第96話 漢(おとこ)の意地

 戦況はどこも一進一退だった。

 呂青の腕の見せどころである。


「千騎は馬超隊を援護してくれ! 五百が李粛隊を! 五百が胡軫隊を! 五百が徐栄隊を! 残りの五百は俺についてこい!」


 さっそく高順が躍動していた。

 陥陣営をぶつけて相手の陣を凹ませる。


 応戦しているのは淳于瓊だ。

 上手く兵を散らせてダメージを抑えているが、イライラしているのが伝わってきた。


 呂青は淳于瓊の隊に攻めかかる。


 三千くらいの敵が追ってきた。

 そこに高順が襲いかかり挟み撃ちにする。


「高順は大丈夫そうか?」

「はい、私一人で十分でしょう」

「さすが呂布軍筆頭だな」


 忙しく動いている張遼が見えた。

 相手にしているのは張郃隊である。


 向こうは防御重視の陣を敷いていた。

 張遼の目をもってしても弱点が見つからない。


「ついてこい! 張遼隊を援護する!」


 呂青は弓矢が届かないギリギリの距離を駆け抜けた。

 攻めかかると思わせることで張郃にプレッシャーを与える。


 張遼と合流した。


「戦況はどんな感じだ?」

「張郃は厄介な男です。夏侯淵のように隙を見せてくれません」

「分かった。於夫羅隊の弓騎兵を少し借りてくる。張遼なら突破口を見つけられるだろう」

「助かります、若殿」


 於夫羅のところへ駆けた。

 快く千騎を貸してくれた。

 これで張遼も問題ないだろう。


 孫策と曹操は大激戦だった。


 孫策が次々と部隊を繰り出して波状攻撃をしかける。

 それに対して曹操も目まぐるしく陣形を変えて応戦している。


 高度なコミュニケーションに似ていた。

 もし孫堅が生きており、曹操と対峙したならば、これと似た迫力があるかもしれない。


「下手に加勢しない方がいいな。かえって孫策軍の邪魔になる」


 馬超のところへ向かった。

 こちらも負けないくらいの死闘である。


 馬超が押して押して押しまくる。

 何となく分かっていたが、劉備が袁紹から借りている三万は質が良くない。


 しかし張飛が陣頭で奮戦する。

 すると未熟な兵士も勇気をもらう。


 張飛一人の活躍により全体に魔法がかかっている。


「若殿! 劉備が前線へ出てきます!」

「おい、無茶があるだろう。馬超隊は羌族がいるから強いぞ」


 反応したのは部将の龐徳だった。

 劉備を見つけて親衛隊をなぎ倒す。


 ついに龐徳と劉備が斬り結んだ。

 実力差は明らかで、劉備の手から剣が飛ぶ。


 さすがに死んだか……。

 そう思った時、横合いから槍が伸びてきた。


 趙雲である。

 龐徳の隊を押し返す。


 遠いので分からないが『邪魔なので殿は本陣にいてください!』みたいなことを趙雲が叫び、劉備は悲しそうに下がっていった。


「関羽の姿は?」

「どこにも見えません」


 劉備隊にも何回か突撃しておいた。

 探してみたが前線に関羽の姿はない。


「次は華雄隊の支援に向かう! 顔良隊の背後を狙うのだ!」


 途中、敵の遊撃隊を見かけた。

 相手もこちらに気づき向きを変えてくる。


「俺が囮になる! 相手の背後から食らいつけ!」


 挟撃して一割くらいの損害を与えた。

 深追いはするな、と部下に命じる。


 華雄の姿が見えた。

 顔良の兵士に囲まれつつある。


 華雄が戟を振り回し、何とか包囲を突破する。

 しかし抜けた先でまた囲まれる。


 呂青は隊を五十騎ずつに分けた。

 蜂のように様々な角度から刺しまくる。

 敵と敵の隙間から顔良の姿が見えた。


「攻めの手を休めるな! 相手の注意を引きつけろ!」


 顔良が動き出す。

 自分で華雄を討つ気になったらしい。


 二人が直接武器を交えた。

 顔良は巨大な矛を持っておりパワーで華雄を押しまくった。


 華雄が落馬しそうになる。

 顔良の胴に飛びつき、相手も馬から引きずり下ろす。


 両軍の兵士がそこに殺到した。

 味方が引きずるようにして華雄を救出した。


「生きている! 華雄殿は生きているぞ!」


 その手には顔良の首が握られていた。

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