまり時間がない。
「じゃ、お願いします」
黒蓮さんはニッコリ微笑した。漢字で書くと名字っぽい。
「こっちです。地下から塔へ行ける通路があるんですよ」
地下か。まあ、それなら、地上を走ってくよりは目立たない。もしも地上から行って、扉に鍵かかってたら最悪だし。イベントの扉は万能カギじゃあかないしな。
兄ちゃん。待っててね。今、助けに行くよ。
たとえ僕のオカズをうばっていく兄でも、死んじゃったらイヤだ。
僕らは廊下を走っていく。五階にいたんで、一階までおりてくのが、また大変。つまみ食いしてると時間かかるんで、ちょっと一回ずつパクつくにとどめる。それでなくても、ほぼ数値ふりきっちゃってるからね。
「つまみ食い、ですか。お客さんは変わった特技をお持ちですねぇ」と、黒蓮。
「お客さん?」
「住人ではないので、お客さまかと」
「まあそうか」
「数値を吸いとるそういう技は、古代の禁術なのです。今ではモンスターのなかでも、めったに使える者はいないのですよ」
「そうなんだ」
禁術か。ヤドリギやゴドバがその研究してたよね。てことは、ホウレンもしてるのかな? ホウレンってホウレン草みたいだよね。まだ一回も見てないけど、どんな男だろう? ずっと前には武闘大会に出たらしいって話なんだけどなぁ。その昔、魔物になる前は人間だったって。
「前にさ。戦ったスリーピングは吸血を使ったよね」
ぽよちゃんの装備してる吸血の指輪を落としたのも、じつはスリーピングだ。スリーピングはホウレンの部下らしい。やっぱり、ホウレンも禁術を研究してるのか。きっと、そうだ。
やがて、黒蓮の案内で一階までおりた。ドラゴンの首の飾りがピカピカしてる壁に近づいていくと、黒蓮はそこに手をあてる。ほかのドラゴンは目が赤く光るのに、そこだけ紫色に点滅してる。黒蓮が押しこむと、壁がグルンとまわった。忍者屋敷みたいな仕掛けだね。
壁のむこうには黒い穴が待ってる。ここが秘密の通路か。
「行きましょう」
黒蓮が言うので、僕らはついていった。細い階段が下へと続く。おりきると、今度は長い廊下だ。まっすぐ、伸びている。なるほど。中庭の塔の方角だ。
兄ちゃん。今、行くからね。無事でいてよ。
長々と続く廊下を行くと、前方に扉が見えた。兵士が立ってる。竜近衛兵とゾンビ大王だね。
ゾンビ大王はのっとるを使ってくる。ゾンビタッチっていう、さわった相手を戦闘不能のあと敵側のメンバーにしてしまう即死系の技がやっかい。でも、数値的には、まったく問題ない。ゾンビ大王さえ、さきに倒せば楽勝だ。
僕とぽよちゃんが走っていこうとすると、黒蓮さんがひきとめた。
「お待ちください。塔に侵入者があったとわかれば、巡回の兵士が増強されてしまいます。そのぶん、時間を要しますので、ここはバレないよう
たしかに、一戦ずつはたいした時間じゃなくても、戦闘回数が増えれば、そのぶん猛のところにたどりつくのが遅くなる。
「と言っても、どうやって、ごまかすんですか?」
アンドーくんがいれば、隠れ身で透明になって、なんなく通過できたんだけどなぁ。
「わたしに任せてください」と、黒蓮さんは言った。
信用していいのか迷うところだ。でも、ここまで来て、ただ敵に僕らをひきわたすだけなら、もっといいタイミングがあるはずだ。門番はどう見ても、僕らにとって瞬殺レベルなのは明白。大した敵じゃない。
「じゃあ、お願いします」
「では、わたしが何を言ってもさわがず、話をあわせてください」
黒蓮さんは門番たちの前に近づいていく。
すると、思ったとおりに竜近衛兵とゾンビ大王が行手をはばんで立ちふさがった。
「待て待て。ここからさきは罪人の塔だ。ゆるしのない者は通行できん」
「何用だ?」
黒蓮さんは低姿勢で告げた。
「明日、死刑になる囚人が、最期にぽよぽよ肉を食べたいと所望したので、これから届けに行くところです」
ぽ、ぽよぽよ肉? それって、僕らのこと?
ああっ、やな感じ。ゾンビ大王と竜近衛兵がヨダレをたらして僕とぽよちゃんを見てる。
「美味そうなぽよぽよだなぁ」
「囚人って、アレだろう? ユダさまのふりしてた人間」
「それですわ」
「どうせ明日には死ぬんだぞ。それも、ユダさまに化けてた不届き者だ。ぽよぽよはおれたちが処分しといてやるから、おまえはもう帰っていい」
「でも、たしかに届けませんと、わたしがお叱りを受けてしまいます」
「ウルサイ! 奴隷ごときが文句言うな」
「そうだぞ。ほれ、ぽよぽよども、こっちに来い」
ゾンビ大王と竜近衛兵が手招きする。
もしかしたら、門のところには監視カメラ的なサムシングが設置されてるのかもしれない。この場所で僕らをとりあげるのは、さすがにマズイようだ。
ということは、これは、ついてけば、塔に入れるんじゃ?
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