第66話 食う者、食われる者
「兄上、何をやっているのですか?」
「
張衡というのは百年くらい前の発明家、数学者、天文学者である。
官僚や文人としても活躍したが、厳格な性格だったため、時の皇帝には重用されなかった。
張衡は水時計の他、世界で初の動力付き渾天儀(天体の動きを再現するやつ)を発明した。
地震感知器も作ったし、月の光は太陽の反射だと理解していたし、インド人よりも早く円周率の近似値を求めていた。
その上絵画の才能もあり、多数の秀作を残している。
稀に歴史に出てくるスーパーマルチ人間である。
ちなみに張衡の生きていた時代から荊州では学問が盛んとされていた。
「本当はもっと良質な時計を作りたい。戦争が終わってから考えようと思う」
「ふ〜ん……」
呂白は学問が好きなので張衡の書を興味深そうに見つめた。
「張衡のような発明家は再び現れますかね?」
「天下は広いからな。探せば今も一人くらいいるだろう」
呂青は張衡の書を妹に譲った。
コレクションが増えたことに呂白は大喜びした。
漢王朝は着々と失地回復しつつある。
司隷、并州、涼州については大半を取り戻した。
そのせいで袁紹、曹操、劉表なんかと国境(?)を接している。
版図を広げているという意味では南の袁術にも勢いがあった。
といっても実態は配下の孫策軍が一人気を吐いているだけである。
袁術の本隊は曹操の土地に攻め入って、手痛い反撃を食らい、むしろ領土を削られていた。
呂布と王允が相談して、徐州の陶謙と手を組むことを検討していた。
陶謙は袁術とタッグを組んでいたが、あまりの頼りなさに動揺しており、
『袁術が滅んだら次は俺が殺させるかもしれんぞ……』
と気づいたらしい。
かといって袁紹、曹操と和解するのも難しいから、遠くの長安に秋波を送ってきたのである。
そのくらい袁術は落ち目だった。
呂青は天下統一に向けて諜報部隊を倍増させていた。
今日呼びつけたのは揚州に派遣している順風隊だ。
「孫策の手勢はどのくらい集まった?」
「最初二千だったものが一万となり、もうすぐ二万を超えますね」
「すごいな。父親の勢いを超えるな」
土着の豪族がパトロンとして孫策を支援したのが大きかった。
その中には盟友の周瑜も含まれていた。
「孫策はまだ無位無官だろう」
「袁術が官位を与える約束でした。が、反故にしたようです」
「嫌がらせの達人だな、袁術は。ある意味、行動が読みやすいといえる」
袁紹も袁術も勝手に官位をバラまいていた。
だから同じ時代に同じ地位の人間が複数存在している。
大将軍の地位だって例外ではない。
呂布に嫉妬した袁紹が『名門の俺こそ大将軍に相応しい』と周囲に豪語していた。
「孫策に手紙を送ろう。呉郡太守に任命する用意があると」
呉郡は亡父孫堅の故郷である。
孫策の生まれ育った土地だから特別な思い入れがあるはずだ。
「皇帝モドキの袁術が勝手に作った地位じゃない。歴とした漢王朝の官位である。呉郡の人々も孫策を歓迎するだろう」
むろん条件はある。
袁術と手を切って討伐に協力すること。
「これから揚州が騒がしくなる。お前たちの頭に伝えておいてくれ」
「承知です」
呂青の手紙と金子の袋を持った兵士が出立していく。
寿春にいる順風隊からも報告が入ってきた。
「袁術がたくさんの占い師を集めているようです」
「ほう、面白いことを考えたな」
『寿春に
『新しい天子が誕生する予兆である』
そんな噂を流させているらしい。
《作者コメント:2022/04/29》
今更ですが『一刻』の長さは約十五分(1日100刻制)でしたね……大汗。
過去話を修正しています!
※第39話
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