間章――彼らの独白――
第14話 シオンの独白
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リュミエーヌが王都へ赴くこととなった。王都へ行き、城へ上がり、暫定婚約者たる世継ぎと面会する――ともなれば、当然、それなりの準備というものが必要になる。
『王宮は陰謀が渦巻いて、誰も彼もが腹の探り合いと足の引っ張り合いをしているところよ』
『そんなところに、わたくしのような田舎貴族の娘がのこのこ出ていって、どうなるというの。宮廷貴族たちの餌食になるだけだわ』
先ほどリュミエーヌの言ったことは、あながち外れてもいないことを、シオンは知っている。陰謀と毒殺が平然と行なわれる王宮では、誰もが表の顔と裏の顔を使い分けるのだ。
亡き王妃の実家であるサンヴェルドル公爵家など、政敵の毒殺はお手の物、と噂されるほどだ。あの宮廷人たちから見ればアーガイル領の人間など、純朴と言えば聞こえば良いが、喜怒哀楽のままに行動し疑うことをしない、子供よりも容易く扱える存在だろう。
「リュミエーヌは、王家の客人が害されることはないと言ったが……」
それは半分正しくて、半分不正解だ。
リュミエーヌに――あるいはアーガイル公爵家に――あるいはマリアンヌに、恨みを持つ貴族は宮廷の内外に数多存在するだろう。
王太子妃を身内から輩出したい貴族。長年アーガイル公爵家と戦をしていた近隣領主。マリアンヌに王の寵を奪われた王妃の実家。王家の武器庫と宝物庫となりたい貴族。とっさに考えつくだけでも五本の指では足りない。
「さて、どうするべきか……」
もちろんシオンは、リュミエーヌを何が何でも守り抜く気でいる。だが、無垢で純粋な彼女が生き馬の目を抜く王宮の流儀に馴染めないだろうことも、わかっている。
シオンは師から、剣でも槍でも斧でも扱えるように仕込まれた。しかし何枚もの舌を使い分けるような戦い方だけはついぞ教わらなかったし、自分には永遠に必要ないものだとも思っていた。
のんびりとした気風のアーガイルの領地から出ることもなく一生を終えるなら、武器しか扱えぬ自分でも、十分にこと足りるだろうと。
「信用のおける、宮廷のしきたりに精通した貴族が味方にいれば――」
夢のような話だ。国王と対立して孤立した、アーガイル一族と親しくなりたがる貴族などいない。
いたとしても、善意が理由であるはずがない。必ず目的を抱えているはずだ。それにみすみす良いように利用されてやるつもりもない。
ふいに、さきほどの会話を思い出す。リュミエーヌはやさしい。護衛であるシオンにさえ、何かを命じることもできない。
それは、このアーガイルの地にあれば間違いなく美徳と呼ばれるものだ。だが王宮にあっては――必ずしも、良い方向には作用しないだろう。
もちろん、それを含めてリュミエーヌという人間なのだから、すべてシオンは守りきるつもりでいる。
だが、状況が簡単にはそれを許さないだろうことも、わかっている。だからシオンには有力な味方が必要だ。宮廷の流儀に精通し、王族や上級貴族からでも一目置かれるような、そんな人物の存在が――――。
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