ダンジョン発生! ~美少女と一つ屋根の下で暮らしていますが、何か?~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

 西暦2031年4月2日。

 地球のあちこちで大地震が発生した。

 もちろん日本も例外ではない。

 東京、大阪、名古屋、福岡、札幌などの都市で、震度7の揺れが観測された。

 しかし不思議なことに、人的被害はゼロだった。

 建物や道路などのインフラの被害だけしか出なかったらしい。


 西暦2031年4月4日。

 世界各地で災害からの復旧が急がれている。

 そんな中、不可思議な洞窟があちこちで発見されている。

 地震の影響で崩落したと思われる場所だ。

 その数は全部で100箇所以上あるという。

 災害からの復旧作業がひと段落すれば、調査が行われるとのことだ。


 西暦2031年4月23日。

 不可思議な洞窟から、未知の生物が続々と出てきた。

 そして、人々を襲い始めた。

 学者や政治家たちは、この洞窟を『ダンジョン』、生物を『魔物』と呼ぶようになった。

 世界中で被害が出始めており、政府は対応に追われている。


 西暦2031年5月17日。

 魔物への対処について、世界中が苦慮している。

 というのも、銃火器による攻撃では、あまり効果がないようなのだ。

 魔物に有効な攻撃方向を探るべく、様々な研究が行われている。


 西暦2031年6月12日。

 魔物への対抗手段が確立されてきた。

 銃火器よりも刀剣類による攻撃がなぜか有効らしい。

 また、鈍器や素手でも効果はあるようだ。


 西暦2031年8月23日。

 ダンジョンの外に出てきていた魔物について適切に対応した諸国は、無事に魔物の殲滅に成功した。

 一部の国では、続いてダンジョン内部の調査が行われる予定ということだ。

 日本もそんな国のうちの1つである。

 ただし、初期対応に失敗した一部の国は、甚大な被害が出ているとの情報もある。


 西暦2031年10月18日。

 世界各地のダンジョンから魔物があふれてきた。

 初期対応に失敗していた国は当然のこと、内部調査を保留としていた国にも甚大な被害が出ている。

 日本の被害はまだマシな方であったが、それでも国内のインフラや経済はズタズタにされてしまった。


 西暦2031年12月5日。

 世界の人々の生活水準は落ちた。

 しかしそんな中でも、復旧に全力を注ぎ込むわけにはいかない。

 ダンジョンからあふれた魔物、そして内部で増殖する魔物を間引きしていく必要があると有識者たちが結論付けたのだ。

 幸い、魔物を討伐して得られる『魔石』は、電気エネルギーや人体にとってのエネルギーに繋がることが発見されている。

 魔物を狩り、安全度を高めると共に生活の糧を得る。

 そんな『冒険者』という職業になる若者たちが増えつつある。



「……こんなところかな」


 俺はノートを閉じると、大きく伸びをした。

 少し前の日記を振り返ってみたが、あらためてとんでもない世界になったものである。

 日本はまだマシな方なのが救いか。

 生活インフラは半壊状態とはいえ、こうして日記を付けるぐらいの余裕はあるのだし。

 自宅で寝泊まりすることができるだけでも、恵まれている方だ。

 さて、そろそろ寝ようかと思ったとき……。

 部屋の扉がノックされた。


「はいよ~」


 俺が返事をすると同時に、ドアノブが回される。

 ゆっくりと扉が開かれていく。

 そこに立っていたのは……。


「梨香ちゃん?」


「こんばんわ。祐樹さん」


 ツインテールの美少女、梨香ちゃんであった。

 彼女は笑顔を浮かべながら、部屋の中に入ってくる。

 そんな彼女の格好を見て驚いた。

 なんと、スケスケのネグリジェ姿だったのだ!

 しかもノーブラなのか?

 胸の谷間がくっきり見えてしまっているぞ。


「えっと……梨香ちゃん。どうしてここに?」


 俺が尋ねると、彼女は満面の笑みになる。


「祐樹さんとお話がしたかったんです。お邪魔しますね」


 そう言うと、梨香ちゃんはずかずかと部屋に入ってきた。

 そして、なぜかベッドの上に座る。

 …………。

 あれれぇ~?

 なんか嫌な予感がしてきたぞう?


「あのー、梨香ちゃん? ひょっとして……」


 俺が恐る恐る問いかけると、梨香ちゃんは頬を赤く染めつつ答える。


「はい。今日はここで一緒に寝ます!」


 やっぱりぃ!?

 俺は心の中で絶叫する。


「あのですね、梨香ちゃん。年頃の娘が、男性の部屋で一夜を過ごすというのはどうなんでしょうかねぇ」


「大丈夫です。私、まだ処女なので」


 いや、そういう問題じゃない。


「とにかくダメだ。ほら、早く自分の部屋に戻りなさい」


 俺が促すと、梨香ちゃんはぷくぅとふくれた。


「むう……。だって、寂しいんですもん。パパとママは見つからないし、家には帰れないし……」


 彼女は魔物の被害者だ。

 両親は行方不明となり、自宅も全壊して住む場所を失った。

 だが、今の世の中において、それは極端に不幸というわけではない。

 街単位で全滅したような場所だってあるし、俺にしたって両親が行方不明だ。

 自宅が健在なだけ恵まれていると言えるかもしれないが……。


「でもね、梨香ちゃん。いくらなんでも、一緒に眠ることはできないんだよ。何か間違いがあれば、君の両親に顔向けができない」


 俺はなるべく優しく諭すように語りかける。

 家を失った彼女が俺に身を寄せている理由は、もともと俺たちが家族ぐるみの付き合いをしていたからである。


「もう! 祐樹さんの意気地なし!」


「おいこら、誰が意気地なしですか」


「ふん! 私のおっぱい見てドキドキしていたくせに!」


「うっ!? そ、それは……」


「いいもん! いつか絶対に、私が祐樹さんをメロメロにしてやるんだから!」


 梨香ちゃんはそう言って、自室に戻っていった。

 やれやれ……。

 前途多難だな。

 まあいい。


「ダンジョンの攻略を進めていけば、俺の家族にも梨香ちゃんの家族にも、きっと再会できるはずさ」


 俺はそう希望的観測を口にする。

 望みは薄いかもしれないが、その可能性はあるのだ。

 なにせ、俺の家族も梨香ちゃんの家族も、死体すら見つかっていないのだから。

 ダンジョン内という不思議な空間で生き延びている可能性はゼロではない。


「まずは、近くにある『東京ダンジョン』の攻略だな。明日からも頑張らないと」


 俺はそうつぶやき、ベッドで横になったのだった。

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