第80話 将兵たちの家族
長安を出立する前夜になった。
呂青は
横では呂琳が寝ている。
モゾモゾと動く音がして手が伸びてきた。
「寝つけないのか?」
「うん、とても緊張してきた」
「出陣するのは俺なのだ。どうして琳が緊張する」
毎夜のように妹の体を抱いている。
二人が合体している時『兄上……兄上……』と甘い声をもらす呂琳が一番可愛かった。
「兄上が遠征している最中に赤ちゃんが生まれちゃったらどうしよう」
「妊娠しているか半々だろう」
小さく笑った。
呂琳は事あるごとに『妊娠したかな?』といって自分のお腹を気にする。
「しばらく妊娠しなくていいさ。ずっと琳の体で楽しめる。以前より反応が良くなった」
「はぅ……恥ずかしい……」
すっかり女の顔になった呂琳は布団の中に隠れてしまった。
「あと二年くらいしたら平和になっているかな」
「俺はそう信じている。曹操を倒す。袁紹を倒す。最低あと二回は勝つ必要がある。それもギリギリの勝利じゃない。文句の付けようがない大勝利が必要だろうな」
呂青は筆を置く。
「大丈夫さ。父上は負けない。琳の体には最強の血が流れている」
母親になった呂琳の姿を想像してみた。
……。
…………。
出陣の朝になった。
これから遠征する父や旦那を見送る姿が長安のあちこちで見られた。
「それじゃ行ってくる」
「ご武運を」
木剣のお守りを首にかけてもらう。
途中で兵を吸収しつつ洛陽を目指す。
寿春を目指す部隊は別に動いており、合計で二十万の陣容となる。
必勝のはずだ、と飛電の背で思う。
曹操は精鋭を率いて徐州を攻めている。
残っているのは老兵だったり未成年の兵士が中心で、食料の備蓄もそこまで潤沢ではない、という情報をつかんでいた。
長安を振り返ってみた。
郊外には樊稠と張済の兵がおり、淡々と練兵している。
樊稠も張済も西涼の出身である。
漢王朝がスピーディーに復活できたのは、二人が董卓の残党をまとめてくれたお陰といえる。
洛陽に到着した。
陳宮や張邈と手紙を交換した。
ここまで予定通りである。
呂布が進軍すれば兗州の大半が手に入る。
曹操は徐州で孤立するだろう。
いくら大将が勇敢でも兵士たちは戦意喪失するはずだ。
高順と会った。
昨年赤ちゃんが産まれており、幸せそうなオーラが出ていた。
「やっぱり赤子はいいものか?」
「はい、今では嫁の生き甲斐です」
産まれたのは男の子で、一緒に馬で駆ける日が楽しみらしい。
「琳も子供を欲しがっている」
「若殿と姫様の子供なら、男の子だろうが女の子だろうが末恐ろしい予感がします」
「あはは……父上の孫だからな」
呂布が将校らを集めた。
明日の侵攻に向けて軍議をやった。
「寿春の方も予定通りだ。必ず曹操に打ち勝つ。そうすれば天下の半分が漢王朝のものとなる」
夜は兵士に肉を振る舞った。
戦争が終わればこの百倍は食べられる、と説明したら皆がやる気になった。
翌朝になる。
呂青は旗下の前に立つ。
「陳宮の兵が道案内してくれる。道中で出会う兵士はすべて味方だと思え」
兗州に上陸した時、ありえない報告が飛び込んできた。
「長安が攻められております!」
早馬は西から走ってきた。
「おかしいだろう。長安は官軍が守っている」
「樊稠と張済が謀反を起こしました! 五万の兵で長安の守備兵と交戦しております!」
やられた! と思った。
「すぐに父上に知らせる!」
長安が一番手薄になるタイミングを狙われた。
袁紹か曹操による調略の可能性が大きかった。
「父上! 作戦を中止しましょう!」
「どうした、青?」
「長安が攻められました! 裏切ったのは樊稠と張済です! 袁紹か曹操に内通している可能性があります!」
「むむ……むむむ……」
呂布もマズさを悟った。
「歩兵隊は陳宮や張邈と合流せよ! 東郡と陳留郡を死守するのだ! 騎馬隊はこれより長安へ引き返す!」
長安に妻子を残してきた将兵らに最大級の激震が走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます