第2章 旅立ち

第6話 最初の街へ

御年58だというのにこの圧……

まだまだ我らが皇帝は健在であるな。


「アトラス・ハイゴルドが旅立ちました」


「そうか」


「父上!!どうして私が同行してはいけないのですか!!」


皇帝は少しけだるそうに振り向いた。ただそれだけの動作のはずなのに、アルゴウスは息ができない。


「この程度で身動きが取れないようでは、ついて行ったとしても死ぬだけだ」


友の孫と同年代だというのにこの目の違いは何なのか…… 

甘やかしたつもりはなかったのだがな。


「陛下、レミュール(始まりの一族国家同盟国会議)の準備ができております。」


「ご苦労。始めようか」


               ―レミュールー


王宮の一角、浮島の一室には魔法耐性の高い宰相ですら圧を覚えるほどので魔力を持った紛れもない強者。各国の王たちが集結していた。


「人の王よ、何があった。これほどまでの王都の被害はなんだ。

 ジオラスはどこかに行ったのか?」


「我が国の英雄ジオラス・ハイゴルドは逝去した」


「なッ………」

「……確かですか?人族の王よ。」


このレミュートにおいても口をほとんど開くことのない深海の女王がわずかな怒気と殺気を含んだ声で尋ねた。


「おいおい、そりゃ洒落にならねえぞ、深海の女王よ」


各国の王の護衛が王の前に出て互いを威圧する。その中でもラトラスは圧倒的な実力を感じさせ護衛をの警戒を一層つよくする。


「下がれ、ラトラス。」


「お前らもだ」


「すみません、心を乱してしてしまいました。

 大丈夫よ、あなたたち、ありがとう。下がって。」


「その匂い、その戦気。ジオラスと瓜二つだな。

なるほど、お前がジオラスの息子か。Sランクとは聞いていたが、正直予想以上だだが、ジオラスにはまだ遠く及ばない」


「悔しいが……その通りだ獣王トライス。各国の王よ、これを見てくれ」


「それは………、‘’不動の銀腕‘’レジェンダリーアイテムは使用者の意思が無ければ他人が装備することはできない。そうですか、では本当に、ジオラス様は・・」


「お前がひきついだのか?」


「そうだ、祖父の遺言でな。まだまだ使いこなせちゃいないがな」

 しかし、獣王よ、後で俺と手合わせしてくれねえか?

 俺はまだ、強くなれそうだ」


「貴様…さっきから黙っていれば、なんだその口の利き方は」


「良いティグロ、恩人の息子だ。それに俺もこいつに興味がある」


「個人的な話は後にしろ、今日の本題に入る」


「ジオラスは竜と戦い討伐し、自らの命を失った。この異変を探るためジオラスの孫  アトラス・ハイゴルドをこの原因を突き止めるため調査にむかわせた。貴国らにはアトラスが国についたときの手助け、可能であれば実力者の選定をお願いしたい」


「つまり…..ジオラスの孫の任務に同行させる者をそろえろということだな?」


「もちろん、今いる実力者を選定してもらってもかなわないが、次の竜襲来の可能性を踏まえて若く可能性のあるものの選定を提案しているが、そこは自国のやり方で構わない。」


「なるほど、了解した。」


大きな牙を持ち顔に大きな傷跡を持つ獣王トライス、うなずく動作だけでも物語の一幕に思えるような美しさの女王ヴィヴィーチェ。


「こくり」


良し…… 両国の合意が取れたか。 これで最低限の目的は達した。


「ところで、ジオラスの孫はどこに行ったんだ」


「最初は……」


                ―アトラス 妙―

「平気か?妙?」


「アトラスこそ、疲れたら私がおんぶしてあげるよ?」


「……大丈夫だ」


嘘である。疲れてはいないが「妙のおんぶ」という言葉にアトラスは強く惹かれたが好きな女の子の前で情けない姿は見せられないというちっぽけな男のプライドがそれを許さないのだ。


アトラスと妙はジェノス王国王都から馬車に乗り最初の町、イフタルへと足を進めていた。最初はバスに乗っていたのだが、妙の美貌に惹かれた馬車の御者が妙にちょっかいを出したためアトラスが殴り飛ばし、馬車を下ろされたのである。


「ごめんな妙、俺が……」


「それ以上は言わないで、嬉しかったよ?私は。ありがとうアトラス」


いつの日からか、昔はあまり口数が多くなかった妙に今では翻弄されているアトラスは自分はまだまだだと気を引き締め直す。



「ハイゴルド家といえど、同行している者は平民。ならば容易い。あれは金になる」



                ―イフタルー


「アトラス!あれじゃない? あれが城門? おっきい……」

 

「あれがダンジョン都市イフタル……………」


ジェノス王国王都から馬車で1週間、比較的近い距離にあるこの町はダンジョンから得れれる富、武器を求め各国から商人、実力者が集う街である。そのため町の発展度は王都に次いで高い。30m近い演習場の外壁。万が一のスタンピード(魔物異常発生)に備えて対魔結界が備え付けられた外壁が整備されている。


「とりあえず、冒険者ギルドで冒険者登録をしてダンジョンに潜れるようにしよう」


「そうね。まずは冒険者登録かな。その後に宿を探しましょう」


2人はイフタルの中心部にある冒険者ギルドを目指す道には多種多様な露店が並び商人の威勢のいい声が響きわたっている。


「そこの黒髪のお嬢ちゃん!!!!!アルビットの串焼きだよ!!!

 そこらの店とは一味違う!食べていきな!」


アルビットとは大陸に広く生息するウサギ型の魔物で一般人には少し危険だが駆け出しの冒険者にうってつけの魔物でよく露店に肉がならんでいる。


「串焼きか~懐かしいなあ…..ね!ね!食べない?」


「もうすぐごはんだから3本までだぞ!」


「もうすぐご飯なのに3本? まぁいいか。銅貨3枚だよ」


ジェノス王国の硬貨は上から白金貨、金貨、銀貨、銅貨それとは帝国の記念などに発行される特別貨幣がるがおおむねは貴族や裕福な金貨、庶民が主に使うのは銅貨で銀貨3枚で庶民の月の生活費くらいだ。


アトラスの顔ほどもあるアルビットの串焼きを3本妙は美味しそうに食べる。その姿に周りの通行人も目を奪われる。


アトラスが周りの目を威嚇していると人だかりができていた。


「何だ・・・?」


「どけっていってんだろうがお前はよお!関係ないだろうが!」


「くそ!!!どけっ!!獣が!!」


6人ほどのガタイの良い冒険者のような柄の悪い連中が一人の白い毛皮を持つ獣人を囲んで暴行していた。


「アトラス! まずは事情を聴きましょう。アトラス、聞いてる?」


アトラスは駆け出そうとしたが違和感に気づき立ち止まる。暴行を受けている獣人に痛がるそぶりが全くないのだ。


「くそ!!こいつ! 何でこんなにタフなんだ?」


「アトラス! 固まってないで行くよ!」


アトラスが考え事をしている間に冒険者が剣を抜いた。

見物していた野次馬からも短い悲鳴が上がる。


「そこまでだ。」


アトラス距離を一瞬で詰め獣人を囲っていた男たちの前に立つ。

4、5、後ろの一人で6人か… 冒険者か?


「なんだお前もこの獣人の仲間か?」


「違う。だが町での喧嘩とはいえ剣を抜くのはやりすぎだ。いくら獣人とはいえ冒険者が一人の獣人によってたかるのは卑怯じゃないのか」


「赤髪のお兄ちゃん・・・その人達はCランクパーティーだ敵わないよ、逃げて」


「この状況で俺に逃げてといえるのか?」


アトラスが白い毛を背中に持つ獣人に話かけたと思ったら予想外の声がした

獣人が暴行を受けているのだと思っていたが幼い子を2人かばっていたのだ


「おにいちゃん・・・助けて」

「動物のお兄ちゃんが・・・、死んじゃう」


こいつら… その瞬間、アトラスは動いた。


「そこまでだ!そこの獣人からは離れろ!」


「お前たち!!武器を置け!さもないと牢に入れるぞ!!」


「っち。きやがったが。こんな獣人のために牢に入りたくもねえしな。帰るぞ」


アトラスは剣を置き冒険者たちも囲いを解く。するとうずくまっていた肌は良く日焼けしたような褐色で髪の毛から背中一面にかけて白い毛の生えた2m級の獣人が立ちあがり、獣人に守られていた男の子を女の子も姿を現した。


「でかい・・・ それに」


その特徴的な鷲鼻に整った顔。それ以上に全身からあふれ出る強者のオーラにアトラスは警戒を強くした。


さっきまで暴行を受けていたはずの体に痣などの傷が一つもない?


「ヒィ!!!やめてよ僕は何もしていない!!!」


あれ…… どっちなんだこいつ… 

「動物のおにいちゃん・・強そうなのに・・」


ラトラスもあっけにとられたが衛兵たちも拍子抜けだったようで警戒を緩めた。


「まあいい!お前ら全員詰め所に連行する!」


え詰め所? 俺も串焼き食べとけばよかった…


「まって、私も関係者よ。私も行くわ」

(串焼きもう5本くらい食べとけばよかったわね)


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神誓 おもち @kikukawa-kei

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