第5話 国葬

その日は憎たらしいほどの快晴だった。祖父の葬儀は国葬で行われ、祖父を慕う冒険者、命を救われた商人、助けた一家。王都の民全員が喪に服し涙を流した。


じいちゃん……  本当に……

目の前で数ヶ所を貫かれて死んだ祖父が竜を倒したとことまでは覚えてるけど

目を覚ましたらこんなことって…… まだ…… 何も言えてない。 


「未だ天災による復興は済んでいないが、

 先に我が親友であり戦友、我が国の英雄であり

 四大公爵家前当主ジオラス・ハイゴルドを神の元へ送る」


神の元へ送る…? あぁそうか。じいちゃんは本当に天界にいっちゃったのか。

じいちゃん天界でも強いんだろうなぁ。 あれ…… 俺何考えて……


「名 ジオラス・ハイゴルド。その剛力に勝るものおらず、他の追随を一切許さぬ圧倒的な伝説を残すこと数知れず。人類未踏破のダンジョン制覇。武闘王防衛最長記録。人類史上初の単独でのドラゴン撃破。そして、ジェノス王国を襲った最上位存在、竜の討伐。汝が立てた誓 勝昇唯至 に基づきその生涯閉じるまでただ一つの敗北無し。誓を守り抜いたその姿必ずや神は見ておられる。我が誓にかけ汝を神の地へと送る」


じいちゃんがいってたこと本当なんだ…… 武闘王って何だろう。

ダンジョン…? 訳のわからない感想を抱いていた俺は虚ろな目で国葬を後にした。



                ―墓地―

「親父…、お袋たちは任せろ、この‘’不動の銀腕‘’使いこなして見せるさ」

「言ったことはなかったが…、親父の声がでかいとこ大好きだったよ」

「最初から最後までかっこいい旦那だったよ、私をもてなす準備をしときな。」

「貴族でない私を受け入れてくれたおじい様。

 お強い姿だけでなく優しいに内面も語り継いでいきます。大好きです。」

「おじい様…… うぅ……」

「マリア。 ジオラスに何か言葉をかけてやってくれ。きっと喜ぶ。」

「おじい様…… 私は…… おじい様のように誓を全うします。」

「最高の言葉だよ…」


「おい…アトラス、お前も最後に何か」


俺は…… 何かを言う資格なんて… 

じいちゃん…


             ―1月後 ハイゴルド家―

「お母さま… お兄様が… このままだと…」


頬をうつ乾いた音が鳴りひびく。


「嘘… おばあ様さまが手を……」


「アトラス!

 男だから泣くなとは言わない!きついときは泣いたっていい。

 私だって泣いている!どれだけ強くなろうと、人間なんだ。大事なのは泣いた後に  何をするかだよ!後悔することができるのもまた人間だ。

人間は後悔して次につなげることができる。ジオラスがお前に最後に何を伝えた!ジオラスは最後どんな顔をしていた!!!」


「愛してるって… 大事なものを守れって笑ってた…」


「ならお前がすべきことは何だ!!」


「誓を…大切なものを守るために誓を全うすること」


そっか…… 俺は強くなりたい……

もう二度と大切な人を失わないように…… 全部守れるように……



              ―ハイゴルド邸 正門―


「あの…アトラス、アトラス様に会いたくて。


「約束はあるのか? 名は?」


「た..」


「通せ、この嬢ちゃんは身内だ。」


「ラトラス様! 大変失礼いたしました。 開城! 」


「おじちゃん…ありがとう」


「行ってやれ、すまんな」



               ―アトラスの部屋―


「坊ちゃま、お客人でございます」


「どうし…」


「アトラス!私!」


「妙? 入ってくれ」


黒髪で透き通るような白い肌、

真っ黒な大きな瞳を持った少女はアトラスを抱きしめた。


「アトラス、泣いてもいいんだよ、私もジオラス様が大好きだった。

 あんなに強い人が死んじゃうなんて信じられない。

 そして気が付いたの、いかに強いアトラスでもいつの間にか 死んじゃうかもしれない。だから、言いたいことが言える今の幸せをかみしめながら今伝えたいの。

  私、あなたが好き。いつも守ってくれてありがとう。」


  「これからは…… 私が守る。」


「え…」


後ろから指す夕日のせいかもしれないが妙の顔は赤くなっているように見えた。

そのわずかにはにかんだ顔は形容しがたい、美しさだった。


「思ったよりも元気そうで安心した。可愛い顔したアトラスも見れたし

 やりたいことは決まってるんでしょ?私もそれについて行く。」


「なんで知って…駄目だ危ない。」


「私のことただの可愛い女の子と思ってるでしょ? 見てて…」


「妙…その魔法は…」


          ―天災から 二年後 誓の儀―


天災により成人の儀を行えなかった者がまとめて誓の儀を行うことになった。貴族の子から商人の子まで、ありとあらゆる身分の子が集まっている。


「アトラス、準備はいいか?」


またここか…… いいさ。自分の決意を再確認できる。

俺はもう……


「はい、父上」


  300人近い成人の儀を迎えた少年、少女が誓の儀を終え後段してくる。


「黒髪に黒目? 平民か? だが、美しい…」


幼いころから容姿に秀でていた妙だったが十二歳になった今、その美貌は遠目からみても人々の視線を引き付けるに足るものだった。


「誓を述べよ」


「我が名 門前 妙に誓い アトラス・ハイゴルドを生涯守ることを誓います」


「なっ!!!!」


驚きと同時に多くの敵意がアトラスに向けられるが本人は気にも留めない。いや、気に留める余裕がないのだ。アトラスの顔はわかりやすく赤く染まり固まっている。


「まさかとは思っていたが…… 後で話すとして、しっかりしろ。次はお前だ。」


個人を守ることを誓にするとその縛りによって力は強力な物になるが縛りがあまりも大きい…… 王族を護衛する一族ぐらいしか使わない手法で平民が誓うにはあまりにも強い誓だった。


妙…… ありがとう……


「誓を述べよ」


「我が名 アトラス・ハイゴルドの名に誓い唯一神クリザンテムの刃になることを誓います。 神の刃となり、弱きものを脅かす障害を打ち破り、古来からのノブレスオブレージュに従います。」


「唯一神の名を呼ぶなど!!!不敬な!!!」


先ほどとは違う本気の威圧がアトラスに向けられる中アトラスは気にも留めない

アトラスはもう一度はっきりとした声で


「誓います」


一言だけ述べた。すると、アトラスの目の前が輝き光の塊が現れた。


「え…」


アトラスはその輝きにつかめと言われた気がして手を伸ばし、その手を握った。


「あれは…神器か?」


アトラスがつかんだそれは100cm近くある大ぶりの刀だった。


このことはすぐに大陸に響き渡った。意図的な宣伝はなく、唯一つ、王家誕生以来の神器が一人の少年に授けられた事実が伝播した。


                ―王宮―


「神器が顕現しました。

 場所は我がジェノス王国、誓の場でアトラス・ハイゴルドが誓いを述べた後」


「そうか… ジオラス。 お前の孫はいばらの道を進むことになる」


天災時に王家の雷魔法を見せつけた皇帝は‘’雷帝’’と呼ばれ家臣たちの態度に以前よりも尊敬と恐怖が入り混じった感情を向けられていた。


「アトラス・ハイゴルドを呼び出せ」


             ―ハイゴルド邸―

「アトラス。 止めることはしないわ。 ただ竜には気をつけるのよ」

「行ってきな。私とジオラスの記録を塗り替えてくるんだよ。」

「神の導きだ。お前にはきっと使命がある」

「お兄様……」


俺の旅の目的として竜という上位存在が干渉してきた原因を探ることだ。

お母さまにはまで言えないけど……


「父上、母上、おばあ様、アリア。行ってきます。」


「まてよ、アトラス、」 


妙…… 妙がついてきてくれることで俺がどんなに救われるか……

絶対に…… 守らなきゃな。


「門前 妙の名に懸けて、私がアトラスを守ります。

 私の誓にかけてアトラスに痛い思いはさせません。」


               ―王宮―


相変わらず…… 桁違いの魔力量…… これが’’雷帝’’


「アトラス・ハイゴルド、皇帝の勅令により参上いたしました。」


「入れ」


あの方たちは…… 四大公爵家の現当主……

王の御前にはジェノス王国の大臣、4大貴族が並んでいる。


「アトラスよ、お前の誓については聴いた。祖父を越えて不届きなやつよ。

 貴様の誓に従い、勅命を出す。誓を全うせよ。」


「誓にかけて」


                 ―旅立ちー


「おにいさまぁぁぁ  必ず、必ず追いつきますぅぅ。」


「力を身に着けてからだと言っているだろう。

 アトラス、誓を果たせ、お前は英雄の孫で俺の息子だ。

 そう簡単には死なん。必ず果たせ」


「アトラス、誓を果たすまで帰ってくることは許しません。

 そして、道半ばで倒れることも」

 

「アトラス、誓も大事だけど、何よりも自分の意志に従いなさい。

 そしてせっかくの旅だ。楽しむことを忘れないでおきな。

 金剛はお前の意思に答えてくれる。そして、妙に守られてばかりじゃダメだよ」


「はい」


「アトラスは私が守る。」

「妙、広い世界を見てきなさい。」


たつろうおじさん…… ごめんなさい 俺の勝手で妙を連れまわしてしまって

必ず連れて帰ります。


最後の別れになるかもしれないのだ。妙も涙ながらに家族の別れを惜しんでいると思っていたが、、そんな様子は無いな……


「行こうか 妙。」


「えぇ。 行きましょうアトラス。」

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