第68話 どっちが本物か決めよう
圧勝だった。
午前中に始まった呂布軍と袁術軍の一戦は正午を迎える前に終わった。
まず樊稠と胡軫が街道に布陣した。
袁術軍と軽く交戦してから下がった。
すると右手から徐晃と馬超がやってきた。
二人もあまり粘らずに退却していった。
続いて左手から徐栄と華雄が襲いかかった。
少しだけ敵兵を蹴散らすと後退していった。
「全軍、止まれ!」と張勲は命じる。
そこにもう一人の大将軍、橋蕤の馬が駆けてくる。
「怪しいぞ、橋蕤。相手は勇猛なことで知られる涼州兵だ。背中を見せて逃げるなんて、絶対に何か企んでいるぞ」
「同感だ、張勲。おそらく伏兵だろう。敵にはやり手の徐栄がいる。あの曹操を打ち負かした男だからな」
張勲らは周囲を警戒させた。
地図を広げて、伏兵を置けそうなポイントを確認し、進軍ルートを練り直す。
「伏兵が来ると分かっていたら怖くないわ。返り討ちにしてやる」
張勲が進軍を再開させた時だった。
「りょ、呂布の部隊が見つかりました!」
斥候が駆けてきた。
「どっちだ? 前か? 右か? 左か?」
「いえ! 真後ろです!」
「はぁ⁉︎ ありえぬ!」
すると張勲軍の後方から兵士らの悲鳴が聞こえた。
まずは張遼が斬り込んできて、そこに呂布と高順が続いた。
「おい、橋蕤! お前が伏兵とか言うから、モタモタしていたら、背後に回り込まれてしまったではないか⁉︎ 負けたらお前のせいだぞ!」
「黙れ、張勲! これから戦闘が始まるのだ! 戦う前から負けた時の事を考えるやつがあるか!」
「うっ……確かに」
橋蕤は開戦の鐘を鳴らしまくった。
「生きていたら再会しよう」
「すまん、つい怒鳴ってしまった」
「いいさ。この戦が終わる頃には、俺たちが死んでいるか呂布が死んでいるか、二つに一つなのだから」
それが二人の最後の会話だった。
まず陳紀が馬超に斬られてしまった。
程なくして楊弘も華雄に首を討たれた。
左右の将を失った袁術軍は浮き足立つ。
「梁綱様! もう戦線を支えきれません! 樊稠と胡軫が来ます!」
「だから俺は反対したのだ! 孫堅が生きていた時代、呂布に大敗したのを忘れたのか!」
梁綱は信頼できる味方だけを連れて戦場から逃げようとした。
それを目ざとく発見した張遼が軽騎兵で追いかけて殺した。
「おい、張勲」
赤兎にまたがった呂布が張勲の前に立ち塞がる。
「この世に大将軍は二人も要らないだろう。どっちが本物か決めようじゃないか」
「勝った気になるなよ、呂布。慢心は身を滅ぼすぞ」
張勲も槍を構えた。
「そうか、そうか。慢心は身を滅ぼすか。むしろ袁術に伝えるべきだったな」
呂布の月牙がキラリと光る。
それが張勲の最後の景色となった。
相方の橋蕤も同じ頃に死んでしまった。
「好機なり! 好機なり! 天与の好機なり!」
徐晃が斧を振り回しながら突撃していく。
立派な鎧をまとった将がいたので殺したら橋蕤だった。
トドメは高順の陥陣営である。
残っている部隊を片っ端からパクパクと食べていく。
後で戦場を調べさせたら李豊と楽就の死体が見つかった。
これで七将が死んだ。
袁術にとっては両手両足をもがれたに等しかった。
……。
…………。
「生き残った袁術軍の兵士の話を勘案すると、以上のような流れとなります。つまり我が軍の圧勝です」
「詳細な報告ありがとう。さすが父上だ」
相手に伏兵を意識させて警戒心を逆手に取る、という作戦は徐栄が立案したらしい。
「新参の馬超殿と徐晃殿も大活躍してくれて何よりだ」
白銀に燃える太陽を、呂青は并州の地から見つめた。
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