第15話 これが魔王城のザコ戦?



 HP二万……今さら?

 ワレスさんなんか六万超えてたけどな。

 それに、僕の防御力、ぽよぽよ神の特性で二倍になってるから、二万五千だよ? 攻撃力たった五百で、太刀打ちできるとでも?


「じゃあ、ぽよちゃん。倒したときに道づれする死神将軍がやっかいだから、僕、あっちから倒すね。もしも僕が道づれにされたら、呪文で蘇生してね?」

「リョす」


 リョす? ああ、了解っすよと。急にネットスラング使うから何かと思った。ぽよちゃん、ネットなんて知らないはずなんだけどな。


 さあ、やるぞと思った瞬間、僕のなかからガンガンガンと力があふれだしてきた。

 わあっ! なんだ? この感じ? めっちゃテンションあがるんだけどー!

 ん? テンション? そう言えば、ターン開始時に自動でテンションがあがるって特性があったっけ。それにしたって、この感じはただのハイテンションじゃないぞ。

 となりを見ると、ぽよちゃんの体が真っ赤に燃えたオーラに包まれてる。


「これ、アルテマハイテンションだね!」

「ういっす! イケイケっすよー!」


 なんで? テンションは一段階しかあがらないはずなのに? もしかして、ぽよぽよ神をマスターしたせい?


 思ったとおりだ。

 マスターボーナスに、ターン開始時、仲間ぽよぽよ全員のテンションが三段階あがるってのがある。就労中特性の一段階とあわせると四段階。てことは、いっきにテンション最大限に……なる!


「へへへへへ。行っくよー! かーくんヘッドアターック!」


 ただの頭突きだ。

 でも、アルテマハイテンションだと、通常の二百倍のダメージをあたえる。三万攻撃力の二百倍。六百万ダメージだ。


 もちろん、死神将軍は一撃死。口からポワポワしたものが出てきて、僕のまわりにまとわりつこうとしたけど、アルテマハイテンションの余韻でふりはらった。


「アルテマハイテンション、気持ちいいー!」

「っすよねぇ。ぽよ、ドラゴン倒してもいいっすか?」

「いいよ。やっちゃって」

「アルテマハイテンションヘッドアタック!」


 赤いオーラをまとった白ウサギが弾丸みたいに空中にとびあがり、ドラゴンの喉元にズンとめりこむ。巨体のドラゴンがあっけなく、ゆらぎ、そのまま横倒しになった。


 勝った。もう終わり? かんたんすぎる。


「これなら、つまみ食いもしとけばよかったなぁ。ぽよちゃんも吸血できたね」

「もったいなかったっすね」


 つまみ食いは僕の生来特技。敵から任意の数値をゴッソリうばいとって自分のものにできる。ぽよちゃんは吸血の指輪効果で、一度にペロリってわけにはいかないけど、数値をぬきとることはできる。


 五百前後の数値を吸えるのは、ふつうならボス戦だけだ。それがザコ戦で毎回できるなら、やらない手はない。


 こうなると、祭りだ。

 そのあと、僕とぽよちゃんは交代で敵の数値を吸いとりながら、魔王城のなかを爆走していった。


「つまみ食い! つまみ食い! つまみ食い! つまみ食い! からのぉ、アルテマハイテンション!」

「吸血! 吸血! 吸血! 吸血! 吸血! 吸血! からのぉ、アルテマハイテンションっす!」


 いやぁ、デッカイ将軍とか、大王とか、魔道士とか、皇帝とか、ドラゴンとかがさ。ちっこいウサギにバンバン倒されていく。爽快、爽快。魔王城、楽勝だね。


「あはは。そうだよね。よく考えたら、僕ら、つまみ食いとか、小説を書くで強くなりすぎちゃったんだよね。万の数値、見なれちゃってた。ヤドリギやゴドバが異様に強かったのも、古代の禁術ってやつを復活させたせいだったしさ。ふつうなら四天王だって、力が万超すなんてあるわけないもんね。へへへ」

「アニキー。ぽよ、知力も満タンになったっすー」

「じゃあ、幸運を吸ってよ。ぽよちゃんもクリティカル率100%になろう。それに、即死系魔法は幸運値があがるとふせげるしね」

「うっす」


 そう言う僕も力と体力がふりきった。素早さと器用さも八万超えたから、ボーナス値が正常につくようになれば、これも上限いっぱいになっちゃうな。


 けど、さすがに僕らだけで魔王を倒しに行くのは心配だ。捕まったら殺されるだろうしね。宝箱を回収しながら、あちこちウロウロする。いいところで逃げだして、なんとかボイクド国へ帰れる道を探さないと。


「この部屋もカラかぁ。魔王城って誰も住んでないのかなぁ?」

「魔王がいるんじゃないすか?」

「だよねぇ。けど、さっきのロンドの言ってたのがほんとなら、魔王はいないのかもね」


 そんなことを話しながら、部屋のなかをあさってたときだ。

 え? なんであさってたかって? そんなの宝箱がないかと思ってだよ。決まってるじゃん。

 部屋の外の廊下を誰かが歩いてくる。コツコツと複数の靴音。話し声も響いていた。


「……おいおい、聞いたかよ? ユダさまの話?」


 ん? ユダ? それって、ユークリッド? それとも、猛?

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