第38話 天子様を探せ!

 呂青と呂琳は走っていた。

 大きな門のところに詰めかける大勢の兵士が見えた。


 彼らは「我らの主君を返せ!」と口々に叫んでいる。


 宦官と思しき人物が壁の上に出てきた。

 かぶとが付いたままの生首を投げてくる。


 何進の首だった。

 遠目なので目視できたわけじゃないが、兵士らの反応を見れば一目瞭然だった。


 なぜ何進が呆気なく殺されたのか理由は分からない。

 皇太后(何進の妹)が呼んでいるとか、その手の罠に引っかかったのだろう。


 兵士らが巨大な丸太を運んでくる。

 強引に門を破ろうとする嫌な音が響いた。


 ほうけたようになっている呂琳の肩を叩いた。


「何進が殺された」

「これからどうなるの⁉︎」

「宮中は血の海になる」


 呂青たちは道を引き返した。

 目指したのは順風隊のアジトである。


「何進が死んだ。これから宦官が皆殺しにされる。天子様を保護した者が次の実権を握るだろう」


 順風隊の二十五人がそろっている。

 鄴の千里隊からも十五人の応援を呼んでいた。


「俺たちが誰よりも先に天子様を見つける。この先十年の天下が今日一日で決まる」


 呂琳にはアジトで待機するよう伝えた。

 でも同行すると言って聞かない。


「私が女だとバレなかったらいいんだよね⁉︎」

「おい、やめろ」


 兵士から借りた剣で髪をバッサリ切ってしまった。

 そこに兜を載せれば少年兵にしか見えない。


「後で母上に叱られるぞ」

「天子様を助ける方が優先だもん」

「短剣をやる。護身用だ。いざという時は邪魔な防具なんか捨てて逃げろ。いいな」


 呂琳は頷く。


 呂青たち四十二人は郊外にいる丁原軍のところへ向かった。

 練兵中の張遼を見つけて呂布のところへ案内してもらう。


「どうした、青」

「何進が殺されました」


 呂布の眉間にシワが寄った。


「暴走した兵士が宮中へなだれ込んでいます。天子様は隠し通路を使って洛陽の外へ逃げるでしょう。保護した者が何進の権力を引き継ぎます」

「早い者勝ちというわけか」

「そうです。今のところ諸侯は洛陽の外を捜索しておりません。やがて宮中に天子様がいないという噂が広まるでしょう」

「分かった!」


 呂布は隊を複数に分けて皇帝を捜索するよう命じた。

 呂青にも二百の歩兵が与えられた。


「おい、そこのお前」


 呂布は鞘に納まったままの剣で一人の兵士の頭を叩いた。


「もしかして、琳なのか?」

「えへへ……」

「髪まで切りやがって。大した度胸だな。さすが俺の娘だ」


 思いがけない褒め言葉をもらった呂琳がはにかむ。


「また会おう!」


 呂布の馬が疾駆していく。

 呂青たちも一団となって駆け出した。

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