血族と制裁編
夏の招待状
廃墟探索から一週間が過ぎたある日。退院後、しっかりマナにお灸をすえられたトウヤとリュウトは
「なぁトウヤ、
「え?どの辺?」
眉間に皺を寄せながら、今にも泣きそうな表情でわからないページを開いて見せるリュウト。トウヤは顔を近付けて、リュウトが指している問題を黙読した。
「ああ、ちょっと前に終わった所だね。それは
そう言ったトウヤは、
「てんかんき?」
教科書を受け取り、睨むような顔で目を走らせるリュウト。トウヤは静かに頷くと教科書をテーブルの上に置かせて、写真や文字を指でなぞり始めた。
「詳しくはまだ知らないけど、この時期に
教科書に掲載された一枚の写真には、それを表すかのように黒いコートと
「ふーん」
「ふーん、じゃなくて!それが約二十年前。それより前は刀の
飽きてきたのか空返事をしながら教科書をぼーっと眺めるリュウト。トウヤの説明通り、古い写真には刀を持った
「んー
「ね〜」
リュウトは教科書を閉じると、小さくため息を漏らして床にだらしなく足を伸ばす。暑さと共に頭も使ったからか、戦闘とは違う体力が底を尽きようとしていた。
だがその時、寮の入口のインターホンが部屋の中で響く。
「うわ……マナでも偵察に来やがったか?」
「リュウトが進まないからね……とりあえず見に行ってみようよ」
リュウトの部屋を出て、面倒くさそうにロビーに向かうと、既にインターホンを鳴らした主は中に入っていた。二人の姿を見つけるなり微笑を浮かべて小さく手を振る。
「やぁ、勝手に入らせてもらったよ」
「それならインターホン鳴らさなくても部屋まで来いよ。お前はもう体は大丈夫なのか?」
寮に入ってきたルイは、リュウトの問いに答えるように、片足で一回転してからダンスの決めポーズのように両手を広げる。
「ああ、もうすっかり治ったよ」
「そりゃ良かった。でも俺達は頭捻ってるからどこにも行けないぞ?」
「まぁ捻ってるのはリュウトだけだけどね」
何故か勇ましい顔をしながら話すリュウトの横で、苦笑いを浮かべるトウヤ。宿題が進んでいない事を察したルイは、軽い笑い声を漏らした後にため息を吐きながら首を横に振る。
「そうなのか。それなら早く終わらせよう。君達にもぜひ来てもらいたい用事が出来たんだ」
ルイの言葉を聞いた瞬間、二人の顔から血の気が引いていき思わず体が数歩後退する。全員無事に帰れたとはいえ、致命傷に近いダメージを受けたから無理もない。
「まさかお前……また跡地とか」
「いや違うよ。それも見付けたけど、今回は戦いじゃない」
見付けたと言う単語を聞き逃さなかった二人だが、そんな事を知らないルイは、ポケットから二枚の細長い紙を手渡してくる。
リュウトがその紙を受け取ると、招待状と書かれていた。
「これは?」
「明日のパーティの招待状だ。僕の家で親戚や著名人を呼んで開くんだが二人にも来てもらいたくてね」
思ってもいなかった提案にリュウトもトウヤも目を輝かせる。
「おおー流石名家って感じだね」
「正直この類は堅苦しくて嫌いなんだが、今回は比較的緩いらしくてね。僕も友達を呼んで良いと言われて君達に決めたんだ」
そう言ってルイはニコッと笑顔を浮かべる。本気で友達と思ってくれているルイの無邪気な顔を見て、リュウトは思わず照れくさそうに鼻で笑う。
「今回も拒否権は無さそうだね」
「分かってくれたようで何より。それに今回の趣旨は母さんの気分転換の為でもあるんだ」
思いもよらなかった単語が出て来てトウヤはつい言葉を返してしまう。
ルイは
「気分転換?」
「ああ、トウヤが来る前に僕の父さんが捕まった事は知ってるだろ?それで母さんは酷く落ち込んでね。未だに事件の真相はマナ先生達にあると反発してる程なんだ」
眉を八の字にしながら話すルイの表情からは、明らかに陰りが見えた。申し訳なさより呆れているようにも感じる。
「でも実際はお父さんの方が悪いんだよね?」
「それに関しては火を見るより明らかだ。実際僕も見ているし、両クラスの生徒全員が証言している」
ルイの脳裏であの日の模擬戦が鮮明に蘇る。横暴なる父の行いとそれに歯向かい一人で戦ったレン。身を呈して庇おうとしたリサと、最後に魔剣と共に父を止めたリュウトの背中。
あの日の情景はルイの中で残り続けている。
「だが未だに母さんは納得してないんだ。父さんが絶対的な存在だったからね……。それで憔悴してしまった母さんに今回は英気を養って貰う為、パーティを開いて発散させようって訳みたいだ」
恐らく母親を心配してなのだろう。ルイは僅かに視線を下に向けながら呟くように話していく。だがそんなルイの表情を見ていると、リュウトはある事に気が付いた。
「なぁルイ」
「なんだい?」
「お前の母さんが許してない人にマナもだけど俺も入ってんじゃないのか?」
リュウトが言った瞬間、トウヤの方が気付いたのか目と口を大きく開けたまま時が止まったかのように硬直する。だが一番気づいて欲しいルイは頭上にハテナマークが浮かんでいる様子だった。
「ん?どう言うことだい?」
「よーく考えてみろ、母さんが怒ってる相手は俺やマナなんじゃないか?」
「ああ、特にリュウトは父さんと対峙した張本人だからね。母さんも名前を覚え、て……」
ようやく気付いたのか、まるで電池が切れたロボットのように語尾がゆっくり止まり見開いた目でリュウトに視線を送る。
リュウトは長いため息を吐いた後、やれやれと言いたげに首を振った。
「……このパーティーに俺行ったらヤバくね?」
「……」
「お前なぁ……」
もはやルイから言葉が出て来なかった。流石のリュウトもどうするべきか分からず頭を抱える。
だが正気を取り戻したのか、ルイの瞳に色が戻ると僅かに頭を下げてきた。
「いやすまない……そこは何とかするから、当日はぜひ来て欲しい」
「何か凄い危ない気もするけど……任せたぞ?」
「大丈夫だ、考えがある」と言い残したルイは頷くと足早に寮を後にして、待たせていた黒塗りの車に乗り込んでいく。そんな後ろ姿を見送った二人は、夏の暑さが余計重く感じられる。
「アイツって頭良いのに結構抜けてるとこあるよな」
「うん……真っ直ぐと言うか猪突猛進みたいな……」
それでも二人はルイの事を嫌いにはなれなかった。まるで長年の友のように呆れつつも信頼が消える事は無い。
「まぁいいや。トウヤ早く終わらせよう、今日中には終わらせないと」
「はいはい、それじゃあ頑張ろう」
呆れながらも友達に呼ばれるのが嬉しかったのか、部屋へ戻るリュウトの後ろ顔はどこなく綻んでいた。
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