第12話 眠れない夜もある

 とある夜のこと。

 呂布と英姫が家庭のことについて話していた。


「蓮の風邪は良くなったのか?」

「ええ、熱も収まりました。食欲だって少しずつ回復しています」

「そうか。蓮が風邪を引くのは今年二回目だな。体がいささか弱いのかもしれない」


 呂布が心配そうに言う。


「いえ、子供なら時々体調を崩すのが普通です。青と琳が異様に強いのです。特に青。まったく風邪を引きませんからね」

「ふむ、むしろ蓮が普通なのか」


 自慢じゃないが、呂青は生まれてこの方一度も病気になったことがない。

 赤ちゃん時代に全然泣かなかったエピソードも相まって、人一倍タフな子供だと思われていた。


 英姫が話していた通り、呂蓮の体はそれほど丈夫じゃない。

 今年で三歳になるわけであるが、呂琳が同じ歳だった頃と比べても、体格がワンサイズ小さいのだ。


 呂琳は父に似て、呂蓮は母に似たのだろう。


 二人の妹は熟睡している。

 呂琳は食いしん坊だから「お肉食べた〜い」と寝言を抜かしている。


「青と琳が最近お金を集めているのですよ」

「ほう、お金を?」

「この近くを掘ったら時々見つかるそうです。お金と言っても古い時代に使われていたやつです」


 英姫が実物を呂布に見せている。


「お金を集めるなんて、何か欲しいものがあるのだろうか?」

「それがですね……」


 英姫がおかしそうに笑う。


「自分の馬が欲しいそうです」

「馬か。小銭を集めて買える額じゃないだろう」

「青が琳に海の存在を教えたのです。ずっと西へ行くと、大きな海が広がっていると。すると琳は自分の目で見てみたいと言い出しました」

「なるほど、海か。俺も海の存在は人から聞いた話でしか知らない。しかし青は物知りだな。将来、学者になれるかもしれない」


 急に嬉しくなった呂青はわずかに身をよじり、服の胸元をつかんだ。


「いつか買ってあげますか、二人に馬を?」

「まだ七歳だからな。せめて十歳くらいに成長しないと上手く乗りこなせないだろう」

「でも、匈奴きょうどでは子供でも馬を巧みに操るというではありませんか」

「匈奴の暮らしに馬は欠かせないからな。奴らは特別なのだ」


 呂布が「もっと近くに寄れ」と英姫に声をかけた。

 しばらくして接吻キスの音が何回か聞こえた。


 二児を産んだとはいえ英姫はまだ二十三歳だ。

 女性として普通に美人だし、麗しさに毛ほども陰りはない。


 二人のラブラブシーンを想像して、お股のあたりが無性に熱くなった。


 一人で悶々としていると、呂琳が大きく寝返りを打ってきた。

 その片足が呂青の金玉をしたたかに蹴りつける。


 ぐはっ!

 これは生まれてから一番痛い!

 けれどもムードを壊したくないので奥歯に力を込める。


「分かった。古い銭は街で換金してこよう。馬は無理だが、別の物なら買い与えてもいい」

「換金してもらえるアテがあるのですか?」

「ある。俺の親父だ。青と琳が自力で金を集めていると知ったら、喜んで資金を出してくれるさ」

「まあ、お義父とうさんですか」

「孫には甘いからな」


 何を買ってきてくれるのだろう。

 ずっと胸がワクワクして、この夜は寝つくのに苦労した。

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