第69話 袁術のプライドと妄想

 孫策からも攻められたことで万策尽きてしまった袁術であるが、名門の誇りだけは捨てようとしなかった。


 犬猿の仲だった袁紹に助けを求めたのである。

『皇帝の座を譲ってやる。だから十万の兵を貸してくれ』と。


 もちろん袁紹の返事はノーだった。

 そこでライバルの曹操に救いを求めた。


『董卓が洛陽を牛耳っていた時、妻子(べん夫人や曹丕そうひたち)を守ってやっただろう。あの恩を返す時は今ぞ』


 やはり曹操からの返事もつれなかった。

『袁紹のところへ向かうなら、俺の領内を通る時は攻撃しないでやる』くらいの回答だった。


 袁術は仕方なく財産を馬車に積んだ。

 帝都の寿春を捨てて逃げたのである。


 ところが愛妾をたくさん連れていたのでスピードが遅く、孫策の軍が背後まで迫ってきた。

 息子の袁燿えんようは父の前にぬかづいた。


「お願いです、父上! 孫策がそこまで来ています! 女と財宝を捨てれば何とか逃げられましょう!」

「おおっ! 孫策が来たか! やっぱり最後は朕を見捨てなかった!」


 袁術は高らかに笑った。

 現実と妄想を区別できなくなっており、袁燿は涙した。


「これより反撃開始である! 皇帝袁術の親征であるぞ!」


 それが袁術の最後のセリフとなった。

 ものすごい量の血を吐いて絶命したのだ。


 生きたまま捕虜になるくらいなら死ぬ!

 そんなプライドが袁術に血を吹かせたのかもしれない。


 奪われていた玉璽は孫策たちが取り戻した。

 袁燿と戦死した武将の家族らは長安へ送られることになった。


「もうすぐ玉璽が長安へ届きます」


 呂青が報告すると、劉協は近習たちと手を取り合って喜んだ。


 孫策からの使者が到着した。

 周瑜と魯粛ろしゅくの二名であり、劉協や王允と直々に対面した。


「孫堅孫策の親子は天下の大忠臣である」


 劉協は二代の活躍を褒め称えた。


 孫賁そんほん孫静そんせいといった功労者にも官位が授けられた。

 あと周瑜の美男子っぷりが長安で話題となった。


 ……。

 …………。


 後日、呂布は劉協から「なぜ袁術は滅びたのか?」と問われた。


「袁術が名門なのは漢王朝あってのことです。その男が漢王朝に逆らうのは、木が地面と絶交するようなもので、滅びるのは必定でしょう」


 この単純明快な意見には老臣の盧植もうんうん頷いて「呂布将軍は戦だけの男じゃない」と評した。

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