後編
「こんなに元気になれるなんて、私、夢のようです!」
「まだ、あまり無理はしないでくださいね、アイラース」
まさか、私が元気に走り回れる日が来るなんて、夢にも思わなかった。
「これも、全てクレイシア王子のお陰です!!」
クレイシア王子は時間を見つけては、部屋から出ることのできない私のところに来てくれて、お話に付き合ってくれた。
本が好きだと伝えると、山積みの本を持って来てくれた。
「それは違います。アイラースの生きたいという気持ちが、病をやっつけたんですよ」
たとえそうであったとしても、そういう気持ちにさせてくれたのはクレイシア王子だ。
クレイシア王子は、アイラースのことを本当に愛していた。
クレイシア王子の愛を受けた私にはそれが痛いほど分かった。
だからこそ、もう終わりにしないといけない。
「私、ずっと、クレイシア王子に言えなかったことがあるんです……」
「急にどうしたんだい、アイラース?」
私が真剣な顔で話し始めると、クレイシア王子も真剣な表情になった。
「実は私、クレイシア王子が愛しているアイラースではないんです」
「……それはどういうこと?」
クレイシア王子が戸惑っている。
それはそうだよね。
客観的に考えると、自分でもおかしなことを言っているのは分かっている。
「私、この世界とは違う世界の人間なんです。別の世界で死んでしまって……。この世界のアイリースとして転生したんです」
「……そんなことが? いや、でも……」
クレイシア王子にも思い当たる節があるようだ。
「だから、クレイシア王子が愛した私はアイリースではないんです。今までだまし続けるようなことをしてしまい、申し訳ありませんでした。ですから、以前にもお話しましたが、どうか婚約はなかったことにしてください」
そう言って、私は頭を下げた。
本当は別れたくない。
クレイシア王子のことは心から愛している。
でも、愛しているからこそ、クレイシア王子を不幸にさせてしまうような嘘をつき続けてはいけない。
そう思った。
「ん、どうして婚約を解消しないといけないんだ?」
ごく普通に、ごく自然に、クレイシア王子はそう言った。
「ですから、私はあなたが愛していたアイリースではないので……」
「私が愛していたのはアイリースではなく君だよ」
「……それは、どういう意味ですか?」
え、え、どういうこと?
心がひどく動揺する。
「アイリースが記憶を失う前と後とでは、全く性格が違っていたから、不思議に思っていたんだ。でも、今日の君の話を聞いて、ようやく全てが繋がった」
そんなに性格を変えてしまっていたとは、不覚だった。
「元々、私はアイリースとの婚約には乗り気ではなかったんだ。だから、アイリースのところに通っていたのは、正直、婚約者としての義務で行っていた」
そんな、だって、アイリースのために、あんなに一生懸命尽くしていたのに……
「だけど、君が転生してからは違った。少しでも長く君の傍にいたい。少しでも多く君と逢っていたい。そう思って、君のもとに通っていた」
「それって……」
「そう、私が愛していたのは、アイリースではなく君だったんだよ」
嬉しい。
嬉し過ぎる。
ずっと、ずっと私は悩んでいた。
いつかはこの関係を終わりにしないといけないんじゃないかって。
クレイシア王子と別れないといけない日が来るんじゃないかって。
それは、現実世界で死んだ時よりも辛いと思っていた。
「……沈黙が続くと不安になるのですが、告白の返事は聞かせてもらえませんか?」
あまりの衝撃的な話に意識が違う世界に行っていたが、気がつくと、クレイシア王子が不安そうな表情をしながら、私の顔をじっと見つめていた。
「も、もちろん!! 私もあなたを愛しています!!」
私が大声を出してクレイシア王子に抱きつくと、王子も私のことを強く抱きしめてくれた。
クレイシア王子の温もりを感じていると、何故か私の目からポロポロと涙が溢れ出した。
どうして?
現実世界で死ぬ時にも流さなかったのに……
そっか、そうだよね。
私は不意に悟る。
涙は悲しい時だけじゃなくて、嬉しい時にも流すんだよね。
今までずっと辛い人生だった。
でも、クレイシア王子に出逢えて、人生にはこんなに感動や喜びがあるんだということを知った。
……できることならこのままずっと、クレイシア王子と幸せな日々を……
クレイシア王子を抱きしめる力を更に強め、私は心の中でそう深く願った。
身体が弱くて死んでしまった私は転生した異世界でも身体が弱くて、そんな私にも王子は一生懸命に尽くしてくれました 夜炎 伯空 @YaenHaku
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