XX 記録にない出来事


「ない!ない!なぁ~~~~い!!」


部屋の中をひっくり返す勢いで探しても、目的のものはどこにも見つからない。

やばいやばいやばい!

早く見つけないと、兄貴とヴィオラの婚姻パレードが始まっちまう!!


「な~~~い!!!」

「なぁに探してるんだ」

「親父!!」


ドアからひょっこりと顔を出し、呆れ顔で聞いてくるのは親父だ。

今日のパレードの最後に、親父の国王退位と、兄貴の戴冠も同時に発表される運びになる。


つまり!めちゃくちゃ大事な日なんだよ!!


なのに、なのに!!


「お袋の形見のネックレスがないんだよぉ!!」


親父の正妻だったお袋。

俺が小さい時に亡くなってしまったけれど、めちゃくちゃ美人で怒ると怖い人だった。

そんなお袋が、俺に残してくれた大事な形見。



『大事に持っていてね。いつか、イライアスの大切な人を、助けてくれるから』



そう笑って小さかった俺に握らせてくれた、綺麗な金色に光る宝石のついた、ネックレス。


お袋は兄貴のことも可愛がってたから、婚姻パレードを見たいだろうって思って探したのに……!

なんで置いたとこにないんだよー!!


泣きそうになってまた探そうとしたら、親父がとんでもない事を言い出した。


「あー……それ、割れてたから捨てといたぞ」

「は"あ"!?」

「あーー、はいはい。それは後から聞くから、おらパレード始まんぞぉ」

「くっっそ親父後でぶん殴る!!!」


なんで大事に仕舞っといたのが割れるんだよ!!

てか勝手に捨てんなよバカ親父!!


言いたいことはたくさんあったけど、時間がないのは事実だ。

俺は、バタバタと親父の横を走り抜けて外へと向かった。




「……相変わらずはええなぁ、あいつ……」


イライアスが消え去った室内で、現国王は呆れたように呟いた。

本当に誰に似たのか、あいつの身体能力は恐ろしい。

どっかの国の『秘術』が混ざってんじゃないかと思うほどだ。



「………あれは、役目を終えたからいいんだよ」



砕け散っていた、己の妻の形見。

それは、もう『役目』を終えた証拠。


「さ、俺も支度をするかぁ」


そのつぶやきを聞いたものはいないし、それが何を意味するのかも、誰も分からない。


開かれた窓から、人々の祝福が聞こえる。

いい春だ、と、現国王は呟いた。


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次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。 こゆき @koyuki_231

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