第51話 呂青 vs 孫策

 六騎の内、もっとも若い男が呂青に挑んできた。


「いざ尋常に勝負!」


 得物は戟である。

 攻めっ気があり一撃だって重い。


 呂青は何度か相手の斬撃を受け流した。

 隙を見つけて反撃したが、穂先は鎧にぶつかってしまう。


「若いのにやるじゃねえか」

「お前もな」


 そうだ。

 若いのだ。

 良さそうな馬に乗っている点も呂青と酷似している。


 すぐに十合打ち合い、二十合を超えた。

 長い勝負になりそうだな、と思う。


余所見よそみしてんじゃねえよ!」


 戟の巻き起こす風が呂青の頬をかすめる。


「一騎討ちは愚だ」

「はぁ⁉︎」

「見せ物としては面白い。が、武将たるもの、戦況をコントロールすることに専念すべきだ」

「訳分からんこと言ってんじゃねえ!」


 暑苦しい。

 けれども魅力がある。

 そんな男だと思った。


 呂青は飛電の脇腹をトントンした。

 合図を受けた飛電が相手の馬にタックルをかます。

 この一年、練習してきた動きだ。


 若武者のバランスが崩れた。

 その腕に一撃を与える。


「てめぇ……」


 皮が裂けて骨の一部が露出していた。

 なのに男はニヤッと笑う。


「ぶっ殺す!」


 戟のパワーとスピードが一段上がった。

 怪我したくせに痛くないのか⁉︎ と呂青は面食らう。


 左腕に一撃もらった。

 火傷したような痛みが走る。

 傷口からは骨の一部が露出しており、こぼれた血が飛電を濡らした。


「へっへ……これで互角だな」

「やめよう。どちらか一方が死ぬ」

「そのために勝負しているんじゃねえか!」


 男と鍔迫つばぜり合いのような形になった。


 こいつ、頭突きを狙っているな。

 その作戦を看破した呂青はカウンターの頭突きを合わせた。


「いってぇ!」


 恐ろしくタフな男である。

 脳震盪のうしんとうを起こしてもよさそうなのに反撃してきた。


「生きて帰る。妹と約束した。だから俺は死ねない」

「奇遇だな。俺にも妹がいる。名を尚香しょうこうという」

「気が強そうな名前だな」

「へっ……まあな」


 呂青は槍を構える。

 向こうも戟を持ち直す。

 一度すれ違った時、こちらに近づいてくる白馬が見えた。


「やめろ! 孫策そんさく! 父君の言いつけを破るな!」

「邪魔するな、周瑜しゅうゆ! これは一対一の戦いなんだ!」

「アホか⁉︎ 後退の鐘が聞こえないのか⁉︎ 軍令違反だぞ!」


 孫堅は兵士を小さくまとめて戦線を下げていた。


「袁術が逃げた。やがて兵糧が尽きる。作戦の練り直しだ」

「くそっ! 初陣なのにツイてねぇ!」


 孫策は一度背中を見せたが、すぐに止まった。


「俺は孫文台の息子、孫策だ。お前の名は?」

「呂奉先の息子、呂青だ」

「どうりで……」


 孫策は爽やかな笑顔を一つ残してから去っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る