第4話 警鐘

 支度を終えたリュミエーヌが姿をあらわした。


 春らしい上品な萌黄色のドレスをまとい、アーガイル公爵家の家伝である黄金の髪はつやが出るまでよくブラシで梳かれて、この前出入りの職人に納めさせたばかりの、白い絹でつくられた小花の髪飾りで留めてある。

 北の方で流行っているという透ける薄絹の飾り帯には砕いた水晶が縫い込まれ、同じ細工が華奢な絹の刺繍沓にもほどこされていた。華美さはないが、リュミエーヌの少女らしい可憐さを十二分に引き立てる装いだ。

 だが、当の本人は浮かぬ顔をしていた。素敵な衣装をまとった少女のよろこびなど欠片も見いだせない。


「叔父様。このドレス、春の女神のお祭りのためにつくらせたものでしょう。どうしてお客様に会うだけなのに、わざわざ?」

「すぐに分かる、いいから来るんだ。もうさんざんお待たせしてしまった」

 ろくな説明もせずに歩き出すダレイオスの後に、あわててリュミエーヌが続く。その後ろを追いながら、お待たせときたか、とシオンは

 内心でつぶやいた。


 王国で三指に入る強大な公爵家の次男として生まれたダレイオス・アーガイルは、相応に傲慢な性格の持ち主だ。兄である亡き公爵のことは尊敬して常に従っていたが、その娘であるリュミエーヌには強引な態度を崩さない。

(そのダレイオス様が? うやまうほどの高位の人物なのか、客人というのは……)


 いやな予感がした。シオンは大股で歩を進め、リュミエーヌに追いつくと、姫、とダレイオスには聞こえぬ声でささやいた。

「シオン?」

「よくないことが起こる気がします。なにがあっても驚かないでください」

 さっとシオンに投げかけられた視線が、どういうこと、と問うている。だが、答えている余裕はない。


「私がそばに控えています。おそらく、叔父君も同席する。なにも恐れることはない」

「シオン」

「――何をしている、リュミエーヌ!」

 いい加減我慢の限界が近い叔父の声に、ただいま参ります、と返してリュミエーヌは小走りに駆け出す。シオンも後を追い、謁見室に入った。

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