告白したつもりでした
浅葱
告白してなかったっけ?
小学生の頃から好きな男の子と始めた交換日記を、中学生になっても続けてる。
学区内に住んでいるから、互いの家の郵便受けに入れるのもそんなに苦じゃない。でも高校に行ったらどうなるんだろう。
同級生の男の子。私たちは中学三年生になった。進路の話はお互いに書いてない。彼はどこの高校に行くのかな。一緒のところならいいんだけど、なんだか聞けないでいる。
交換日記に書いてるのはあまり変わらない日常。テスト前にはあれが苦手、勉強やりたくないとか、部活が休みでつらいとかそんなことばっかり。だけどどちらも止めようとは言い出さない。
彼もきっと書くことは嫌いじゃないんだろう。
「今日は何を書こうかな」
土曜日の朝、郵便受けに入っていた何冊目かのノートに胸をときめかせて、ページをめくった。
そこに書いてあった、「告白された」の言葉に心臓が止まりそうになった。
彼はいつだって淡々といろんなことを書いてきて、そこに彼の感情は乗せられていないように見えた。ぶつ切りの羅列が私は好きだった。でも、「告白された」なんて書かれたのはこれが初めてだった。
告白されたからなんなんだろう。彼は私が、彼を好きだってことを知っているはずだ。
告白されたから付き合うことにしたとか?
そうしたらこの交換日記も止めなければいけないんだろうか。でもそんなことは一つも書いてない。
どうしよう。
混乱したせいか、小学四年生の頃初めて彼にノートを渡した時のことを思い出した。
「……あれ?」
そういえばある日の放課後、帰り道で意を決して「交換日記しないっ!?」って私の分を書いたノートを彼に差し出した気はする。
彼は「いいよ」と答えてノートを受け取ってくれたけど、あれえ?
「もしかして私……告白してなくない?」
ないのかあるのかどっちなんだ。
彼はなんとなく付き合ってくれてるだけ?
どうしよう。
とりあえず書かなきゃ。
告白って何を告白されたのかな?
私はずっと康太のことが好きだよ。
最近全然会ってないね。会いたいな。
それだけ書いて、
「ちょっと出かけてくるー」
親に断って家を出た。
「どこまで行くの?」
「ちょっとそこまで。すぐ戻るから」
本当にちょっとそこまでだ。小学校の帰り道は途中まで一緒だった。彼の家はうちから歩いて五分ぐらい。小学校からは彼の家の方が遠かった。自転車に乗ってもよかったけど、頬の熱が取れないから歩いて行った。
まだ土曜日の午前中なのに交換日記は彼のところに戻った。郵便受けにインして、踵を返す。
あーあ、私ってば何してんだろ。のんびり歩いて家に帰った。
宿題やんなきゃ。
あー、だるい。夕方から塾だ。こんな心情で勉強なんかできるのかな。
ノートは早ければ明日には戻ってくるだろうか。気づかなかったら月曜日かな。明日は雨が降らないといいな。
全然宿題に身が入らない。音楽でも聴けば気が紛れるだろうか。
ヘッドホンを出して、お気に入りのCDをかけよう。みんなスマホで音楽を聞いてるけど私はアナログ派なのだ。そういえばこのことを交換日記でも書いたことがあった気がする。彼の次の日記にはなんて書かれていたっけ。
「あー、無理……」
考えすぎて無理。
宿題は午後にしようと思った。
中学校に入ったら途端に会えなくなって、でも近所だからたまに顔は合わせた。面と向かって日記を手渡したことだってあった。彼はいつもぶっきらぼうで、でもそんな彼がどういうわけか好きで。
しょうがないじゃん。こーゆーのって理屈じゃない。
好きになっちゃったんだもん。
彼を嫌う要素もないし、彼以上に好きな人だってまだ現れてない。だから、私はまだこの先も彼を好きでいるんだろう。
……例えフられても。
フられるの、やだ。
「あー……」
なんであんなこと書いちゃったんだろうと頭を抱えた。今ならまだ修正がきくかもしれない。そう思って部屋を出ようとしたら、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
お母さんがパタパタとインターホンに飛びついた。
「はーい! はい、ああ、相田君? 久しぶりねー。美穂? いるわよ。呼ぶわねー」
えええええ?
「美穂ー! 相田君来たわよー。もー、約束してるならいいなさいよ~」
お母さんの手を動かす仕草がおばちゃんだった。
「え、あ、うん……」
約束とかしてないけど、会えるのは嬉しい。もしかして交換日記見てくれた、とか? まさかね。
玄関を開けたら、本当に彼がいた。つっかけのまま出る。
「どう、したの?」
「交換日記、読んだ」
「あ、うん……」
まだ、午前中だ。私は今さっき持っていったばかり。心臓が早鐘を打っているのがわかった。
「早川、俺は……はっきり言われないとわからないんだ」
「……うん」
そうみたいですね。私も小四の時に告白したつもりでいたよ。
「五年以上待たされた」
ん?
「俺も、早川が好きだ」
んんん?
一瞬何を言われたのかわからなかったけど、赤くなる彼の顔を見て、私の顔もどんどん熱くなった。
交換日記は、高校に入ってからも続けてマス。
おしまい。
仲良くて何より。今の子って交換日記とかするんだろーか(ぉぃ
告白したつもりでした 浅葱 @asagi
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