最終回 任務完了、切断者よさらば
ギロチンは、リアスとの決戦に赴く前に、”彼”からもらった赤い袋を開けていた。その中に入っていたのは、高熱度振動剣用のエナジーチップと、やはり小さな手紙であったが、ギロチンの場合は二枚入っていた。
『リアス王の持っている装置は、サビスナドケイと言って自分以外の時空の流れを止めてしまう装置なんです。旦那があの時避けられたのは、奴がそれを作動させて時空停止空間に入って避けたからなんです。詳しくは話せませんが、俺のフラッシュコンバーターだけがその装置に対抗できるんです。この装置の放つフラッシュ・エナジーは記憶消去の他に、これらの超能力装置の効力を無効化する力があるんです』
『このエナジーチップにはそれが入っています。これを付ければたとえ時空停止区間を発生させても、もう二度とリアスを外すことはないでしょう。リアス王は、既に自分自身を惑星風邪デルタクロンに書き換えています。もちろん、このチップさえあれば別に問題はありませんけどね。ただ一つ注意しておくべきことがあって、このチップあまりにもエネルギー負荷が大きくて、もしかしたら一発切断波を放っただけで剣を壊れるかもしれません。ですのでこれを挿入してリアスと戦う時は絶対に、絶対に外さないでください』
ギロチンは、”彼”の言うとおりに、チップを高熱度振動剣に挿入し、リアス王に対して最大出力で放った。気づいたときには、彼は真っ二つとなって仰向けに倒れていた。切断面から彼の体を構成する微小構成体が崩れかけているが、彼はまだ息があったが、そこまで長くも持たないという事を疑似網膜が彼に伝えた。
「・・・な・・・ぜ・・・」
「・・・」
「何故、余を切れたのだ・・・」
リアスは息も絶え絶えに目の前にギロチンに尋ねた。
「時空・・・停止・・・空間さえも・・・切り裂くとは・・・」
「・・・俺は切断者だ・・・俺に切れぬものはない・・・ただそれだけの事だ」
「そうか・・・お前は切断者・・・だったな・・・ふ。・・・ふふふ」
リアスは力なく笑った。そして、ギロチンを賞賛した。
「見事だ切断者・・・敵ながらあっぱれであったぞ・・・時空停止空間と・・・惑星風邪そのものと・・・化した余さえも・・・切り裂くとはな・・・」
「・・・」
「貴様の・・・勝利だ・・・切断者・・・」
本当にぶった切ってしまったのだ、この男は。
ああ、俺をここまでにしてしまった、この
全ては・・・終わったのだ・・・
「・・・」
ギロチンは、リアス王に抵抗の意思がないことを認めると、踵を返して、その場を後にした。リアスは姿が見えなくなるまで彼を見届けていたが、自分の後ろから近づいてくる存在には気づかなかった。
「・・・ぐっ!?」
「よお、久しぶりだな」
何者かが、リアスの頭脳に手を溶かし込むように突っ込み、彼の微小構成体のプログラムを抜き取った。
「き、貴様は・・・あの時の!」
「おっ、俺の事を覚えていてくれたなんて嬉しいねぇ、リアス陛下。へへへ・・・」
男は手のひらの上てわ小さな砂塵を躍らせている・・・微小構成体だ。
「GBK、XAKAI、そしてあんた。これでこの星のナノマシン技術はコンプリート、ってとこかな」
「なん・・・だと・・・」
「おお、そうだ、これこれ」
男は、リアス王が握っていたサビスナドケイを奪い取ると、すぐさま自分が着ている革製ジャンパーのポケットの中にしまい込んだ。
「まったく、こんなちっこい装置のせいで、一体どれだ犠牲が出たことか・・・」
「か・・・かえせ・・・」
「だめだめ。これはもともとこの星の物じゃないんだから。こいつは俺が、”あるべきところ”に返しとくぜ」
そして男は、サビスナドケイの代わりに、白く細長い発光装置を取り出してリアスに構えた。
「リアス王。あんたはこの第6宇宙の秩序を乱した惑星風邪を再びばらまこうとした。未遂だが重罪だ。よってお前を第6宇宙の管理人であるこの俺クロハが、全宇宙の宗主たる上位存在の名の下に、お前の存在を抹消する」
「・・・好きに・・・するがいい・・・どのみち余は・・・」
「・・・へへ、そうだよな。どのみち消える奴にこんなこと言ったってしゃあないな。・・・せめてもの情けだ。なんか言い残すことがあるなら、俺が聞いてやるぜ」
「言い残す・・・ことなどない・・・」
「よし、じゃあ・・・」
男は、フラッシュコンバーターをリアス王に向けた。彼はもう、覚悟をしたのだろう。瞼を閉じて最後の時を待っている。
「リアス王。せめて・・・安らかに眠れよ」
バシュゥゥゥゥゥゥ・・・
クロハは、装置を作動させ、忘却の光でリアス王を・・・惑星風邪を、この宇宙から完全に消し去ったのである。
・・・
「みなさん!!急いで急いで!!この星が崩壊するまで、もう時間がないんです!!早く!!」
「お前たち!!猫の子一匹残さず宇宙船に乗せるんだよ!一人でも取り残したらただじゃおかないからね!!」
銀河連邦の密使たちは、それぞれの決戦を終えた後再び3人集ったが、無事だった喜びを分かち合う暇はなかった。惑星風邪が制御を失って、とうとう寿命をごまかしきれなくなったこの星が、だんだんと崩壊を始めたのだ。急を要する事態に密使たちは、盗電族たちの力も借りて、都の住民と、都に避難していたケセンタウンの住人達を逃がすために必死に宇宙船へと誘導した。そして・・・
「みんな乗り込んだわね?ハッチを閉めるわ!」
ゴゴゴゴ・・・
惑星の崩壊が進むにつれて、地鳴りが激しくうなりを上げて地上に降り立つ宇宙船を大きく揺さぶった。船内から多数の悲鳴が上がっている。メイデンとギロチンは操縦席で宇宙船発進の為の最終チェックを大急ぎで行っていた。船室からファラリスが通信をよこしてきた。
「メイデン!地震が大きくなってきた!早く!!」
「分かってるわよ!ギロチン、操縦システムの最終チェックは!」
コックピットの操縦系統をカチカチと入念にチェックしていく。ここで何か不備があればすべてが水の泡だ。
「・・・済ませた。いつでも飛べる!」
「了解、5分後にシークエンスに入るわ。船室のみんなに安全帯をつけさせて!」
了解、とファラリスは通信を切った。いよいよこの星を去る時が来たのだ。
「・・・船外固定軸解除」
「離陸15秒前、カウントダウン開始!」
まさしく箱舟というような直線的な恰好の宇宙船は、この星に最後に残った住民を乗せて、今まさに宇宙へと飛び立つ。
「・・・3、2、1・・・主要推進装置、点火」
「発進するわ!衝撃に備えて!!」
箱舟は、地鳴りにも負けないくらいの轟音をたてて、大地から飛び立った。重力相殺装置がついているとはいえ、宇宙船どころか飛行機にも乗った事が無い住民や盗電族たちはみな飛び立つ際にかかるGに顔をゆがませる。船室の避難民を取り仕切るのはファラリスの役目だ。
「みなさん!安全帯を絶対に離さないで!!」
「何だいこりゃ!!内臓が押しつぶされそうだよ!!」
「もう少しで重力圏を突破します!!我慢してください!!」
ややあって、箱舟はとうとう惑星の重力圏を抜けて、銀河連邦へと進路を取った。後はこの星から十分距離を取り、そこから超空間航法に入る。それでも銀河連邦へは三日くらいはかかるという。
そして、宇宙船を自動操縦に任せた二人は、操縦室を離れて皆がいる船室に向かい、改めて勝利を分かち合った。
「ギロチン!!あんたはよくやったよ!!」
入って早々、彼に抱き着いて唇を奪ったのは女首領であった。彼はまだこういう事には慣れておらず、突然の抱擁と接吻にただ狼狽えていた。
「・・・あ、ああ・・・その・・・」
「あんた、あのリアス王をそれでぶった切ったんだって!?凄いじゃないか!!流石あたいの見込んだ男だよ!!」
「・・・ああ、うん、・・・ありがとう・・・」
その様子をメイデンは苦笑いしながら、ファラリスはなぜかむくれながら見ていた。
「あらあら、本当に仲のいいこと」
「むーっ!!」
と、その時、船内にけたたましい警報音が鳴り響いた。船室中央のディスプレイをメイデンが起動させると、画面には[警告:惑星より謎の飛翔物体接近]と出ている。船外カメラに映像を切り替えると、そこには・・・なんと、リアス王のロケットがこちらへと急速に接近していた。それを見た女首領の態度が一変する。
「ちょっと、あんた!本当にリアスをぶった切ったんだろうね?」
「・・・もちろんだ」
「じゃあ、なんでアイツのロケットが追いかけてくるのさ!!」
「・・・わからない・・・」
ロケットは宇宙線のすぐ横へとやってきた。この宇宙船には攻撃機能は搭載されていないのだ、もしロケットが報復攻撃を仕掛けてきたら・・・
「ギロチン、ファラリス。戦闘準備。もしもの時は、この人たちだけでも逃がすわよ・・・」
――攻撃はしませんよ、メイデンさん。――
「!!・・・その声は・・・」
――お別れを言いに来ました、今そっちにテレポートします。――
ギロチン、ファラリス、メイデンの3人の頭の中に響いた、懐かしい声。その声の主は、宇宙船の真横にロケットをピッタリと並走させると、その中へ自らの体を転送した。現れたのは・・・クロハだ!
「クロハ!」
「お久しぶりです。皆さん」
彼は最後に別れた時に来ていた古いバトルスーツを脱ぎ捨てて、シャツとジーンズ、そして革ジャンの格好で3人と再会した。
「どうしたんだいその恰好・・・えらくルーズだけど・・・」
「これが俺のいつもの服装なんです。兄貴」
「兄貴って・・・君は僕よりもだいぶ年上じゃないか」
「俺はあまりそういうの気にしないんですよ」
そして、クロハは、ギロチンと女首領の方へ歩み寄った。
「よお、スコッチ。立派になったな。切断者様とねんごろか?」
「名前で呼ぶのはやめておくれって、何度言えばわかるのさ!」
「はは、すまんすまん。・・・今回は君のおかげで助かったよ。協力してくれて、ありがとな」
「・・・その言葉を言うべき相手は、あたしじゃなくて、このギロチンじゃないのかい?」
「・・・ふふ、そのとおりだな、スコッチ」
クロハは名前で呼ぶなと憤る女首領・・・スコッチは無視して、今回一番の
「旦那。リアス王との決戦、すべて見ていました。・・・お見事でした。それと・・・ごめんなさい、高熱度振動剣を壊させてしまって・・・」
「・・・また直せばいいさ、あのチップが無ければ、俺はリアスを切れなかった・・・改めて礼を言わせてくれ」
「俺はただ、皆さんの手助けをしただけです。おかげで、惑星風邪を今度こそ完全に消し去ることが出来たんです。・・・本当に有難う」
ギロチンとクロハは、互いをたたえ、固い握手を交わした。そして最後に・・・彼はメイデンと目を合わせた。
「メイデンさん。・・・いろいろと、ご迷惑をおかけしました」
「いいわよ、別に頭を下げなくても。母の元恋人がその娘に平謝りするところは、母も見たくないだろうしね・・・今回は貴方に何度も助けられたわ。有難う、クロハ」
「メイデンさん・・・」
「それはそれとして・・・」
メイデンはそういったかと思うと、クロハに右手でヘッドロックをかまして、左手を彼の頭にぐりぐりと押し付けた。
「痛い痛い痛い痛い!!ちょっと!?メイデンさん!?」
「人のデリケートゾーンの毛を勝手にもちだすなんて!!破廉恥!!」
「俺一応年上なんですけど!?」
「そういうの気にしないんでしょう!!だったら思い切りやらせてもらうわ!!」
「前言撤回!前言撤回!みんな年上を敬えーっ!!」
メイデンにいてこまされるクロハの様子を見て、船室はどっと笑いに包まれた。そして、いよいよ箱舟は超空間航法に入る準備が整った。これでいつでも銀河連邦に帰れる。だが・・・
「えっ、じゃあ銀河連邦には帰らないのかい!?」
「ええ・・・皆さんと分かれるのは残念ですが、俺はまだまだやることがいっぱいあるもので」
「やること・・・って?」
「今回のリアス王のように、この宇宙には銀河をわが物にせんと、良からぬことを企む奴らがそれこそ星の数ほどいます。そいつらをぶっ潰して宇宙全体の秩序を守るのが、俺の仕事なんです」
銀河連邦の密命かしら、とメイデンは質問したが、クロハはかぶりをふった。彼は銀河連邦とは別の存在に属している事までは教えてくれたが、それ以上は言おうとはしなかった。
「・・・そういうわけですので。悪しからず。・・・じゃあ、そろそろお別れですね。皆さん」
クロハは密使たちと、スコッチを名残惜しそうに見つめて、それぞれに別れを告げた。
「クロハ!・・・また、会えるよね?」
「もちろん。また共に戦える日まで、しばしのお別れですよ兄貴。ギロチンの旦那も。そして・・メイデンさん。
「ええ。分かったわ・・・達者でね」
彼は再び箱舟からリアスのロケットにテレポートした。そして、だんだんと箱舟から離れていった・・・
――皆さん、お元気で。――
密使たちはロケットを見届けると、すぐさま自分達も超空間航法への準備へと入った。だが、ギロチンは船室の窓からずっと離れようとしない。それを見てスコッチが駆け寄ってくる。
「どうしたんだいギロチン、早く操縦室に行かなくていいのかい?」
「・・・見ろ・・・星が滅びていく・・・」
つい先程まで自分達がいた星が、ついに自重に耐えきれずに崩壊し、球の形を失っていく・・・その儚くも美しい様に、スコッチは見惚れていた。
この星は、ついに滅びたのだ。
「へぇ、星が滅びる瞬間って、意外と綺麗なんだねぇ・・・」
「・・・スコッチ。あ、いや・・・すまん・・・名前で呼んでしまった・・・」
「ふふ・・・いいよ、あんたは別さ。あたいを惚れさせた男だもん。・・・で、なんだい?」
ギロチンはスコッチに向き直った。
「今度こそ・・・俺たちと共に来ないか?・・・もし、スコッチが良ければだが・・・」
スコッチはギロチンに微笑みを返した。
「・・・奇遇だね、あたいも同じこと考えてたんだ・・・いいよ。あんたと一緒なら、何処へでも行ってやるさ」
そして二人は惑星の崩壊を背にして再び、熱い口づけを交わした。
「・・・さぁ、行っておいで。あの二人を待たせると、またどやされるよ」
「・・・ああ」
惑星安楽死任務は終わった。この星の色々な思い出が
「彼らを利用してサビスナドケイを回収するとか上手いこと言って、本当は彼女に会いたかっただけじゃないのかいクロハ?」
「うるせえっ!上位存在はなんでいつも一言多いんだ!せっかくあんたのために"現実干渉換装体"連れてきたっていうのに!」
「まさかリアスの弟カマイを連れてくるとはね・・・まぁ、彼は誰かさんのせいでもう廃人状態だし、星と共に死なせるのも勿体無いからこれでいいか」
「けっ、悪かったですよーだ・・・」
「そんなにいじけないでよ。それはそうとクロハ、次の銀河聖遺物、色杯についての座標なんだけど・・・」
ギロチン(切断者) ペアーズナックル(縫人) @pearsknuckle
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます