第11話 お宝を発掘してみる

 七歳になった。

 もっとも成長したのは頭でも体でもなく好奇心だった。


 母の英姫を説得して『村から離れすぎない』という条件付きで自由に移動する許可をもらった。


 本当なら大きな街へ出かけてみたい。

 市場はどんな様子なのか、商人はどんな会話を交わしているのか、自分の五感で確かめたいのだ。


 父にお願いしてみたが『青がもう少し大きくなったらな』とあっさり却下されてしまった。


 犯罪が多い時代である。

 街は危ない場所というイメージが定着しているらしい。


「雑木林は危険だから入ったらダメですよ!」

「は〜い、母上!」


 呂琳と一緒に家から飛び出す。

 二人の手に握られているのは木製のスコップである。


 地面を掘っていると陶器の破片や古い金属を見つけることがあるのだ。

 ゲーム感覚で価値のありそうな物を掘り出す遊びにハマっていた。


 発掘ポイントに適しているのは雑木林である。

 英姫には立ち入るなと言われたけれども、ダメと言われたらやりたくなるのが子供心だろう。


「いいか、琳。海まで移動するには馬がいる。馬を買うにはお金がいる。地中に眠っている黄金を発掘したら、馬なんて何頭だって買える」

「はい、兄上!」


 もちろん呂琳を焚きつけるための方便である。

 価値のある金銀財宝がそう簡単に見つかるわけない。


 出土しやすいのはびついた矢尻だった。

 大昔に合戦が起こったという証拠だろう。


「何か見つけた!」


 呂琳が歓声を上げる。


「な〜んだ、また矢尻か〜」


 露骨にガッカリしている。


「ねえねえ、兄上、一つ疑問なのだけれども……」

「どうした、急に?」

「これだけ矢尻が見つかるってことは、人の骨も出てくるってことかな?」

「だろうな。戦死者がそこら中に埋まっていても不思議はない」


 呂琳の全身がブルブルっと震えた。


「人の骨を見つけたら呪われるかな?」

「丁重に扱ったら呪われない。逆におしっこをかけたりしたら呪われる」

「気をつけよっと」


 琳はすぐに信じ込むところが可愛い。


 呂青のスコップにも手応えがあった。

 周りの土をどかして一センチくらい露出させる。

 細長い金属片のようなものを引っこ抜いた。


「何を見つけたの⁉︎」

「う〜ん……折れた剣の先っぽかもしれない。錆びすぎていて分からない」

「剣って売れるかな?」

「いいや」


 呂青は首を振る。


「宝石が埋め込まれているような剣じゃないと値打ちはない。戦闘のための剣じゃなくて、儀式とかに使われる剣なら売れる」

「な〜んだ、つまんない!」


 呂琳が悔しそうに地団駄を踏む。


「時間はたっぷりあるんだ。粘り強くやるしかない」


 呂青は剣らしき破片を懐にしまった。


「どうせなら王様のお墓が見つからないかな? お宝も一緒に埋められているんだよね?」

「だろうな。金銀なら腐らないしな。でも墓泥棒になるから呪われるかもしれない」

「うげぇ……」


 呂琳が渋面を浮かべる。

 その目が何かを見つけた。


「さっき兄上が見つけたのと同じやつだ!」

「ちょっと見せてくれ」


 本当だった。

 錆びまくっているが、シルエットは一致している。


「もしかしたら昔のお金かもしれない」

「お金⁉︎ 価値があるってこと⁉︎」


 呂琳の目からキラキラしたオーラが飛び散る。


「これと一緒のやつを集めよう」

「たくさん発掘したら馬が買えるかな?」

「いいや、買えない。滅んだ国のお金だ。四百年くらい前まで存続していたちょうのお金だと思う」

「な〜んだ! 使えないなら意味ないじゃん!」

「世の中には骨董品を集めている金持ちがいる。そういう物好きなら買い取ってくれるかもしれない」

「だったら集める!」


 調子がコロコロ変わるやつだな、と呂青は苦笑いしておいた。

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