恋をした日に始めた日記

川木

恋をした日に始めた日記

○月×日

 今日から日記を始めることにする。と言うのも他ではない。恋をした。しました。恥ずかしい。隣の席の緑(みどり)ちゃん。めちゃかわーって初対面から思ってたけど、まじで可愛すぎて恋に落ちてしまった。


 高頭(たかとう)緑ちゃんは私の隣の席で、新入生代表をしていたくらいの優等生だ。隣の席だと気づいた時は、顔はすごい可愛いけど、ちょっと怖いかな? と思ってた。よろしくと声をかけても、にこりともしないでよろしくって言われたし。

 でも先日落とした消しゴム無言で拾ってくれて、いい人かもって思ったところで、昨日、帰り道、緑ちゃんが捨てられている子犬を自分のセーターでくるんで連れて帰るのを見てしまった。


 漫画みたいな展開で、べったべただと自分でも思うけど、ゴミ捨て場にためらいなく踏み入って段ボール箱出して、普通に自分の服を脱いで差し出すなんて、普通にできることじゃない。そんなの尊敬するに決まってる。

 そして好意をもって話しかけた今日、緑ちゃんは恥ずかしそうに大したことないと何でもないみたいに言って、それより子犬は無事だったよ。と教えてくれた。

 その、笑顔! 可愛かった。あんなに格好良く当然のようにすごいことをできるのに、恥ずかしがる姿のギャップ。可愛すぎる。


 そんなわけで、この恋が実るよう努力すると共に、気持ちを落ち着けるために日記をつけることにした。帰り道でこの日記帳を買った。私行動力ありすぎ(笑)

 この日記帳が埋まるころには、きっとこの恋がかなっていますように。なんてね。






○月△日

 毎日緑ちゃんに挨拶をしていると、緑ちゃんも段々私になれてきたのか挨拶の時の雰囲気も少しずつ柔らかくなってきた。

 緑ちゃんは休憩時間も教科書をひろげて予習復習を欠かさないのであまり声をかけるタイミングがないのだけど、朝の挨拶でちょっとは会話できるようになった。

 あの子犬は無事引き取り先も見つかったそうだ。よかったよかった。家で引き取るって言いたいくらいだったけど、残念ながらそう言う訳にはいかないし。

 緑ちゃんとこれからも朝のちょっとずつの会話で距離を縮めていきたいけど、私って恥ずかしがりやだから中々うまくお話できないんだよね。もっと頑張らなきゃ。






△月○日

 今日はやばかった。緑ちゃんとなんと一緒に帰ることになって、デートじゃんってテンションあげてたんだけど、帰り道ペットショップの前で足を止めた緑ちゃんが可愛すぎた。

 しかも、今度お休みの日に一緒に猫カフェに行くことになってしまった。いや私から誘ったんだけど、だって、可愛すぎて。家ではペット飼えないって残念がってるのみたら、そりゃ誘うでしょ。

 でもこれってなんちゃってじゃなくてガチでデートだし、まじで、あー、やばいやばい。こうなったらもう、緑ちゃんに本気出すしかないよね!






△月×日

 デート本番。緑ちゃんが可愛かった。もちろん動物も可愛いけど、そんなのどうでもいいってくらい、緑ちゃん可愛かった。

 緑ちゃんは顔は可愛いんだけどきっぱり系美人顔っていうか、釣り目の意志強めで初対面引いちゃうとこあるんだけど、それが猫ちゃん前にすると目じりが落ちちゃって、声もかたいのが高くなって猫なで声になってるのマジで可愛すぎる。

 普段真面目で、勉強教えてもらう時も私もすっごい真面目にしないとすぐ冷たい目になっちゃうから、こんなめっちゃ笑顔なの、感動する。

 緑ちゃんと距離をつめるつもりだったけど、ただただ可愛い緑ちゃんに私が惚れなおさせられただけだった。でもこの感動は日記にして残さないとね。

 緑ちゃんは猫カフェはじめてっぽくて最初緊張してて、何を頼めば? あ、猫、勝手に触っていいのかしらってきょどってたのも可愛かったし、最後の帰りたくないわね。ってぼそっと言ったのもたまらなくて、もうここに一緒に住もうって言っちゃったもんね。なに言ってるのよって返す緑ちゃんの笑顔。猫にしか向けてなかった柔らかさをこっちにも向けてもらえて、あっ、好きってなってちょっと挙動不審になっちゃったもんね。

 はー、好き好き。






×月○日

 緑ちゃんと私は今のところ良好な友好関係をつくれてるはず。緑ちゃんは基本塩対応だから私以外とお話するのも見ないし、放課後に一緒に図書室でお勉強するのも、押しかけなくても待ってくれるようになったし。

 お昼も食べて休憩の間は一緒してくれるようになったし。緑ちゃんはお母さんが作ってくれてるお弁当をいつも食べてるんだけど、お弁当箱が子供のころはやってたキャラクターの可愛いやつなんだよね。それでちょっと恥ずかしそうにしてるのも可愛いし、好きってなった。

 緑ちゃんを独り占めしてるみたいで、ほんと幸せ。


 なんだけど、そろそろ夏休みなんだよね。そうなると会えなくなってしまう。連絡先は学校で約束して実際に猫カフェに行く待ち合わせの時しか使えていない。

 やっぱ顔が見えないと、嫌がってるか分からないから不安で、学校ほどぐいぐい行けないんだよね。私のヘタレ!

 なんとか夏休みも会えるようにするのが目標。頑張るぞ私!






●月○日

 夏休みが、始まってしまった。心許してくれるようにはなったけど、まだ具体的な約束はない。緑ちゃんに会いたい。

 夏休みの宿題の進捗報告と言うか、たまに通話したりはしてくれているけど、会いたい。会いたいよぉ。






◎月△日

 ついに、緑ちゃんと会えた! というか、うちに今います! 色々あってしばらく家に一人になると言うことで、思い切って誘ったら我が家にその間泊まってくれることになりました。

 今お風呂に行ってるけど、その間私の部屋で寝泊まりするし。興奮して頭がおかしくなりそうだから今日記書いているけど、全然頭がまとまらない。

 こん―――


「おまっ、お前! なに見てんだよ!」

「わっ、ちょっと、今いいところなのに」


 突然怒鳴り付けられ、日記を取り上げられた。日記の持ち主である小川茜(おがわあかね)は顔を真っ赤にして日記を抱き締めるようにして隠そうとしている。


「お、お前! いくらなんでも見ていいものと悪いものがあるだろ!」

「えー、さっき自分で言ったんじゃない。私たちの間で隠すものなんてないって」


 茜は週末に引っ越しのトラックがくると言うのに全然用意できていなかった為、仕方なく恋人の私が荷物整理を手伝いにきてあげている。

 だと言うのに休憩だと言って漫画を読み出すので、仕方なく私も目についたものを読んでいたのだ。


 下着とかも全く手をつけてないから、さすがに見られたくないものはしておいてよと言う私に、自信満々で隠すものなんてねーよと言っていたけど、さすがに日記は恥ずかしかったらしい。

 と言うか、予想外すぎる。


「しょうがないわね、茜ちゃんは恥ずかしがりやでヘタレだものね。あ、私のこと緑ちゃんって呼んでいいわよ」

「ばっ、ど、どこまで読んだんだよ!?」

「まだ夏休みだけど」

「ーーーっ! うっ、わ、笑いたきゃ笑えよ!」


 顔を真っ赤にした茜はそう怒鳴りつけて私に背中を向けた。


 笑いはしないけれど、日記の内容は予想外のことばかりだった。まず入学してすぐに出会った茜のことを怖かったのは私のほうだ。

 金髪でピアスもあけてて、制服の上にパーカーをきて、ヤンキー丸出しの格好をして、初対面も席につく前に私の顔を見るなり舌打ちして

「ちっ……よろしく」

 とめちゃくちゃ感じ悪く挨拶してきた。翌日からも挨拶はしてきたけど、「よぅ」だったし目もまともにあわせないから、ほんとについでにくらいで普通に感じは悪かった。

 なのに初対面から私の顔がいいけどびびる。とか思ってて、あまつさえ子犬の時に惚れてたって、嘘でしょって思わず言ってしまうレベル。

 確かにそれからちょっとずつ話しかけてくれるようになって仲良くなっていったけど、基本態度は悪くて口も悪かった。

 猫カフェに住むとか言ったのも、猫どれだけ好きなのって思って突っ込んでたけど、プロポーズの意味だったとか、わかるわけない。


 可愛すぎる。見た目に反して優しいし可愛いって思うようになって、高二になってクラスが分かれた時に、私から思いきって告白して恋人になってもらったけど、まさかここまで可愛いことを考えてたなんて。


「別に笑わないわよ。むしろ、嬉しいわ。それにとっても可愛い。ますます好きになっちゃったわ。これから一緒に暮らすんだし、恥ずかしがらずにもっと素直になってもいいのよ」

「っ、うっせー。ばーか」


 この春から同じ大学に通い、同じ部屋でルームシェアをする予定だ。

 茜は口下手で肝心なことは黙っちゃうところがあるけど、優しくて可愛くて頼りになって、ちゃんと私のこと思って大事にしてくれてるのは伝わってたし、大好きだ。だけどまさか、まだこんなにも可愛さを残していたなんて。

 日記だとこんなテンションでまるで内気で弱気な女の子みたいで、私のことめちゃくちゃ好きだったなんて。笑うわけがない。態度でわかっていても、言葉であまり言ってくれない茜だから、こんなに思ってくれてたなんて本当に嬉しい。


「茜、大好きよ。これからもよろしくね」

「……ん」


 照れてそうぶっきらぼうな態度しかとれない茜。だけど内心は想像の何倍も喜んでると知って、私はたまらなくなってまだ照れながらも振り向いた茜に抱きつき、そっとキスをするのだった。


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