第4話 ジオラスvs竜

ジオラスが神官の問いに答えず声を張り上げた瞬間、十万人近くを収容する協会がちっぽけに思えるような、否、自分の存在が疑わしくなるほどの存在感をもつ黄土色の竜が現れた。強者ぞろいである貴族の面々が誰も一言も発することはできず、足も動かせずただ、ただこの世の上位存在に立ち尽くした。


「何だあれは… 魔力の塊? う…」


その瞬間竜の口が一瞬光ったかと思うとその光線はジオラスの眼前で動きを止めた。

ジオラスが腕を右に振るとその閃光は一直線に消えていき空で地面が揺れるほどの衝撃を伴い爆発した。


                「牙轟」


理解の追いつかない物事が連続したのち、人間の声とは思えない声が響きわたると同時にアトラスの体は指先だけ動くようになった。



「逃げろ! 紫電は陛下を守れ。

 動けるものが動けぬものを運べ。

 ラトラス! お前は逃げる者たちを援護せよ」


「親父!」

「早く行け」

「クソ…」


「急げ!俺が守ってやるから早く行け」


「ケル、お前何して…」


                 雷帝


「ふん… それでいい」


それは正に雷だった… 空気を揺らすような轟音がとどろいたのは無数の紫の雷

これが…雷帝…

 

「ジオラス、いつから俺に命令できるようになった?

 俺は皇帝だ。このトカゲ1匹に背など向けん。」



 「それに… こいつは頭が高いから降ろしてやった」


竜の肌は数ヶ所だが黒く焦げて焼けているように見える。


「ちっ、表面だけか、トカゲめ。だがジオラスあそこを狙え」

「何言って… お前が生き残らなければ俺は神に顔向けできん。」


「何故この俺が死ぬ前提なのか理解に苦しむが…

 俺は皇帝だぞ? 俺が下がるのではなくこのトカゲに下がらせる。」


「全く…、おい! ケルト!」


ケルトと呼ばれた四大公爵家の一角、ケルト・ホムグランドは

けだるそうにしながらも詠唱を始める。


「おいおい、早く逃げろよ、俺も逃げたいんだから」


                 炎煙


けだるけな赤髪の男が一人ごとのようにつぶやくと白い煙が立ち上り、動けない者たちを包み下におろし始めた。


「おい!!ヴァイス」


「わかってるって」


                 樹遊


日焼けした肌の男が手を合わせると浮島から木が生え始め煙に包まれた人たちを滑り台のように下へとおろしていくが… 途中で木は途絶え下に落下する


「うわああああ!!落ちる!!!」


「お願いします。落ちている人たちを地上まで届けて」


                 満願


深海のような深い青の穴が空中に浮きそこから千を超える海生物があふれ出し、落下している人々を受け止め運んでいる。



「助かった… これはナラリア様の魔法…」


四大公爵家の連携により次々と人々が地上に避難していく。

ケルトの煙で包み、ヴァイスの樹木で水へと落としマリアナが運ぶ。


「よし… 避難はこれで良さそうじゃの 儂も気合を入れねばな」


「シトラス!!!アトラスが!!!まだ上に!!」


「アリア!!駄目だ!! 上はジオラス様達の戦いだ!!巻き込まれるぞ!!」

「それでも行く。ラトラス、私は… 誓を使う」

「アリア… わかったよ、だが俺も行く」


          ―上空 竜対ジオラス・ケルゴウスー


「竜と言えど儂の家族を攻撃した以上は覚悟はできておるんじゃろう…」

               

                不動領域 


ジオラスが言い終わるその刹那、ジオラスが手を振ったかと思うと雲が切れた。


祖父が能力を発動したのだ。祖父のアーティファクトの能力「不動領域」。

祖父がダンジョンで手に入れたレジェンダリーアイテムでその能力は

空間を固定する。また、その領域は祖父にしか動かすことはできない。

祖父の並外れた膂力がなければ固定した空間を動かすことはできない。まさに祖父専用武器だ。


「これでも動くか…」


「合わせろ、行くぞ」


              雷鳴纏 紫突



皇帝がその手に持つ物は国宝である雷槍。王家に伝わる神器であり王族のみ装備可能である。雷鳴がとどろいたかと思うと皇帝はいつの間にか竜の体に槍を突き刺していた。


「ほんの先しか刺さらぬか…」


                  金剛


祖父が消えたかと思うと竜が吹き飛ぶ。祖父が殴りつけたのだ。


「全く、化け物め」


                「勝昇唯至」だ。


「勝昇唯至」(カチアガリ)

勝ち続ければ勝ち続けるほど力が増していく勝者の誓い。祖父はこの誓を立ててから

敗北したことはなく今なお全盛期を誇る。


祖父は先ほどまでとは違い銀色の闘気を纏い、竜を殴りつけている。祖父が腕を振るうたびにその衝撃の余波がここまで伝わってくる。


「あれが…じいちゃんの本気。」


「アトラス!!!!」


「父上!!母上!!!」


「父上に任せろ!!逃げるぞ!!!!」


あれは…父上の勝昇唯至。 あれならば竜であろうと… あるいは…


 「目に焼き付けろアトラス、あれが我が家の家系能力金剛。

  そして、誓を守りぬいた英雄の姿だ」


金剛

→意思の強さに比例して力を得ることができる。



竜の周りに無数の炎が渦巻く。


「魔法までは止めれぬか…」


竜は無数の炎を地上に向かって投下した。


「うわあああああ!!!!!!!!!」


「おいおい、あぶねえだろうがよ」


                煙陽炎


人々を包みこんでいた煙が一瞬で形を炎を包みこんだかと思うと炎は煙となった


       俺の術は炎と煙の存在をうやむやにする」


                雷竜


「トカゲの癖に頭が回る」


皇帝の声と共に竜に負けず劣らずの大きさの雷の竜は黄土色の竜に向かって口を開く。雷鳴と共に発射された雷は竜が展開した土色の盾に防がれる。


「あれほどの密度の雷竜…あれが王族。」


竜が笑ったように見えた。竜の周りに金色の円錐形が浮かんだかと思うとそれらは回転し地上に発射された。


「まずい!!!」


ドッゴオオオオオオン!!!!


家一軒ほどの大きさもあるそれは無慈悲にも地上に無数の穴を空けた。


「うわああああああああああああああああ!!!!!!」

「お義母さん、おとうさん!!!!!!!」


崩れる家々、商業施設、圧倒的な高度を誇るはずの王都の外壁でさえ穴が開いている。


   「ここは儂に任せて、皆は王都の住民の救護を頼む!!!」


                ―地上―


「終わりだ!!!竜に敵うはずがない!!!」

「ジオラス様だぞ!!!きっとやってくれる!!!!」

「何やってんだお前ら 避けろ!!!!!」


一際高い円錐が住民に降り注ぐ。


「うわぁぁぁぁぁぁあ?」

「あれ、死んでない?????」


「さっさと行け!!!!」


「ラトラス様~!!!!」


「うるせえ ガキども! 今度サインしてやるから早く行け!」


「ラトラス様?大陸に5人しかいないSランク冒険者の??」


「親が立ち止まってどうする! 速く連れてけ!」


                ―妙の家―


「この揺れは…何が起こっているの…、アトラス…」


これは… 友よ もってくれよ!


「父さん!?」


             ー竜vsジオラス、ケルゴウス―


「ガアアアアアアアア!!!」


牙轟に反応し竜が先ほどの無数の円錐とは比較にならない大きさの円錐形を作りだしジオラスに向かって発射した。


「じいいちゃん!!!!」

 

                 不動領域


「孫の手前、かっこ悪い姿は見せられんでのお」


特大の円錐はジオラスの手前で静止した。そして、ジオラスは浮島ほどもあるその円錐を掴み、竜に投げ返した。さすがの竜も防御が遅れ円錐が突き刺さる。


「好機」


                  雷鳴纏 雷絶


皇帝が手を握ると竜に向かって無数の雷が全方位から放たれた。さすがの竜もよけきれるはずはなく体に黒い焦げ跡が残る。


「まだだ」


                  雷牢


竜に直撃したはずの雷は複雑に絡み合い竜を包みこんだ。竜は雷の牢から出ようとするが牢に当たるたびに雷に打たれている。


「早くしろ、長くはもたん」


「30秒もたせろ」


ジオラスの周りに雲が渦まく。ジオラスを中心としているその円は一瞬にして一か所に集まり白い球体となる。


                 雲鳴動(ソラナキ)


その球体は竜の顔の近くに近づく。

鼓膜が破れたかと思うほどの衝撃と音の塊が竜に炸裂した。


「何だ!!!!!今のは!!!!!」

「おい!!!!見ろよ、竜の顎が!!!!!」


竜の右あごは吹き飛び竜の口が開きっぱなしなり、牙をむき出しにした姿はむしろ先ほどよりも不気味に見えるが間違いなくダメージを追っていることは明白だ。


「いけるぞ!!!!!!!

 ジオラス様!!!!!!!!!!!!」

 ジオラス様――――――――――!!!!!!!!」


竜は地上に落下してゆく。


「やったか!!!????」


「まだじゃ!!! 気を緩める出ない」


竜の体を黄土色の光が包む。


「いかん!! 力をためておる…」


竜は墜落したように見えて大地から力を吸収していたのだ


「まずい!!!」


少年の眼前には男の胴体を3か所貫通した土色の棘が見えていた。


「じいちゃん…?????」

 じいちゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「けがはないか??アトラス…???」


少年は目の前の光景を信じることができなかった。


「親父!!!!!!!!!

 まずい!!!!!!!!!!!!」


「御父様!!! 嘘!!」


王都の地面から無数の槍が飛び出す。がそれは人体を貫くことなく止まる。


「ぐぅ… 同じ手が通用すると思うなよ」


「あの範囲を固定するのはまずい…… 親父!!!!」


「じいちゃん…、じいちゃん…体が…血が…」


「全く、泣き虫は変わらないのう。」


「マリアナ!

 約束を守れなくてすまんの。 この先何度日が昇ろうが雨が降ろうが愛している」


「ジオラス…ジオラスジオラスジオラス…

 私もだ。 骨になっても愛せる自信があるよ」


「全く、、敵わんな」


どうして… 針がお腹を貫通して痛いはずなのに…

じいちゃんは…


「アトラスよ、この不動の銀腕はラトラスに渡してくれ

 誓とは自分にとって大切なものを守るとき、もっとも力を発揮する。

 誓を全うし、家族を作れ、それが儂からのお願じゃ、愛しておるぞ 

 そして… 強くなれ」


「やだよ!!!!そんなこと言うなよ!!!じいちゃん!!!!」


ジオラスはアトラスの頭をなでると竜に向かって駆け出す。


「我が名はジオラス・ハイゴルド。ジェノス帝国の鉾である。

 我が誓いを全うする!!!!!!!」


(全く、良い人生じゃった

 儂のために泣いてくれる人がこんなにもおる好きなことをやった。

 マリアナにも出会えた。 楽しかったのおぉ)


            金剛不動領域


「これで最後じゃ」


先ほどの竜の顎をふき吹き飛ばした球体とは比較にならないほどの大きさの拳上の大気が圧縮されていく。竜も体は固定されてるようだがジオラスと同程度の大きさの円錐を回転させている。


「じいちゃん!!!!!!!!!!!」


圧縮された拳型の大気と高速回転する円錐がぶつかり合う。その衝撃の余波は周囲を破壊する。王都の外壁は吹き飛び、地面は割れる。


圧縮された大気の拳は黄金の円錐をへし折り、竜に着弾する。

竜の体は跡形もなく消えていた。


やった じいちゃんの勝ち…

 

「じいちゃん…」


余りの衝撃に口が開かなかった人々が歓声を上げたようとしたとき、一つの影が倒れた。


歓声が悲鳴に変わった…


「じいちゃん! 誰かじいちゃんが!」


「急げ! 医療術師を連れてこい!」





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