第79話 乱世の奸雄・曹操

 呂青が并州で戦っていた頃……。

 曹操は徐州へ攻め入って連戦連勝していた。


 徐州はしばらく平和を謳歌していた。

 その代償として将兵の弱体化が進んでおり、歴戦の曹操軍に十数城を奪われてしまった。


 呂布は牽制のため軍を動かした。

 曹操の本拠地である許と曹操の故郷である譙を攻めたのである。

 曹操がすぐに兵を返したので小競り合いで終わっている。


 これが第一次徐州侵攻である。

 呂青は順風隊を使って曹操軍の詳しいデータを集めていた。


「今年も徐州侵攻の準備を進めているようです」

「ふむ、本気で陶謙を滅ぼす気らしいな」


 徐州には金持ちがたくさんいる。

 豪族の糜竺びじくなどが有名だ。


 金をばらまいて兵士を集めて、レジスタンス運動を行っているから、曹操よりも陶謙の方が御しやすいと判断したようだ。


「しかし解せないな。また徐州に攻め込めば背後から呂布軍が襲いかかるが……」


 呂青は地図に視線を落とす。


 北の袁紹は沈黙していた。

 并州の失敗に懲りて一時休憩らしい。


 曹操は単独で動いている。

 狙いはもちろん徐州全域の支配だろう。


 これは極秘の情報なのだが……。


 向こうの有力者が離反を申し出てきた。

 陳宮ちんきゅう張邈ちょうばくの二名である。


 どちらも勤王の心の持ち主で『呂布と王允は逆臣である』という袁紹の主張に賛成したくない人々だった。


 陳宮も張邈も遠征メンバーに加わっていない。

 留守を任されており、陳宮はとう郡を、張邈は陳留ちんりゅう郡を守っている。


 そこには将兵の家族もたくさん住んでおり、二将の寝返りが曹操軍に与える精神的ダメージは計り知れない。


 百回戦ったら百回勝てると呂青は思った。

 呂布が二十万で攻めて、陳宮と張邈が離反して、徐州軍と挟み撃ちにする。


 曹操軍には勝ち目がない。

 天の時、地の利、人の和、いずれも負けている。


「何か怪しい……」


 以前に呂布から『袁紹と曹操はどちらが手強いと思う?』と質問されて、呂青は『曹操は乱世の奸雄かんゆうと評されていますから。警戒すべきは曹操でしょう』と答えている。

 事実、曹操は絶体絶命のピンチを二回も切り抜けている。


 袁紹だって勝率は高い。

 たくさんの兵力を動員して着実に勝ち星を積み重ねているイメージだ。

 袁紹は正攻法を好むところがあって、王者らしく堂々としている反面、意外性を発揮することは少ない。


 何を考えているのか分からない男。

 曹操のそういう不気味さは最盛期の董卓に似ている。


 呂布から呼び出された。

 曹操征伐に向かうから出陣しろ、という内容だった。


「洛陽と寿春の二方面から攻める。曹操軍に弱点があるとしたら、曹操一人の能力が突出していて、それに匹敵する軍人がいないことだろう」

「はい、私も同意見です。こちらが二面作戦を仕掛けたら、曹操は腹心の夏侯惇かこうとんに一軍を委ねるしかないでしょう」


 夏侯惇は軍人として優秀である。

 でも曹操の指揮下でパワーを発揮するタイプだった。

 夏侯惇を単品として考えた場合、高順、張遼、徐栄、馬超、徐晃より戦の駆け引きが上手いとは思えない。


「曹操の奇策は常に警戒する。青の順風隊を頼りにしている」

「その点は抜かりありません」


 平静を装ったものの、心の奥の方にザラッとする嫌な感触があった。

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