地下探索
屋上での休憩を終えて、今度は地下の探索を始める三人。一階にある唯一の階段を降りると、そこは現役時代に使われていた倉庫や亡くなった人を安置する部屋が並んでいた。
「ここからが地下になる。ちょっと空気が変わったような気もするが……まぁ問題はないだろう」
「いやいや、病院の地下って霊安室とかあるよね?流石に不味いんじゃ……」
トウヤは、身をかがめるように背中を丸めながら先頭のリュウトと最後尾のルイの間を歩く。甲殻の悪魔を倒した程の腕がある候補生が見えない存在に怖がる姿にルイは思わず笑みを浮かべる。
「ふふっ、トウヤはそう言うのを信じる方なのかい?僕はお化けとか心霊とかは全然――」
ルイが話していたその時、フロアの奥の方で何かが落ちる音がこだまして廊下を駆け抜けていく。トウヤは体が強張り、流石のリュウトも小さく声を漏らす。
一番後ろを歩いていたルイは、音と同時に体勢を僅かに低くし右手でペンダントを握りしめる。あまりの構える速さに二人はぽかんと口を開けた。
「ルイ……?」
「お前まさか、怖いんじゃね?」
リュウトの確信を突くような言葉に構えを解いて、慌てながらペンダントも服の中へと戻す。
「そ、そんな事はないぞ!!悪魔かと思って構えたんだ!」
「まぁ音がしたのは奥の方だし、念の為に行ってみるか」
リュウトはルイの姿を見て小さく笑うと、廊下を躊躇無く進んで行く。そんな後ろ姿にトウヤとルイは不思議な安心感を覚えた。
「リュウトは怖くないの?」
ふと疑問に思ったことをトウヤが言葉にすると、リュウトは少し考えるように唸り始める。答えが決まったのか、歩みを止めて振り返ると、僅かに得意気な表情を浮かべていた。
「そりゃ怖いんだけどさ、
リュウトの意見を聞いて、トウヤは不思議な納得を得ると同時に安心感も覚える。それは最後尾で聞いていたルイもまた同じ心境だった。
「確かに何か出ても
「それに三人でいるんだ。現時点で程心強い事は無い」
リュウトはルイの言葉を聞いて口元に笑みを作り再び歩き出す。さっきまでの恐怖が薄れたのか、トウヤもルイも重かった足取りが少し軽くなっていた。
だがそんな気分とは裏腹に、探索する部屋は機材はおろか椅子一脚も残されていない殺風景な状態が続いている。
「ここが最後の部屋かな。一番奥まで来たけど何も無かったな」
「ここにはもう何も残っていなかったのか……すまない二人とも。来てもらったのに無駄足になってしまった」
十数部屋あった全ての中がものけのからとなっており、 ルイの言う実験の痕跡になる物は何一つ残されていなかった。最後に見た部屋の前でルイが小さく頭を下げると、リュウトもトウヤもその言葉を否定する。
「気にすんなそんなの」
「そうだよ、思い出も聞けたしルイとも仲良く――」
トウヤが言い切る前にそれは起こった。突然轟音と共に建物が地震のように揺れ始め、同時に呼吸がしずらくなる程の魔力を感じ取る。三人は体がよろめきながらも体勢を保ち周囲を見渡す。
「何だこの魔力!?」
「前に戦った悪魔より、全然違う……!」
だがどこにも魔力の持ち主は見当たらない。いつ襲われるか分からない状況に、ルイは神経を糸のように集中させ濁流のような魔力の発信源を探る。溢れ出るような魔力を感じ、建物の地下よりも更に下からより濃い魔力を感じ取った。
「これは、下からか?」
ルイが地面に視線を向けた数秒後、大きな揺れがピタリと収まり、同時に放出されていた重苦しい魔力も消え呼吸が正常に戻る。
「ルイ、これは一旦出ようぜ。明るくなってからの方がいいかもしれない……ん?」
リュウトは違和感を覚えて自分の手を見ると、まるで恐怖を表すかのように無意識に震えていた。ルイやトウヤもその光景を見て、帰らざるを得ない状況だと判断する。
「たしかにな……一度帰ろう」
三人が引き返し元の道を戻ろうとした時だった。上の階からゆっくりと降りてくる複数の足音が聞こえてきた。地上へ戻るにはその階段を使わないと帰れない。
「ねぇ!誰か来たよ!」
刻一刻と近づいてくる足音にトウヤは忍び声で急かすと、後がないと思ったリュウトは臨戦態勢をとる。
だがルイだけは床の方を見つめたまま眉間に皺を寄せていた。
「多分魔力が真下にあるのはこの部屋だ。向かいの部屋に隠れるぞ!」
ルイはリュウトとトウヤの手を取り、自分達が居た部屋の向かいの部屋へ急ぐ。幸い部屋に入ったとほぼ同時に開けっ放しの扉の外から懐中電灯らしき光線が照らされる。
足音は部屋の前で立ち止まり、数名の声が聞こえて来た。
「ヤツは起きたのかしら?」
三人は壁から僅かに顔を出してみる。さっきまで自分達がいた場所には
「あれは……」
リュウトは女性の左腕に巻かれた黒い腕章に目を凝らすと、マナやレンを連れて行った
「はい、魔力起動装置で無理やり起こしました。先程の魔力はそのせいかと思われます」
一人の
「なるほどね。それなら悪いのだけど、ちょっと見てきてもらえないかしら?」
そう言って女性は胸ポケットの中にしまっていた機械を壁の前に向ける。すると壁と床が轟音を立てて動き出し地下から更に下へ行く道が開かれた。
だが
「で、ですが我々の戦力では……!」
自分の強さに自信が無いのか、一人の
「大丈夫よ、試験品の
拒む事は出来ないと察したのか、
「わかりました……行くぞ」
一人の
地下にいる魔力の根源に会うのかもしれない――。想像しただけでリュウトは全身に血の気が引いていくのが感じ取れた。
三人の
「あ……まずい……!」
トウヤが床に手をついたその時だった。腐食していたのか、コンクリート製の床にヒビが入り、石が擦れ合うような音が響く。
その音に気付いた女性は、音の方へ振り向き不気味な笑顔を浮かべた。暗がりで見えないはずなのに、まるで分かっているかのような仕草に三人は恐怖を覚える。
「ごめん……」
「大丈夫だ。まだ俺達の事は気付かれてないっぽい」
そんな淡い期待も虚しく、ゆっくりと歩み寄ってくる女性。
ヒールがコツコツと音を立てて近づいて来る。リュウト達が隠れた部屋まであと数歩。
三人は無理なのは分かっていても、出来るだけ体を低くさせつつ逃げられるように体勢を構えた時だった。
地下の地下へ続く入り口から獣の雄叫びのような声と共に
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