静かな恐怖
「ぐぁぁぁああ!助けてくれぇ!」
「死に……たく……ない!」
あと数歩でリュウト達の存在が視界に入るという所で、女性は直ぐに引き返す。安堵しているのも束の間、女性は三人の安否も確認せずに機械をかざして扉を締め始めた。
「もう長くないくせに、まだ生きようとする気力があるみたいね」
石が擦れ合うような音と共に女性はやれやれと首を振りながら誰に言うでもなく言葉を零す。扉が締まり切ると、色っぽいため息を吐きながら部屋を後にした。
「それなら、私じゃまだ手に負えないし?もう少し様子を見ようかしら」
まるでリュウト達へ話すように呟くと、女性はヒール独特の軽い音を響かせながら階段を上がって行った。三人は部屋の入口から目元までを出して周囲を確認する。先程の
「行ったかな」
「ゆっくり出るぞ」
リュウトを筆頭に部屋から出ると、更に広い範囲へ気を配る三人。安全が確保できると、話題は一連の流れへと変わる。
「それにしてもどういう事だ。他の
リュウトは眉に皺を寄せながら開いた場所と思われる床を見つめる。本来なら助けに向かうか、応援を呼ぶべきであろう状況にも関わらず、置いて帰ったという事がリュウトには理解出来なかった。
「……あの人は本部の所属じゃない」
女性が戻って行った道を見つめながら呟くルイ。本部の所属じゃない――。その一言にリュウトとトウヤはルイの方へ視線を向ける。
「何でわかるんだ?」
「これでも家柄のおかげで本部に所属してる人は粗方わかるんだ。でもあの女性も、さっきの
ルイは顎先に右手を添えながら、どこで会ったのか記憶を遡るものの、思い出す事が出来ない。だがずっと引っかかっている棘のような感覚に不快感を覚えていた。
「それよりどうしよう。下への道はわかったけど、
トウヤが扉が開いた場所らしき所で周囲を探るも、それらしいスイッチは見当たらない。力で押したり横にスライドさせようとしてもピクリとも動かなかった。
「うーん開かないね」
「やっぱあの女の人が持ってた機械みたいなのが鍵なのか」
「……」
リュウトとトウヤが床の前で手を焼いていると、じっと考え込んでいたルイがおもむろに二人と距離を離し、自身のペンダントを握りしめる。
「二人共少し離れていてくれ」
「ルイ?お前何するつもりだ?」
左手に盾と右手にはルイの腰くらいまでの長さがある片手剣。
リュウトとトウヤが言われた通り床から距離をとると、ルイは盾を自身の正面に構えた。その瞬間、先程と同じ光のような魔力が盾へと収束していく。
「まさかお前……!」
「僕の『アイギス』は盾が主力でね。攻撃範囲は短いし守りに向いてるものだから、戦闘に関してはリュウトやトウヤの方が羨ましく思うよ。だが壁相手なら――ッ!!」
ルイはニヤリと笑うと魔力を溜めた盾を勢い良く床へぶつけた。
地響きと共に土煙を上げながら扉の役割もしていた壁は崩れ下へ続く道が見えてくる。
土煙が晴れてくると、ルイは自身の
「よし、行ってみよう」
床だった破片をどかして進んで行くルイの後ろ姿を見つめながら、苦笑いにも似た優しい笑みを浮かべる。
「あれだな……ルイって思ってたより脳筋だよな……」
「うん……」
進んでいくルイを一人にしてはいけないと、二人も姿が見えなくなる前に後を追う。だがあの時の異常な魔力は嘘だったかのように感じることが出来ない。
圧迫感のあるコンクリート製の螺旋階段を降りて行くリュウトとトウヤ。妙な胸騒ぎを感じながら進んでいると、先を歩いていたルイが途中でしゃがみこんでいた。
「どうした?」
「これを見てくれ」
ルイがその場から避けると、足下には大きな血痕が水風船を上から落としたように広がっていた。赤い花のように広がった血は階段の下へ茎の如く伸びている。
「なんだよこれ……」
眉間に皺を寄せ僅かに表情が引き攣るリュウトと、血の臭いで記憶が掘り起こされそうなトウヤは嗅ぎたくないのか、右手で鼻の辺りを隠す。
「恐らく先に降りた
「引き摺るって……他の
ルイは血痕に触れ、何かを確かめるように人差し指と親指を擦り付け合う。血は乾きつつあるものの、指に広がる程度には湿り気が残っていた。
「あの魔力の持ち主がいる以上それはわからない。血はまだ新しい方だな。扉が締められる前に聞こえた声の時に襲われたのだろう」
「他の奴らが生きてるといいけど……」
ルイはポケットに入れていたハンカチで指の血を拭うと、服の中に隠していたペンダントを表に出してくる。
「すぐに出せるよう念の為だ。下に行ってみよう」
どこまで来たか分からなくなる程長い螺旋階段を進み、ようやく一枚の扉に到達する。だが三人がその扉を見た瞬間、進めていた歩みがピタリと止まる。取っ手には乾いた血痕が付着しており、見たことも無い文字や何かを象った絵が扉にびっしりと装飾されていた。
「なんだよこの扉……」
「凄い気持ち悪い雰囲気がする……」
異様な扉に圧倒される二人とは違い、ルイは地面を見て引き摺られた血痕を辿る。閉じられた扉の所で血痕が切れており、その近くには赤い手型が二つ、まるで奥へ連れて行かれるのを抵抗したかのように付けられていた。
「
「ここまで来たら行くしかねぇしな」
「でも何かあった時は、すぐに帰ろう」
トウヤの意見に二人が頷くと、ルイは血の付いた取っ手を捻り扉を力強く押し開く。中は薄暗い廊下が続き、その先は明る場所なのか光が漏れていた。
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