2話
マジか…。
「消えたね。」
「ああ、消えたな。しかも、気配もねぇときた。」
これはもう手に負えないって言う判断をして一度戻った方がいいなぁ。情報も”魔物”が出て、消えるってだけだし…。それにしても…。
「うーん。一昨日までは、本当に何もなかったのに…これは、戻っても許される…と思う?」
「俺等的には、いいと思うけど…。けど…。」
何かを言いにくそうに言う。もしかして、なんかあった? 言葉に詰まるなんてイオらしくない。
「何かあった?」
「…あー。2週間前にイリスから手紙が来た。」
「え? イリス様から? 珍しい…って、え? “王都”で何かあった?」
嫌な感じがしてイオを見ると頷かれた。その顔は面倒ごと…増やしやがって見たいな顔がしてるし。
「何でも、今“王都”でも似たような事が起きてるらしい。でも、王都のは“魔物”が出て消えるってぇのじゃなくて、人が消えるらしいんだ。」
「あらら、もしかして、今回の事と似てる。でも、可能性としては低い…けど一応調べておいて欲しい…。って書いてたの?」
心底めんどくさそうに頷くイオ。
よ、良かったぁ~。手紙ちゃんと読んでたんだ! 良かった! イリス様とは、イオの妹さんだ。私も何度か出会って、仲良くさせて頂いてる。初めて出来た女性友達で、少し嬉しい。最近は、手紙で良く、王都で流行りのお茶やお菓子を教えて貰ったり、流行のアクセサリーや洋服も教えてもらってる。
「分かった。イリス様もお忙しいね。相変わらず。」
「ああ。まぁな。ちっとは休めばいいのに、相変わらず色んなサロンや夜会に出てるらしい。」
「あっはは。大変だなぁ。」
私はあまりいい思い出ないからなぁ。あの時は緊張とか吐き気とか…。毒入れたりとか、虐めらたりしたからだけど…。まぁ、あの時の私はいい評判でもなかったし、仕方ない。でも、楽しい思い出や経験にはなったからそれはそれだと思ってる。
「悪りぃ。あんまりいい思い出なかったな。」
「え? 別に大丈夫だよ! 楽しい思い出もあるし!」
「そうか…。」
「うん。イオも一緒に居てくれたでしょう? だから、大丈夫!」
気にしてない…なんて言えない。でも、“昔”があるから“今”の私がいる。それも嘘じゃない。
「そうか。」
「うん! さて、っと、話を戻すけど…“魔物”取り敢えず、捕まえる? 出来たら。」
見ながら土で抉られた部分を見る。あまり大きくはないな。子供…にしては大きい爪痕でも大人じゃない。
「だなぁ。…はぁ。何も聞かないかった事にして帰りたい。」
「いや、さっき言いにくそうにイリス様の話したのに!? それに、コレが“依頼”なんでしょうきっと。」
「…はぁ。マジか…だりぃな。気配消えたし。俺らのランクなら戻っても何も言われねぇーよ。きっと。」
“気配が消える相手”なんて私のランクは手に余る…って事もないかも知れない…が、順風満帆な日常生活を送りたいなら即戻ってギルドに報告したい。だって、もし、間違えて敵とか倒したり、元凶を吐く止めたりしたら…確実に上のランクに行けって言われる。嫌だ! 怖いそんなの! それに、めんどくさいし! でも、このまま戻ってもギルマスに絶対に小言言われるのが目に見えている。
何故って? 実力があるからだ。…一月前に、イオが単独で“盗賊団”を壊滅させた。
溜息を吐きながら私を見る。そんな顔をされてもなぁ。…うーん。
「私“だけ”ならね? この前、盗賊1人で壊滅させたから無理じゃない? ギルマスにイオのランクを上げたいって言われてるんだけど?」
「あ゛。…マジか。」
「壊滅させちゃったら…もうねぇ。」
「仕方ないねぇ。オペラの事触って誘拐しやがったし。」
小規模なら良かった。でも、そこそこデカい組織だったみたいで、王都からも討伐任務の依頼が出るぐらいの盗賊団だった。しかも、ボスは賞金付きだった。
やってることは人身売買や薬、武器の販売など。
何で知ってるかって? 決まってる! 私が捕まったから。 そう、とどのつまり私がその“盗賊団”に捕まったからイオが動いて壊滅させた。短く簡潔に言うとそう言う事だ。
いや、だって、そこそこ仲良くなった子がその盗賊団の関係者だなんて思わなくって…? てへ? だから気が付いたら牢屋で手枷足枷ついてたよ。アレ? いつの間に?? いや、ご飯食べてからの記憶が少しトんでる? 薬でも入れられたかな…。仲良くなって油断した。これは、帰ったらイオに怒られるなぁ。グルっと目だけ動かす。古びた鉄格子の牢屋に入れられた様だ、数人の子供と女性が居た。周りの牢屋にも子供から若い女性が分けられていた。ただし、全員に手枷足枷が付いている。
あれ、種族別って訳でもないのか、同じ牢屋には、猫耳の人や犬耳の人の獣人族に、中にはこれまた、珍しいエルフまで居た。初めてみたけど、エルフって美人なんだぁ…。男性か女性か分からないけど…多分女性。胸の膨らみとか…それっぽい! 知らんけど! とか思ってたけど、耳からはすすり泣く声も聞こえ…殆ど泣いてたるなぁ。泣いてない人は全てを諦めた目をしてた。ここまで来るまでに怖い目にあったり、酷い扱いを受けたんだろう。見回りに来た男達が通る度にビクビクしてるし、それに、“そー言う目”で見てる…。コレ、もし売れ残ったり、気に入られたりしたらって考えるとゾッとする。気持ち悪い…。
まぁ、ぶっちゃけ逃げれたけど…まぁ、最悪見学というか…何と言うか。まぁ、隙をついて逃げてギルドに報告じゃあー!! なーんて思ってた次の瞬間、盗賊団壊滅してた…。
イオが私の前に現れてクッソ笑顔で抱き上げてくれたよ。いや、服とか髪に血が付いて、焦ったけど、全部返り血だよ。って言われて変に安心したよ。後ろ見たら、足跡が真っ赤で怖かったけど…奇跡的に盗賊団は全員生きてたらしい…。あれを生きてると思う? いや、知らん。あ、でも、私を売った子は下半身が使い物にならないぐらいぐちゃぐちゃだった…らし、後男は全員目がくり抜かれてたって、ギルマスが教えてくれた。すっごい顔色悪かったなぁ。
そして、後、凄い怒られた事だけ言っておく。ギルマス2時間にイオから5時間…。足が死んだ。そんな怒る事ある?? ってぐらい怒られた。
「うーん。まぁ。ごめんね。」
「いや、いいよ。あ、でも、俺もギルマスにお前のランク上げたいって言ってたぜ?」
「な、何故?」
私のランクを上げる…だと? お、おかしいな!? 私にそんな話聞いてない…んだけど?
「いや、普通に実力だろ?」
「えっぁ…?」
ヤバい変な声出た。普通に実力? いや、私の実力って、イオの方がすっごい上なんだけど? 意味が分からなくて首を傾げていると、イオが笑いながら私の頭を撫でる。いや、何で?
「取り敢えず進むか。」
「うん。」
魔物が現れた方向で歩く。森の中にいる所為か薄暗かったが、上を見ると既に太陽が沈みかけていた。うーん。結構歩いたけど…あれ以来やっぱり何も出てこない…。さっきの“魔物”が操られてるならまだいい。でも、もし死んでるなら話がややこしくなってくる。嫌だなぁ。面倒ごとになってないと良いなぁ。
「ねぇ、イオ。」
「ん?」
「もし、今回の騒動が、…その、隣国から来た人間の場合ってどうなる?」
「話し合いで解決ってのは、少し無理があると思う。…けど、現状、アリシエおばさんからは、そう言った情報は貰ってないから大丈夫だと思うぜ?」
現状隣国とはうまく付き合っている。それは、この国の第2王女でもある、アリシエール・クロス・テンペル様が隣国に嫁いだからでもあるし、その第2王女とイオの母親が友人という事もあるそうだ。大体、第2王女の事“おばさん”って言えるのって、イオとイリス様だけだからね? 私なんかお手紙貰うだけで、震えて泣きそうだし、引き出しに大事に閉まってるもん。書いてある内容は、最近の流行だけど、私の名前書いてあるんだよ!? おばさんって聞いた時に、めっちゃ権力持ってるなぁイオの家ってその時思った。
「そっかぁ。なら、取り敢えず安心…。見つけ次第捕まえるか倒す!」
「だな。」
「“魔物”はどうする?」
「そーだなぁ。多分、
「うん。」
「なら、死んでたら迷うな。」
「うん。」
「生きて操られてるなら、オペラが直せ。怪我とかなら俺がする。」
生きてるなら何とでも出来る。でも、死んでたらもう、何も出来ない。だから、ちゃんとかみさまが居る場所に送ってあげる。私にはそれしか事しかできないのだから…。死んで動いてるなんて、もう、何も言えない。
「うん。わかった。 一応、生きてるって仮定で動くね。」
「そうだな。一応、さっきの魔物は土抉ったのは本物の可能性があるけど、一瞬だったしわからねぇな。でも、後から出て襲ってきたのは“幻影”か“幻術”だな。」
「“魔物”が作りだしたって言う可能性あると思う?」
「可能性だけなら…な。あの“魔物”が普通の魔物ならな。もしかして、魔族に成るかも知れなねぇな。」
「それは…つまり、進化するって事…だよね。」
「ああ。」
考えたくはない話だ。通常、魔物として生まれれば魔物で生を終える。それは魔族にだって同じだ。だが、偶に、魔物から魔族になる場合もある。
そして、この世界では“進化”と呼んでいる。進化出来る個体の事はあまり知らないし、何がきっかけで起こるかも、未だにはっきりとは分かってないな…が、1つだけわかっている可能性があるらしい。
その可能性とは、魔物が魔力を大量に喰らう事だ。魔力を持つものなら何でもいい。大量に食べる必要はあるが。数百、数千、数万…。どのくらいかも分かってはいないが、ただ大量に食べる事で“進化”する…らしい。殆どは成功することは無いに等しいが、ごく偶に成功して、魔物から魔族に進化してさらなる力が与えられる。その中に言葉を話せるようになるとか…。
「厄介…を通りこして、絶望しかないね。」
「だよなぁ。喋られても困るんだよなぁ。」
「…わかんない方が楽だしね。言ったら悪いけど。」
今さら、何かを言った所でしょうがないけど…。まぁ、最悪逃げればいいし!
一応は周りを確認しながら歩くが、何の気配もない。それに、イオなら感知で分かるはずだから何かしらの反応を示すのに、それすらない…。本当に周りに何もないって事…つまり、本当に、この森には何も無いって事だ。
「倒すのも、見つけるのも問題じゃないんだけど、権力とか関係してたら、全力で逃げたい。…逃げてもいいかな?」
「そうだな。もし、権力が関係してたら逃げていい。もう、誰もお前の事は縛れねぇ。ただ、それでも来るなら、俺が何とかしてやる。何も心配しなくていい。」
「うん。ありがとう。“依頼”として来たら受ける。ちゃんと報酬は貰う…。なら、大丈夫かな?」
「ああ。それなら大丈夫だ。」
「もし、“依頼”ならついてきてくれる?」
「ふっは。勿論。一緒に行こうぜ?」
笑って、即答してくれるイオにありがとうっとお礼を言う。私はいつも頼ってばかりなのに、その上、1人だと怖いから依頼まで一緒に行ってなんて普通は図々しいはずなのに、イオは笑って承諾してくれる。それが嬉しいはずなのに、ほんの少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「ありがとう。」
でも、私はお礼を言う事しかできない。ああ、なんて歯痒いんだろう。もっともっと私に…。
「いいって。気にすんな。それに、俺も頼ってるし。」
「…うん。」
そう言っても、私が出来るのはサポートや援護ぐらいだし、戦闘になっても攻撃や囮なんかは全部イオがしてくれるし、街やギルトに戻ってからの敵の情報や収集なんかも受け持ってくれる。…内心、コレ私完全にお荷物では? てか、お金もイオが出してくれる事が多い…え? ひ、ヒモ。なんじゃ…。
そう心配になって、イリス様に相談したら、情報やら収集はお兄様の趣味なので、気にしない事! 私よりも情報持っています。何故…。もう張り合っても負けまので、諦めております。戦闘は…まぁ、戦うのが好きな人…なので、大丈夫でしょう。気にしては行けません。それから、私わたくしもオペラさんが戦うのは少し辞め欲しいです。怪我とかも心配です。十分に強いので要らない心配だとは思いますが…。
それから、新作のドレスと下着を送ります。どうせお兄様には全て把握されていますが…きっと着て見せれば凄くお喜びになります。ぜひ、着て見せてください。
そう書かれた手紙と共に、ドレスと下着があった。ドレス…着る機会あるかな。少し迷ってクローゼットにしまう。今回は、真っ黒のドレスだ。前は白色に銀色の糸で薔薇が刺繍されて、凄かった。
下着は沢山あるんだけどなぁ。後、色がすごいのを貰う。いつ着るのか内心悩んでいる。もうすぐしたら下着で七色の虹出来そうだなぁ…とか考えている。それから、情報が漏れているのは少し悲しい。でも、きっと下着何着ても、今日は何の下着着てるか把握されてるんだろうなぁ…とか。イオに。
「オペラが何を思うが、俺は、オペラを頼ってる。俺に出来ない事をオペラはやってる。だから、気にしなくていい。」
「…イオってさぁ。人の心読めるの?」
何でわかるの? おかしいなぁ。顔にも出てないはず…。首を傾げながらイオを見ると、何故が笑ってる。
「んな訳ねぇーだろ? オペラだからわかるんだよ。他には興味ねぇよ。わかっても、俺にとっては要るか要らねぇーかだけだしな。」
「…っぐぅうう。」
私は過去の所為で、一時期、表情と感情が一切出なくなった時期があった。出なくなったって言っても笑顔だけ出来た。それは癖に近くなっていたので、どんな時でも瞬時にできる。イオ的には凄く嫌な顔でお気に召さなかった。偶に出てイオに注意されるけど。
それでも、今では表情も感情も出ている。少し出にくいけど!でも、今は前よりも、表情も感情も出る様になったから、人見知りや恥ずかしがりやだとギルド内では思ってもらってる。
「ふっは? 何その声。照れてる? 顔は…っふ。」
「…照れてないし」
表情筋が動きそうになる、照れてない。でも、分かってくれて嬉しいと思ってしまうのは…少しの嬉しさと照れてしまう…。私もイオの事、少しでもわかる様にならないと! 難しいけど!
「そっか…っと、そろそろ道が開けるな。」
いつの間にか、森を抜けかけていた。えーっと、奥って確か、草原だったはず。ここの花は鮮度が良いって受付のお姉さんが言ってたし。
「花咲いてるのかな?」
「さぁ。咲いてるなら…」
そう言葉にしようとした。きっと今は一面黄色い絨毯のように咲いているはず…なのに、目の前の光景で言葉を失う。
「…。」
何これ。なんで…。こんな所に?
「…廃墟?」
建物があった…いやいや。待って!? 何でこんな所に…建物、しかも小さいな…。隠れ家的な感じなのかな? でも、なんで既にボロボロに…コケとか生えてるし、欠けてる…。蔦も絡まってる…廃墟感が凄い。てか、花畑は!?
「家…。」
「…岩、いや石って事は、石造りの家の、建築物って事か。」
「中、見る?」
「一応な。」
頷きながら2人で辛うじて、扉の形になっている場所の近くに行き、扉に触れた瞬間崩れ落ちた。そのまま無視をして中に入ると、特に変わった場所は無かった。簡易的な木の椅子に同じく少し長いテーブル。ベットは無さそうだし、台所は無いんだ。隠れ家…?
「オペラ。こっちに来てみろ。」
「ん?」
呼ばれた声の方に行くと、違う部屋にイオが居た。広くない部屋には窓はない。そこに片手に本を持ち地面を指さす。
「これって。」
指をさされた方を見ると、所々、真っ黒で消えているが、床の一面に、文字が円の様びっしりと書かれている。その中には、何らかの形が残っている形跡はあるが既に焼け焦げていた。これは…いい報告は出来そうにないなぁ。
「なんかの“魔法陣”~!」
少しおちゃらけて言ってはいるが、顔が面倒になったっと嫌そうな顔をしてらっしゃるぞ。イオさん。
「…最悪だね。」
「しかも使用済みのオマケ付き!…って事は、噂になってる魔物は死んでるな…。」
「魔物じゃない場合もあるよね。これが何の“魔法陣”かにもよるけど…。」
「属性的には、闇属性だとは、思うが…最悪の場合は悪属性だな。それか、何らかの“魔法具”かなんか。その辺はわからねぇな。だが、処理が楽になった。見つけ次第、跡形もなく処理すんぞ。魔法陣を書いた奴は生かしておく必要あるが…」
「分かった。」
頷く。結局魔物ではない可能性もある。なら、キメラとかゾンビって可能性もあるって事だ…。色々、面倒ごとが出て来たなぁ。王都のとは、関係ないと良いなぁ…。処理しないと実害があってからじゃ遅いから、さっさと見つけて倒してしまいたい。
「戻るか。」
廃墟と化した家から外に出る。ここに入ってから、あの“魔物”以外から1匹も動物を見ていない。そう言えば、虫とかも見てないなぁ。え? マジか…。
「ギルマスに報告だね。」
「ああ。」
一昨日までは動物はちゃんと居た。虫だっていた。鳥の丸焼き食べたい…とか思ってた。でも、誰にも気が付かれずに変わった? でも、一日で変わるなんておかしい。で、出来れば誰かに引き継ぎして欲しい!
「誰に、引き継いでもらう?」
「そうだなぁ。ギルマスにその辺も頼むか。後イリスに報告して、情報の擦り合わせしねぇーとな。俺の知らねぇ事知ってるかも知れねぇし。」
私の後ろ向きな答えに、悩むイオ。取り敢えずきた道を戻ろうとした瞬間、背後に何かが現れた…その瞬間振り返り距離を取り、瞬間的に魔法を発動させる。
『―――! ―――!』
「っ…!?」
目の前の光景に驚く。何で? いや、何でこんな所に!? いるはずか…いや、居ないはずだ! だって、そう…。目の間の光景に軽くパニックになっていると、イオが私の肩に触れ、声を掛ける。
「オペラ。」
「イ、イオ…、っ!」
「大丈夫だから。…な?」
「…っ。うん。ごめん。」
「いや、俺もかなり動揺してると思う。でも、多分違う」
「え?」
言われて改めて目の前に居る女性を見る。だた、綺麗なら女性なら私もそこまで驚かない。ただ、その女性は全てが白い。肌や髪も白く着ているドレスも白い為、人ではない。ただ、彼女の周りは淡く緑に光輝いている。良かった。違うんだ。でも、私はこの方を知っている。
「申し訳ございません。動揺してしまいました。 精霊様」
一瞬、目の前にいる女性…精霊様を私達が以前住んでいた国の守り神様…守護神様と勘違いしてしまった。失礼すぎる。てか、私まだ、視えるんだ。
「まぁ、似てるしなぁ。仕方なくねぇか?」
「いや、でも、流石にまずいよ。」
間違えて取り乱すなんて…。でも私の所に来た理由もわからない。ただ、悲しそうに、辛そうにな表情をされている事しかわからない。
『―――。―――!』
「…ごめんなさい。もう、聞こえないんです。」
きっと、私に何かを訴えてくれてる。でも、もう、聞こえない。だって、もう、分からないのだから。ゆっくり頭を下げる。私には本当に聞こえない。
「私は…もう聖女ではありません。」
すみません。ともう一度頭を下げて、ゆっくり頭を上げる。それでも必死に何か伝えてくれる。昔は私の頭に綺麗な声が届いていた。でも、今私の頭にも耳にも何も聞こえない。だから、私には謝るしかない。
「はぁ、悪いが、俺達は無理だぜ? 王都に行けば“神子”様っているだろ? そいつに頼め。」
私と精霊様の前に立ってくれるイオ。
「イオ…もしかして聞こえてるの?」
「んや? 俺は聞こえねぇよ? 会った時も言ったろ?」
「そうだね。」
でも、精霊様がここまで必死になるって事は何かがあるか思ってるって事だよね? 今の“森”の状態と関係あるのかな? チラリと精霊様を見ると困った顔をしながら私達に何か必死に伝える。
『―――。―――。』
「うん。だから、聞こえねぇーんだよなぁ。」
「今日ってビリーさんかルージュさん居たよね? お願いしてみる。」
「…ビリーの方は今日は大事なようがあるらしいから、ルージュさんに頼むか。」
はぁっと溜息を吐きながらガシガシと頭を撫でる。でも、どうやって精霊様に一緒に来てもらおう…。それにしても少し小さい気がする…見間違いかな? 少し考えていると、イオが空間から翡翠色の石を取り出す。
「“コレ”の中に入れますか?」
「あれ? 精霊石。持ってたんだ。」
イオは必要最低限の物しか買わないから少し驚いた。
「ああ、前に市場行ったときに貰った。」
「貰った…って。」
精霊石…その名の通り精霊が宿る石だ。宿っていない場合も精霊が自ら入り宿る事で使用可能となる。効果は宿った精霊によるが…精霊石はかなり高い…。値段はまちまちだけど、聞いた話だと王都に家が建つぐらいの価格らしい。いくらか知らないけど…。それを貰った…って、流石にやばいのは?
「ああ、勘違いすんなよ? 市場の店主の姉ちゃんが、元彼に貰ったらしいけど、要らないからってくれたんだ。」
「え? なら売った方が良かったんじゃ?」
「俺もそう言ったんだけど、浮気された男の金なんか汚くて使えないって言ってた。」
強いなぁ。そのお姉さん。手の平サイズぐらいだし、かなり高額な値段になるはずなのになぁ。
「って、事でこの中に入って下さい。…って、おい!」
『―――。』
何か小さく頷くと精霊様が何かを呟き私の額に小さく口付けを落とし石の中に消えた。
「あはは…“祝福”されても意味なんだけどなぁ。」
溜息を吐きながら精霊様にキスをされた場所を触る。“今”の私にはあまり意味がない行為のはずなのに。
「別に、向こうだって特に気にしてねぇんだ。貰っとけ。」
「でも…。」
「例え、受け取れなくても…だ。それは、精霊様の“気持ち”なんだろ? なら貰っとけ。ちょっとイラって来るけどな。」
“祝福”とは、神や精霊が与える恩恵。
でも、私は受け取れない…沢山もらっても、もう受け取れはしない。
だって、私はもう“聖女”を剥奪されたのだから…。
「って事で、もう俺等のレベルには手に負えないので、後は、Aランクの誰からに引き継いで欲しいんですが?」
事の次第を笑顔で報告するイオに終始苦い顔をしながら聞くこのギルドのマスター。うわぁ嫌そう。
「はぁ…。理由はわかりました。」
ギルドに戻ってきた私達はそのままギルマスに呼ばれた。耳が早いなぁ。
「んじゃ、そー言う事で、俺達は失礼します。」
「お疲れ様です。」
報告を終えて後は出て行くだけになる。この話の終わりなら、何も言われないな。よし! 頭を軽く下げて、ゆっくりした動作で後ろの扉まで歩き後は扉を引いて外に出るだけなのに後ろから声がする。ああ、嫌な予感が…。
「さて、“依頼”の話です。」
「嫌で、」
「言っておきますが、ランクAの皆様は今は出払っていていません。」
「最後まで言わせて…え? 何で居ないの!?」
いや、何で? は!? 困惑していると、死ぬ程良い顔をしながら言い切った。
「何でも近くの都市で“ドラゴン”が出たらしくその要請です。」
「ど、ドラゴン。」
「しかも、群れで来ているらしいですよ?」
「へ、へぇ。団体さん…。」
笑顔が引きつってるよ。ギルマス! え? だから、朝来た時ほとんど人居なかったんだ…。
「ふーん。そんなに多いのか? “破壊神”が言ったんだろ? もう終わってていいころだろ?」
「そうですね。ルルガルドさんが向かってくれたはずなので、そろそろ終わる事会いかとは思いますが、ここから5日はかかるんですよ!?」
“破壊神”ルルガルド・ファーストさんは、このギルトの最強と言われる人だ。ランクはS。とても強くて優しい人だ。元はどこかの王国の騎士団長らしい。それから後、1人ギルト最強の人がいる。ルルガルドさんとは何度か話した事があるが、気のいいおじさんって感じだ。怒ったりしたと事はあまり見た事がない。温厚な人だ。
「え? なら、今誰が居るんですか?」
「ランクA以上は誰も居ません。ついでに、Bも今出払ってます。」
「なんで?」
まって、おかしい何で、Bランクの人たちも居ないの? え? 朝居たよね!? 何で!?
「貴方がたが出払った後に、緊急で依頼が着ましてね。」
「俺らが言った逆にある“山脈”にゴブリンが大量発生したんだろ?」
「え? そうなの?」
何それ? 私だけ知らないんだけど…後でイオに聞いてみようかなぁ。それにしても相変わらずどうやって聞いてるのか分からないなぁ。今日ずーっと一緒に居たんだけど?
「さすが耳が早いですね。どうですか? これを機にランク昇格を」
「必要ない。」
「またですか。はぁ。また今度お願いします。Bランクの冒険者は総出て行ってます。だから、無理ですね。」
「もう帰って来るんだろ?」
「まぁ、そうですね。ところで、イオさん“別件”でお話があります。」
チラリと私を見るギルマス…。これは私が邪魔って事だな。了解です。頷き扉を開ける。
「イオ。新作のお菓子買ってくる。下で待ってて。」
「先に帰ってていいぞ?」
「ルージュさんに賄賂で買って一緒に食べる。最近疲れてたし! …それに、クッキーでいいかな?」
視線だけギルマスの背後を見ると、小さくカーテンが揺れる。
「はぁ。分かった。話終わったら下で待ってるな。気を付けろよ。」
「うん。」
そのまま扉を閉めて、新作のお菓子を買いにいく。ルージュさんは最近の依頼が多すぎて辛いって言ってたし、あそこのケーキも好きだって言ってたから一緒に食べよう! クッキーは2種類…プレーンとチョコレートでいいかな? チョコレートは好評だったし! イオにお茶入れてもらわないと!
「んで? “別件”ってぇのは?」
「どうせご存じでしょう?」
いや、思い当たる事ってなんだ? 結構ギルマスが真剣だしなぁ。オペラの耳に入れたくねぇって事は、王都関係の話か。内々に処理してぇな。つーと。イリスからの報告か?
「まぁな。あれか? 神子様の“魔力”が最近足りてねぇって話だろ?」
「…。」
無言は肯定になるぞ? まぁ、でも、あの魔力量じゃあ無理だろうなぁ。直ぐにカツカツになるな。結界の維持はまぁ、オペラが頑張ってため込んだ魔力を使ってるんだろうな。最悪妹に頼めば何とかなんだろ。それに、教会が何とかすんだろ。こっちに来ないなら何でもいい。
「違げぇーのか? なら、王都で“人”が消えてるのは、実は神子様のと関係持った奴らなんだろ?」
「何でその事を知ってるんですか!?」
おいおい。そっちに反応するのかよ。いや~。帰る途中に連絡来たからなぁ。笑いそうになってやばかった。それに焦ってた妹を見れたのはラッキーだったわ。めっちゃ焦ってたし、落ち込んでた。百面相は面白かった。
「ん? いや、だって、面白いスキャンダルだろ? 笑えたし、あ、山脈の方か? あれを操ってるのが北の奴らだろ?」
「そうです! そうなんですけど! 待ってください! 最初の2つはどうやって知ったんですか!?」
「言う必要あるのか?」
「貴方の情報は、はっきり言って貴重です。勿論凄く欲しいですよ!」
「だから、ちゃんと渡してんだろ?」
「そうですね。で、その“精霊”様の件ですが申し訳ございませんが、そちらで対応してください…。それにしても。」
声を顰める。あまり聞かれてもいい話じゃねぇからな。
「なんだ?」
「オペラさんは聖女を剥奪された…んですよね。」
「本人はそう言ってるな。」
「…そうですか。貴方はどう思いますか?」
「分かりきってるのに、聞くのか?」
笑って答えると溜息を吐かれたひでぇな。
「はぁ。いいえ。すみません。」
「んじゃ、戻るな。」
「お疲れ様です。」
部屋の扉まで近づきノブに手を伸ばす。あ、そうだ忘れてた。
「なぁ、リシャトル」
「何でしょうか。」
「俺はまだお前とは友人として付き合ってたいからさぁ。…今回は許してやる。でも…」
俺は笑顔で口を開く。お前はいい度胸してるよ。相変わらず…。
「…肝に銘じます。」
そのまま扉を開けて部屋を出る。少し、時間がかかったか? オペラの奴、変なのに絡まれてないといいが。
「…はぁ。辛い。」
「バレておったな。」
イオが扉を出て暫くして、無意識に止まっていた息をゆっくり吐く。すると隣から人影が現れる。
「アンジェ。僕の寿命が10年は縮みましたよ。相変わらずオペラさんが絡むと怖いですね。」
「じゃな。それにしても、あ奴は本当に気に食わん! ワシが居る事も気が付いておったのに! 無視しよって! オペラは相変わらず愛いの。ワシの事まで気を回すなてな。」
アンジェっと呼ばれた人影は笑う様に返事をして形を変え、小柄な少女の様になる。真っ赤な髪と強い光を宿している瞳も紅い。古風な言葉遣いが独特だ。彼女は焔炎の精霊…アンジャリカ。
「アンジェが気に入るのは珍しいですね。」
「ん? 嫉妬か? 嫉妬じゃな?」
ニヤニヤしながら何を言うんですか。只でさえ面倒ごとが多いのに!
「…そんな訳ないでしょうーが! はぁ。」
「まぁまぁ。それにしても、相変わらずじゃな。イオがオペラに向けるのは…あれは果たして愛と呼べるのか?」
「変な詮索したら藪蛇じゃないですか。藪を突いて、竜よりもヤバいのが出たら嫌なので黙りますよ。今の所は味方ですよ。」
“オペラの安全を約束するなら俺の持つ力を全ても情報も出して貢献してやる。だから、今回は見逃してやる。でも、次はねぇよ?”
そう、言った彼の笑った顔を生涯忘れないだろう。久しぶりに会った友人を平気で脅す癖に、笑う顔に恐怖を感じさせる…普通に怖い。あんなのは、生まれて2度目の経験だ。未だに、先程の声が聞こえる。
“だからつまんねぇ真似したら、潰すぞ?”
ああ、胃が痛い。
オペラさん…どうか! どうか、その人の事お願いいたしますよ! 彼が怒れば世界なんて一瞬で消えますからね! そう願わずにはいられない。
彼が彼女を見るその瞳の奥には、一体何種類の情があるなんか、気が付いた瞬間目を背ける。そのぐらい、苛烈で煮えたぎり、チリチリと燃え上がってる。まるで炎だ。その怖いぐらい思い…あれは、果たして愛と呼べるのだろうか…。
それを見せない様にしているのか…はたまた、彼女はわかっていてなお、一緒に居るのは…定かではないが。僕は全力で見ない振りをするしかないんのだから…。
「怖いですねぇ。」
「じゃなぁ。」
机にある大量の書類に手を伸ばしながら少しだけでも、仕事を減らそうと頭を切り替える。
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