覚悟を決めた冷たい目
ルイは体を回転させ足から着地すると、敷地外まで飛ばされた父親の方向を見つめる。全力で撃ったとは言え、まだ倒れたとは限らない。
ルイは同じ構えのまま、父親の姿を待つ。
「何だ……今の戦い方は!あの乱暴な立ち回りはッ……!」
予想通り、父親は右足を引きずりながら立ち上がった。左側の頭部からは顔を半分覆う程に鮮血が垂れている。開いている右からは怒りと混乱が混じったような瞳でルイを睨む。
だがルイは何も返さず、蔑むような瞳で見つめていた。
「貴様……なんだその目はァァァァ!!!」
父親は一撃を食らう前よりも圧倒的に遅い足取りで近付くと、魔力を込めた魔剣を握り締めルイに振り下ろす。
だがルイは小さくため息を吐くと盾を横に振るい簡単に弾き返した。
「何ィ!?」
自身が使ってきた流派の構えすらもとらず、まるで子供が木の枝で遊ぶかのように魔剣を振り回す。最早八方破れ《はっぽうやぶれ》の構えと化していた。
「諦めたらどうだ。貴様では僕に勝てない」
ルイは視線すらも合わせずぶれた剣筋を避けると、最後は盾で押し返し容赦無く剣で薙ぎ払うルイ。当てる気が無かったのかたまたま避けられたのか、父親は後退して剣を避けた。
「黙れ……お前に私の何がわかる!
自身の怒りの原因がまるでルイにあるかのように話す父親。
だがルイはそんな父親の感情を一蹴するように鼻で笑う。
「だから何だと言うんだ」
「なんだと!?」
「貴様は忘れたのか?
そう言ってルイは再び武器を構える。
「それにさっき貴様は言ったな『何だ今の戦い方は』と。理由は簡単な話しだ。
だから自分で編み出したと話したルイに、父親の怒りは更に高まっていく。
「ふざけるな!十三のガキにそんな事が――」
「歳も何も関係ない!例えおざなりでも、戦う覚悟があるかないかだ!貴様はただ仲間に対して嫉妬を繰り返し弱い者を捌け口にしただけだ!……何よりそれを教えてくれたのは、貴様を倒した奴だけどな」
怒号を上げたルイはリュウトがいるであろう方向を見つめる。家の中で僅かに見えたその後ろ姿は、母親や従姉妹の父親の手当を親身に手伝っているものだった。
「くッ――どこまでも馬鹿にしおって……!」
リュウトだと気付いた父親は、暴走機関車のように避難者がいる家へと駆け寄り魔剣の切っ先を向ける。
だがリュウトが気付くよりもはるか前に、ルイの盾によってその剣先が届く事は無かった。
「あいつは傷付けさせない。大切な友に、近寄る事も許さん!」
「うるさい!!はぁぁぁぁぁ!!」
もはや狂人のような声で
ルイが自身の剣で魔剣を受け流すと、鉄製の細剣は盾の前では一撃と持たず刀身が砕け散った。
砕けた事により一瞬の隙が生まれた父親に対し、ルイは盾で魔剣を叩き落とすと右手の剣で折れた細剣を手元から更に砕く。
「くそがぁぁぁ!」
「そして貴様は自分で言ったはずだ『取り乱した者から負ける』とな」
ルイは適当に振られた魔剣を避けると、盾の衝撃波をもう一度父親の顔面に直撃させる。頭から数メートル飛んだ父親は力無く地面へと倒れ込んだ。
「ルイ!大丈夫!?」
「あぁ、何とかね。トウヤの方も怪我は――」
突然の庭に響く唸り声。地面から穿つような声と共に不安定ながらも立ち上がる父親。
ルイは再び視線を鋭くさせ
「まだだ……お前ごときに負ける訳が無い!私は……私は選ばれた人間なんだ!」
父親はそう言うと、コートの胸ポケットからペンのような白く細長い何かを取り出す。先端の赤いキャップを外し、チラリとルイの方へ視線を向けた。
「お前は私には勝てない……その答えを見せてやろう」
不敵な笑みを浮かべた父親を見て、ルイは無意識の内に危機感を感じ反射的に足が動き出す。既に父親への心は無いと思っていたが、盾を持つ左手がその行為を止めようと必死に前へと向けられる。
「やめろ――ッ!」
だが残り数メートルといった所で、まるで待っていたかのように父親は白い何かを左胸に刺した。
その瞬間、中に入っていた赤い液体が父親の体内へと流れていく。やがて全てが入り切ると、父親は大手を広げ叫び声を上げた。同時に爆発にも似た魔力の衝撃波がルイを襲いトウヤが立つ近くまで押し戻される。
改めて父親が立っていた場所を見てルイは思わず息を飲み込んだ。父親の体からは魔力が炎のように溢れ出し、その姿は狼既に人ではなく犬や狼に似た骨格を持つ悪魔へと変貌していた。
「これはいイ!いいゾ!力が溢れてクル!」
「あの人何を使ったの……あれじゃまるで、地下に居た悪魔だよ!?」
トウヤの動揺に震える声にすら応えられない。目の前で父親が悪魔と化した状態では頭すら働いてくれなくなっていた。
そんな事など知らぬと言いたげに父親は高笑いしながら魔剣を出現させる。
先刻まで使っていた細剣とは違い、二メートル以上はあろう鍔も無く柄には赤い布が巻かれただけの両刃で無骨な大剣へと変化していた。まるで上品さ等かなぐり捨てて、力だけを渇望した心情を表すかのように。
「さぁイクぞ息子ヨ!お前の体を引き裂いて私が真の強者だと言う事を教えてヤル!!」
悪魔と化した父親はその場で跳躍すると、常人ではありえない高さからルイの立つ場所へ剣を振り下ろす。盾では受け切れないと悟ったルイは盾の衝撃波を使って距離をとる。
振り下ろされた大剣は地面に数メートル程の巨大な切り跡を残した。
「くそ!この力はまさか……
「
ルイの両手は異常とも呼べる魔力に震えが止まらなかった。嫉妬からの憎しみが獣の牙のようになり、自分の首筋に噛み付いているような感覚。トウヤも同様に似た感覚を受けていた。
トウヤの言葉にルイはゆっくりと頷いてみせる。目を離せばこちらが危ないと分かっているからこその最小限の反応だった。
「ああ、そして
ルイは震える両手を強く握り締め、トウヤには再び手を出すなと言いたげに数歩前に出る。
そんな姿を見て、最早人の面影など無い人狼のような父親は小さく微笑んできた。
「残念です。もう少し……」
ルイが呟くと自信に満ち溢れた表情で右耳に手を当てる。だがその目はしっかりとルイの首元へと向けられていた。
「ほんの少しでも人としての思いがあるならこんな事はしないはず。貴様はもう人でもなければ悪魔でも無い――」
「ハッ!お褒めの言葉と受け取ロウ!!そして、最後の言葉はそんなのでいいのカァ?」
父親は大剣を地面から引き抜くと肩に担ぎ体勢を低く構える。既に相手は万全とも呼べる状態だった。
何を言っても届かないと悟ったルイは、目に思いの丈を貯めながら盾と剣を構える。一度それが頬を伝うと、優しさは消え去り冷徹な瞳へと変化していた。
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