第85話 邪魔者はすべて斬る

 二千騎が与えられた。


 遊撃隊である。

 戦場を駆け回り味方をサポートするのだ。


 互いの戦力を熟知しており、并州で勝利した実績もあるから、呂青にこの大役が与えられた。


「この一戦で曹操の命運を断つ!」


 開戦の鐘が鳴りまくる。


 いきなり呂布と曹操の本隊がぶつかった。

 陳宮が予想していた通り、曹操は交戦しつつ陣を下げていく。


 左手の山から喚声が上がる。

 襲いかかってきたのは夏侯惇だった。

 味方からは高順が応戦した。


「第一将同士、雌雄を決しようぞ!」


 また喚声が聞こえた。

 次に出てきたのは夏侯淵かこうえんである。

 すぐに張遼が対応した。


「神速の夏侯淵か。相手にとって不足なし!」


 互角の戦いが続いている。

 曹操の本陣は崩れそうで崩れない。


 左右の山から曹仁そうじん曹洪そうこうが襲いかかってきた。

 味方からは徐栄と華雄が迎え撃つ。


「四年前の滎陽けいようを忘れたわけではあるまいな!」


 徐栄は過去に曹操軍を破っている。

 その時に曹操は馬を失い、曹洪の馬を借りて生き延びていた。


 どちらの士気も高いから一進一退の攻防となる。


 呂青は遊撃隊を走らせた。

 敵部隊の側面にしつこく突撃する。


 関羽の姿を探した。

 それらしい影はどこにも見当たらない。


「これで半分くらいの兵が出てきたが……」


 伏兵は十段ある。

 まだ六回凌ぐ必要がある。


 五撃目は楽進がくしんで、六撃目は李典りてんだった。

 ようやく出番が来た! と言わんばかりに馬超と徐晃が飛び出す。

 この二人は敵陣を押しまくった。


 七撃目は于禁うきんで、八撃目は朱霊しゅれいである。

 すぐさま李粛と胡軫が迎撃する。

 気迫と気迫がぶつかった。


 ふいに地鳴りのような音がした。

 それまで温存していた呂布直下の騎馬隊が動き出したのである。


 曹操の本陣が四分五裂する。

 大将を討たせるな! と曹操軍も猛反撃してくる。

 一点だけ血の濃いところがあり、その中心には赤兎にまたがった呂布がいる。


 九撃目の曹純そうじゅんと十撃目の韓浩かんこうが出てきた。

 味方からは張繍と於夫羅が襲いかかる。


 これで曹操軍は手札を出し尽くしたことになる。

 巨大な一個のフィールドで十一個の戦争が同時に起こっている。


「関羽の姿はあるか⁉︎」

「見えません!」


 曹操軍の遊撃隊を見つけた。

 呂青は隊を千騎と千騎に分ける。

 前と後ろから包囲して向こうの指揮官を殺した。


「若殿、戦況が動きそうです!」


 とうとう力のバランスが崩れ始めた。

 呂青は遊撃隊を一つにまとめた。


 決着しそうなのは『曹純vs張繍』と『韓浩vs於夫羅』である。

 十の組み合わせの内、この二つはミスマッチが大きかった。


 曹純も韓浩も大役を任せられた経験に乏しく、いも甘いも知り尽くしている張繍や於夫羅に太刀打ちできない。

 しかも於夫羅には熟練の弓騎兵がある。


 呂青はダメ押しした。


「弱い者から狙うのが鉄則だ。敵将には気の毒だがな」


 しつこく突撃して、まずは曹純を、続いて韓浩を敗走させる。

 それまで粘っていた楽進、李典、于禁、朱霊も一気に苦しくなった。


 高順と夏侯惇の決着はついていない。

 とはいえ陥陣営の火力は凄まじく、指揮しているのが夏侯惇でなければ真っ先に敗走していただろう。


「敵の武将は無理に追わなくていい! 曹操を生け捕りにするのだ!」


 飛電の腹を蹴った。


 曹操の本陣は粘っている。

 奇跡の逆転を信じているのだろう。


 呂青は遊撃隊で先回りすることにした。

 敵の退路さえ断ってしまえば奇跡の芽も消える。


「前方に不思議な隊がおります!」

「いよいよ来たか」


 数は二千くらい。

 装備はマチマチである。

 陣頭に大男がおり、重さ八十斤(約十八キロ)ありそうな大刀を持っている。


 関羽だろう。

 劉備軍の敗残兵を集めていたらしい。


「この関雲長、曹操殿を助けに参った。邪魔立てする者はすべて斬る」


 馬と馬がすれ違う。

 ものすごい痺れが両手を伝い、呂青の持っていた槍は一撃で壊されてしまった。

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