第14話 このお城は、まさか?



「じゃ、行こっか。ぽよちゃん。いきなりボスが出ても困らないように、注意しとこうね」

「ういっす」


 僕はぽよちゃんと二人、ならんで歩きだした。ピョンピョコピョン。

 はたで見たら、きっと、めっちゃ可愛いウサギ二羽だよね。洋服着て、猫型リュック背負って、ピョコピョコはねていくウサギ。メルヘンだ。


「あっ、一本道だ。回復の泉のあとは脇道なしだね。これなら、もう迷わない。ロンドたちとも、また合流できるかも」


 僕らは急いで、一本道を走っていった。ゴツゴツした岩肌が、しだいに平らになり、走りやすくなってくる。これは? 洞くつって言うより、遺跡のなかみたいだな。ボスのいる場所が近づいてるのかな? でも、遠耳には何もひっかからないんだけどな。これまでと同じザコ敵だけ?


「ん? ちょっと待って。ぽよちゃん」

「どうかしたんすか?」

「なんか、ザコの感じがさっきまでと違わない?」

「ちょっと待って。ピクピク。遠耳っと——ああ、そうっすね。だいぶ強いヤツらっすね」

「だよね? そうとう強くなったよね? ドラゴンとか、巨人とか、中ボスなみのヤツらが歩きまわってる」

「うっす」


 なんか変だぞ? それに、敵の気配が変わってから、周囲が明るくなった。だんだんハッキリ見えるようになってる。それでもかなり薄暗いほうではあるけど、まがりなりにも人工の照明が壁についてるよ。禍々しい竜の首の形をしたランプが、ピカピカと赤い光を放ってる。


「お城だね」

「お城っすね」


 それもさ。イヤな感じのするお城だよね。ほら、願いの国のお城はさ。明るくて清潔で活気に満ちてて、BGMも神秘的で爽やかだった。優美な装飾や、目で見て心地よい彫像とかさ。花が咲いて緑にあふれてた。

 しかるに、この城のなかはダークで陰気で、憂鬱な気分になる。暗さだけでなく、飾りつけや置き物も無気味だしさ。よどんだ空気が肺のなかまで、まといついてくる感じ。花なんか、きっと、この空気で枯れてしまうよ。


 以前、悪のヤドリギや豪のゴドバがひそんでる城にも行った。けど、あのときより重苦しい感じが強いんだよ。それに、ザコ敵の強さが断然、こっちのほうが上。


「ぽよちゃん。どうしよう……」

「変なとこ来ちゃったっすね……」


 少なくとも、ぽよぽよが二匹で歩いててもいいとこじゃない。それは断言できる。


 音楽もイヤなのがかかってるなぁ。低い音のさぁ。ズーン、ズーンって。たまに悲鳴っぽいコーラスが……。



 チャララララ……。

 ブラックドラゴンが現れた!

 死神将軍が現れた!



 うーん。だよねぇ。

 ブラックドラゴンってさ。今までなら、ダンジョンボスとして最奥に出てきたよね? 一番最近のとこだと、セイラ姫を助けに行ったときの別荘のボスがグリーンドラゴン。ボスだよ? ボス。それもまだ色から言って、最強のドラゴンじゃないでしょ。グリーン。ブラックっていかにも闇っぽいし、魔王城とかにいそうだよねぇ……魔王城に……。


「嘘だよね! ぽよちゃん。ここ、魔王城じゃないよね?」

「ぽよ、わからないっすー!」


 おびえて肩をよせあう二匹のぽよぽよ。それが、僕とぽよちゃん。


 でも、敵は容赦なく見おろしてる。デッカイなぁ。ブラックドラゴン。これが現物かぁ。ブラックドラゴンの職業は僕もマスターしたんだけど。

 となりの死神将軍ってのも、初めて見る。ドラゴンほどじゃないけど、なかなかの巨人だ。人じゃないけどね。だって、ガイコツだもんね。ヨロイ着て、マントつけて、大鎌持ったガイコツだ。三メートルはあるガイコツ。



 チャララララ〜。

 チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャンチャン……。



 戦闘音楽がさっきから同じフレーズくりかえして待ってるなぁ。

 しょうがない。戦うか。


「じゃ、行くよ。ぽよちゃん」

「やるしかないっすね」

「ぽよちゃん、聞き耳!」

「……アニキもできるようになったすよね?」

「あっ、そうだった。てへっ」


 えっと、じゃあ、お耳ピクピクっと。


 死神将軍の特技は、死神切り。受けた対象が必ず三ターン後に戦闘不能になる。道づれってのもやっかいだなぁ。自分が戦闘不能になったとき、10%の確率で攻撃してきた人物を戦闘不能にする。


 ブラックドラゴンは見るまでもなく、ブラックブレスか。闇属性のブレス攻撃ね。ギガブラックブレスも吐くよね。


 あれっ? でも、だよ?

 あれあれ? もしかして、これは……?


「ぽよちゃん」

「うっす」

「あいつら、数値、低くない?」

「低いっすね」

「ブラックドラゴン、HPは二万あるけど、力580しかない。防御力なんか300」

「死神将軍なんかHPも8000しかないっすよ?」


 これはもしや、楽勝なんじゃ?

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