第94話 もし貴殿が討たれたら

 今回の遠征にも参謀として陳宮が従軍していた。


「警戒すべき将は……」


 円卓と地図がある。

 陳宮の手が軍隊に見立てた駒をつかむ。


「まず劉備軍。袁紹から兵を借りており数は三万です。劉備そのものは平凡な将です。ですが旗下の関羽、張飛ちょうひ、趙雲はいずれも一騎当千で侮れません。特に関張の二名。認めたくありませんが、呂布将軍に匹敵しましょう。百年に一度の猛将が一つの戦場に三人います」


 呂布を見た。

 泰然と腕組みしている。


「それほどの将なのか。呂布将軍と同等とは、にわかに信じられない。大将の劉備は勝ったり負けたりの男だろう」


 言ったのは馬超である。

 前の戦いで関羽を見ていないのだ。


「あくまで個人の武力の話です。とにかく大将の劉備を叩くのがよろしい。劉備も三万の兵を与えられるのは初めてです。隙が生じましょう」

「ふむ……」


 馬超の成長が著しいことを知っている呂青は、


「馬超殿は若いですから。戦闘が長引けば体力で分があるでしょう。元気な虎だろうが、疲れた虎だろうが、倒せば同じ虎です」


 とフォローしておいた。

 馬超はじいっと劉備の駒を睨みつけている。


「続いて袁紹軍ですが……」


 顔良がんりょう文醜ぶんしゅうの二枚看板。

 張郃ちょうこう高覧こうらん淳于瓊じゅんうけいといった武将について予想される配置が告げられる。


「私が思うに顔良と文醜の二名は袁紹から過大評価されています。この二名は負け知らずで、派手な戦い方をしますが、向こう見ずな一面があります。辛辣な言い方をすると、格下としか戦った経験がありません。上手く誘い出せば首を討てるでしょう」


 陳宮は駒をスライドさせる。


「先陣は顔良。袁紹はこれを内部に明言しています。どうやって顔良を倒すのか、今回の戦の鍵となるはずです」


 すると一名が手を挙げた。


「呂布将軍、私に先陣を命じてほしい」


 華雄だった。

 呂布は片目をつぶる。


贔屓目ひいきめを抜きにすると、五分五分だと思っている。つまり二回戦ったら一回は華雄殿が死ぬ」

「本来なら五年前に散っていた命です。道連れにして顔良を殺せたら儲けものです」

「分かった」


 呂布はあっさりOKした。


「その代わり華雄殿が討たれたら、俺が顔良を叩き斬る」


 華雄は拱手した。

 その口辺に笑みが浮く。


 続いて曹操軍の傾向と対策について話し合われた。

 こちらは孫策が手を挙げた。


「俺らと曹操軍は同じくらいの兵力だ。あと曹操は揚州兵と戦った経験に乏しい。互角以上の戦いができると自負している」


 呂布の口からは「任せた。孫策軍を頼りにしている」とだけ告げられた。

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