3話

 扉を開けて部屋を出る。中々どうして息の詰まった報告になってしまった。私は全然悪くないんだけど…。

 相も変わらず怖いいい笑顔してたなギルマスとイオ、よくあんな顔するなぁ。馴染みって言ってたけど…。まぁいいか。

 イオ達の話が終わるまで、取り敢えずは新作を買いに行かねば! いつもは夜遅くてやってないし! 朝も無理だった。偶に早く帰れても並んでるし、中々買えない! だが、今は16時だ! 新作はないかも知れない…くっ! でも、今ならギリギリ売れ残ってる物があるかもしれない! 出来れば、ルージュさんが好きなお菓子があればいいな!

「クッキーはあるかな。アンジェリカ好きだったよね…確か。それと、お茶もあるといいな。ハーブもいいけど、フルーツを乾燥させたお茶もいいよなぁ。」

 

 前世でいうところのフルーツティーだ。甘くて美味しいし、開発したのはイリス様だ。いや、本当に頭が上がらない。前世の知識活かして貢献してるなぁ。他にも色々開発してるって言ってた。初めて飲んだ時感動して暫くフルーツティーばっか飲んでた。って、ついテンションが上がってしまった。そのまま階段を下がると何やら下が騒がしい。


「はぁ!? 何ですって! 大体アンタが悪いのよ。獣女!」

「な! アバズレが言ったわね!」

 凄い修羅場第3弾だ。あ、ケビンさん達のパーティか。白熱してるじゃん。めんどくさそう。周りも止めないし、止めるどころが煽って賭けが始まってる…めっちゃ笑う。ってか、ケビンさんどこ行ったんだ? まぁいいか。そんな事より新作! 新作! 無視して通ろうとしたら私の肩をガシっと掴まれた。

「ひっぃ!?」

 驚いて変な声出た。そのまま、肩にある手を掴み払い除けて振り向く。

「よぉ! 嬢ちゃん。」

「な、なーんだ。もう、驚かないでよ。ブルーさん。」

 いや、普通に気配消さないで! めっちゃビビる。声を掛けて来た男…ブルーノック・フラワーウォール。見上げるぐらいの身長と筋肉があり顔は厳つい感じの大男と言わざるを得ない。でも、見た目と裏腹に豪快な人で、裏表もなく話しやすく優しい。デカいのに。なので、女性からよくアプローチされている…が、彼にも好みというのがあるらしく。30代より上の女性が好みだと豪語していた。まぁ、同じ年ぐらいの人が良いんだろう。変に若いのは色々合わないとかなんとか…。

「ガッハハハ。悪い悪い。そんな驚くと思わなかった。」

「ああ、そう。」

 いや、普通にいい人なんだけど…。 私よりも強いのに、敬語は好かん! って言われたか普通に話してる。それに、女性の好みが一貫してるし、付き合う女性には優しいからとても評判がいい。身長凄いデカいのに…前、恋人さんと歩いてるのを見て荷物を持ってあげたりしてるし。

「いや、普通に気配消してこられたらビビるって! はぁ…えーっと、久しぶり…だね。」

「うむ。久しぶりだな。」

 相変わらず豪快だなぁ。そーいや、ブルーさんってどこ行ってたんだ?

「そー言えば、ここ最近見てないけど…何処に居たの?」

「ん? ああ、護衛の仕事だな。」

「へぇ~。ブルーさんが受けるんだから相手は貴族様とかなの?」

「そうだなぁ。個人情報だからな。あまり言えないが…懐は…んふふふ。」

 顔のニヤケ方が怖いよ! ヤバい笑い方してるって…。貴族様か近い感じの人達って事かぁ。今日のご飯はきっと豪華なんだろうなぁ~。ブルーさんを横目で見ながら思っていると、話題が変わった。

「そう言えば、お前のランクいくつだった?」

なんで思い出したかのように聞くんだ? てか知ってるじゃん? 不思議気思いながら問われた事に答える。

「んえ? 私? Cだよぉ。」

 イエーイ! っと、指を2本立ててピースサインをしながら答えると微妙な顔された。何故だ? なんだ? ピースサイン駄目なのか? 首を傾げると何故か渋い顔をされた。いや、聞かれて答えたんだけど? えぇ~。

「お前が未だにCにいるのが不思議だな!」

「ん? イオならわかるけど…私は力不足では?」

「は? いや何を言っておる? お前は単体で“ドラゴン”を倒せるだろ?」

「…え? いやいや。ドラゴン? 倒した記憶ないけど?」

 何の事だ? いや、マジで? 言われた内容に首を傾げる。そんなん倒した覚えないよ? 第一倒したら覚えてる…よな? 流石の私も…多分!

「…地底に居着いていると言う胴の長い蛇を討伐と依頼があっただろ?」

ヘビ? 蛇? 長い…蛇…あ!

「…あ! あー。うん! なんかあったね! 一緒に行ったよね? そー言えば、めっちゃ身体長かったなぁ。あれ。んで? あれ蛇でしょう? それかヤモリとか?」

いや~デカかったなぁ。アレどんぐらいの大きさだったんだろうか…。そー言えば、依頼料めっちゃ良かったな。おかしいなとか思ったけど。

 あの時の依頼は、地底を住処としている魔物が居るとギルドに依頼が来た。その時にブルーさんと私で臨時のパティー組んで行った。イオは予定が合って無理だった。行動範囲が土の中が多かったみたいで、辺りの村や町が土に沈むとかの依頼案件だったな。あれ…水を全体にいきわたらせてぐちょぐちょにして出させたっけ…。なんかめっちゃ怒ってたな。ドロドロが嫌だったんだろうか? 倒したけど…。

「いや、あれは、地底を住処に居着いておった“地龍”じゃ。」

「…え? ち…りゅう? 地龍?」

 は? え? あの蛇が…ち、地…りゅう? 竜? 龍…え? ヤバい全然意味わかんない状態で話進んでるんだけど? はぁ?

「地龍じゃ。しかも異国のな。こっちで見る竜とは違うじゃろ? お前は蛇だぁ〜!! とか言っておったが、ワシはあれを一度見た事あるし、リシャトルにでも聞いて見ろ。綺麗な状態ですね。とか嘆きながら報告書を書いておったぞ。」

「あれ地龍なの!? 蛇じゃないの!?」

「ん? だから、違うと言うておろうが。」

「…ああ、そう。」

 イオが言ってた私のランク上げって冗談じゃなかったんだなぁ。マジか。いやまぁ、確かに、蛇にしては毛とか生えてるなぁとか髭あるなぁとか思ったよ? でもそう言う仕様なのかと…思ってさぁ。てか、マジかぁ。なんて、悲しいんだろうか…泣いてしまう。ははは。

「へぇ。そっかぁ。って、ブルーさん今ランクなんだっけ?」

そう言えば、何でブルーさんここに居るんだろう? 確かBだったよね? なら今出払ってるって言ってたよね? まぁ、Aも同じだけど。

「んあ? Aじゃが?」

「だよね!? って、Aランク!? いつの間に! …って今ここに居ないんじゃないの? ドラゴン退治じゃなかった?」

 え、嘘でしょう!? 3か月前までBランクだったのに! 言ってくれたらお祝いもしたのに、何で昇格してるの教えてくれないんだ~。今度秘密で昇格祝い送ろう! イオと一緒に!

「あー。それなら、王都からも援軍が来たんでな。早く終わった。」

「あ、そうなんだ。」

 良かった。王都からなら結構強い人が着たんだ。そう思いながらブルーさんを見ると何やら不満な顔をしてる。

「じゃが、ワシらのも取って行きよった! その上用が済んだとか言いおってワシらをさせよったんじゃ!」

は? なんて? 

「え…。待って、素材とか全部!?」

「そうじゃ。」

「は、はぁ!? 何それ!」

 ドラゴンの皮や爪、瞳などは高額で取引される。それを全部って! いや、待って? 全部? 私の疑問に気が付いたのか頷かれる。

「な、まさか心臓…も?」

「ああ。」

「な!? 最悪じゃん! てか、意味わかんない! ただ働きじゃん!」

「いや、一応金は払われておる。3倍の値段でな。」

「…うわぁ。最悪。寄りにもよってって、大きかったの?」

「まぁ、手のひらサイズじゃな。」

 魔力石とは、魔力の籠った石だ。はっきり言って価値が半端なく高い。

体内にある魔力を凝縮すれば誰でも作れるが膨大な魔力と集中力が必要だし、出来たとしても一瞬で砂屑になってしまう事が多い。まぁ。良く死ぬ直前に出たりするけど。ふと、気が付いた。

「ねぇ。ブルーさん。」

「何じゃ?」

「私、地龍倒したよね?」

「ああ。」

「魔力石は? 私の手元に来てないし、報告とかなかったけど?」

「ああ。出んかったからのぉ。お前さんアレどうやって倒した。」

「え? 水で溺れさせたけど? 出ないとかあるの?」

 だって、武器で攻撃したら最悪、血とかで汚れるし、魔法もなぁ。価値のある部分だったら下がるかもじゃん! 解体屋さんに頼めばいいかなって。自分でするより絶対綺麗だし。

「なら、ギルドが回収したか、もしくは。」

「もしくは?」

「国に献上されたかじゃな。」

「…は? 何で?」

 私が倒したんだから! 私のじゃないの!? え!?

「報酬良かったじゃろ?」

 その一言で全てがわかった。…金で全て解決させられた…だと! 魔力石ってすっごい高価なんだよ! てか、めっちゃ使えるし! 何より! 魔力なくなったら補助出来るし! 道具だって作れるのに! 私は作れないけど! 核としても有効なのに…なのに! お金…お金で…クッソゥ!

「次は絶対に! 解体代払っても魔力石取る!」

 ていうか、私も解体できるようにしようかな。頼まなくても言いし、お金かからないし…。

「…頑張れよ! っと! ワシこれからデートじゃったわ!」

そう照れながら行ってしまった。何だったんだ? って、私も買いに行かなくちゃ!

急いで私もギルドを出て、お目当ての新作のケーキを買いに行った。


「はぁ~。セーフ! 新作あったぁ!」

 ギリギリで新作のケーキを買えた! 良かった。残り数個だったけど間に合って良かったぁ!

新作ケーキはイチゴのジャムを使ったケーキだった。まだ食べてないけど! 絶対美味しい! 私の勘がそう言ってる! 何となくだけど。


「後は、“これ”だよねぇ。やっぱり!」

 貰った袋の中には、貰った試作品が入ってる。まさか、試作ですが…と言われてもら貰えるなんて! 試作品は、なんとあの店の娘さんが作ったプリン。そうプリンだよ! プリン! この世界にあるんだって! 少し硬めのプリン! イチゴを練りこんだクリーム…多分ムースを上にトッピングしていた。ああ、美味しそう! 何だろうか! さっきまでのイライラが嘘の様に…は、言いすぎか。少しは回復したなぁ。流石お菓子! 甘いお菓子は正義だ! うんうん! 頷いて、ギルドに戻ると流石に掛けは終わっていた。因みに、勝ったのは猫のお姉さんの様だ。動物の癒し効果か…すげぇな。っと、居るかなぁ? キョロキョロとギルドホールを見回すと1人でカウンターの席に座っている綺麗な女性を発見した。そのまま、近づき声を掛ける。


「おねぇさん。お一人ですか? お隣いいでしょうか?」

 ニコリと笑顔で声を掛けると、女性は振り向く。燃えるような真っ赤な髪に意思が強そうな深紅の瞳。宝石みたいで綺麗だといつも思う。

「いいわよぉ~。お酒を奢ってくれるなら…って、いつもなら言う所だけどぉ~アナタは特別、だ・か・ら…ねぇ?」

 ウィンクされてしまった。相も変わらず見た目は強そうでカッコイイ女の女性なのに、雰囲気が妖艶なんだよなぁ。それでいて喋り方も少し間延びしてるから幼く見える。これが庇護欲をそそるってやつか! 

「私が男なら惚れるなぁ。って、いつも思うね。」

「あらららぁ~。別にアナタならワタシ惚れられてもいいわよぉ~。」

「ふふふ。ありがととう。あ、そうだ、お菓子買ってきたから食べよう! その間にお話し聞いてくれたら嬉しいなぁ。」

「いいわよぉ~。お邪魔虫は居ないみたいだしぃ? 今はワタシがアナタを独り占めしちゃうわぁ~。」

 ニコリとほほ笑むのは、ルージュ・バートリーアン。教会と呼ばれる組織に所属する修道女…シスターだ。そして、私がだった時に護衛をしていてくださった方だ。まぁ、あの時は顔を隠してるし、声も出してなかったから、今でもバレてないんだけど…。このままバレない事を祈る。

「お邪魔虫って。」

「だってぇ~。あの子ってば、“前”からワタシの邪魔をするんだものぉ~!」

 許せないわぁ! もう! っと頬を膨らませながら言う姿は可愛いなぁっと思う。取り敢えず、新作のケーキを目の間に差し出すと目を輝かせて食べ始める。その姿は少女の様だと思うが、この見た目で騙されてはいけない。何故なら彼女はが可能なシスターなのだ。

 教会指定のシスター服を纏いながら舞う様に戦う。教会に仇名す敵を打ち倒す事が主な仕事…らしい。戦闘を基本的に行なわない教会だが、戦う力が無ければ、守れない。と言う声もあり、一部では戦闘の訓練も受けているシスターも存在する。

 そのシスターを聖戦姫せいせんきと呼ぶ。何でも、戦場やギルドに登録しランクをA以上にすることを目標にしている…らしい。

「うーん。その辺は勘弁してください。イオは私の為にしていますから。」

私も一緒になってケーキを食べる。美味しい。流石は新作。後でギルマス達にもクッキー渡さないと! イオは話終わったかな?

「むーそれは分かってるのよぉ~。でもぉ~。うぅ~美味しいケーキ。甘さが染みるわぁ~。」

「喜んで食べてくれて嬉しいです。新作らしですよ。」

 ニコニコしながら食べるルージュさんを見て買って良かった。私も久しぶりに食べたけど美味しいなぁ。

「あ、そう言えばワタシに何か相談でもあるの?」

「ああ、うん。ルージュさんは“精霊様”の声聞こえたよね?」

「…そうね。一応は…でも、ワタシよりも王都にいらっしゃる“神子様”の方が確実なんじゃないの?」

「あーうーん。まぁ。」

 私は、ぶっちゃけ王都には行きたくはないし、“神子様”にも会いたくはないんだよなぁ。会っても良い事ないし…メリットよりもデメリットの方がデカいからなぁ。できればこの周辺で探したい。ルージュさんには、そこまで話してないから多分知らないんだと思う。護衛も一時期だけだったし。

「んー? その口ぶりだと“精霊様”がいらっしゃるのぉ~?」

「あーうん。だからルージュさんに、お願いしようと思って。」

 あっはははと笑ってみるけど、余りいい感じにはならなそうだなぁ。ごめん。イオ。

「<<話を聞くだけ>>なら何とかなるけど他は無理よ? ワタシには。」

「それだけでもいいよ! ありがとう。」

「そもそも、“精霊様”のお声もお姿も全て見えるのはのみでしょう? 王都に行けば会えるんじゃないの? 神子様も同じ近さを持っていたのかしら? 教会に居た時はそう言う話は聞かなかったからわからないけれど。」

「…そうね。」

 聖戦姫は教会の中でも俗世に疎い。戦闘技術や護身術、回復や神の教え等を休みなしで行うのだと。私の事を育ててくれた人達が教えてくれた。だから、聖戦姫は教会に所属するシスターよりもすべてに疎い。守護する対象すら直前になるまで知らされない。徹底的に会話や行動は縛られる。一度だけ聖戦姫に護衛されたけど、気配は勿論、会話もない。顔を見せない。それが1週間続く。ただただ、監視の様に守られる。あれは意外と辛い。感情を殺してるんだなぁって思った。


 ただ、を抱かせない様に…


 聖戦姫は守護する者を命をとして守る。戦って死ぬんだと教え込まれてる。なんて、面白くないんだろう。でも、その分お金が出るから貧しい家の出の子は家族の為に働くのだと言っていた。


「それで? 分かりそうか?」


 そう声が聞こえた。気配がないんだけど? いつの間にか私の背後に居たの? そう思いながら振り向くと何故かとても愉快そうな顔で笑っている。

「なーんだぁ。もう少しぃ~。ギルマスとぉ~お話しても良かったのにぃ?」

「俺も聞きてぇし? 邪魔か?」

え? 何でちょっと空気悪くなったの?

「邪魔。」

「ふっは? んな邪険にすんなよ? なぁ?」

 いや、イオ、何でルージュさんの事煽ってるの? 絶対にわざとでしょう? めっちゃ笑って…いや、目が笑ってない…だと? え?

「私、オマエ嫌い…。」

「へぇ?」

 えー! チラっとイオを見るとふーん? っと笑みを浮かべているだけだ。なんだ? そうして気が付くいつの間にか周りが静かになっている事に…。視線だけ左右に動かすと何故かギルド内全員が2人を見ていた。え? 何? そう思っていると、受付のお姉さんが口を僅かに動かす。


“なんとかして!”


 へ? なんとか? 何とかって? 不思議に思っていると、いつの間にか2人の会話がヒートアップしていた。

「で? 結局お前は“精霊様”の言葉わかんのか?」

「ッチ! わかるわよ? アンタは無理なんでしょうけどぉ?」

「そうか。なら渡すからさっさとやれ。」

 いや、いつの間にそんなに…ていうか、何で喧嘩腰で喋る? 何でそんなに仲悪いの? ねぇ? 

「上から言ってんじゃないわよ!」

「吠えるな。騒ぐな。喚くな。」

「な、なんですってぇ!」

「うるせ。」

 何で、2人は出会ったらそんな喧嘩するんだろう? いつも不思議に思うんだけど…。後、私の頭上で言い争いしないで欲しいんだけど…。これはまだまだ時間かかりそうだなぁ。

 そう感じた私は取り敢えず、目の間の新作のケーキを食べ終えてから2人に声を掛ける事にした。周りから早く何とかしろよと目線で言われている気がするが…無視を決め込む。


ケーキ美味しいなぁ…。


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乙女ゲームの主人公でしたが、闇落ちルートに入ったようなので逃げ出して旅をします! 深紅 @rabbitmoonmoon

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