傷付いた先に
ビルを出て走ること十数分。本部に一番近い駅のホームを見上げられる道へ辿り着いた。辺りを見渡すとホームには人影が一人も見当たらない。乗客がほとんど利用しない終電で向かうと書類にも書かれていた。
舐めるように見続ける事数分、二人の人影が近くの椅子へと腰掛ける。その姿を瞳に捉えた瞬間、リュウトは大きく名前を叫んだ。
「おいレン!!」
「……」
声には反応せず前を見据えたままのレン。リュウト達の声に気付いた白衣の
「おや?君のお友達かい?凄い剣幕で呼んでるよ?」
白衣の
「あんなんもう友達でもない」
「それよりも何故あの子達がここを知っているんだい?」
キツネのように目を細めた笑顔を向ける白衣の
「部屋に入ったんだと思います。鍵まで閉めといたのに」
「今彼らを止めないと面倒になりそうだね。ここは僕がーー――」
白衣の
「先生は手を出さなくていいですよ。自分の事は自分でやります」
白衣の
「レンお前何があったんだよ!」
「俺達が悪い事をしたなら謝るから……戻ってきてほしいんだ!」
二人の言葉に答えないどころか、眉ひとつ動かさず見下ろし続けるレン。その目には今までの穏やかな感情は無く、無機質な冷たさが感じ取れた。
「レン!お前が言った夢はどうすんだよ!三人で
リュウトが言いかけた言葉を遮るようにレンは怒号を上げ、フェンスの網目が変形する程の力で強く握りしめる。
「三人でなるだ?武器手に入れて悪魔を倒せるからって良い気になりやがって……何でも正しいヒーローのつもりかよッ!人の気も知らねぇで偉そうにガタガタ言うんじゃねぇ!!」
レンの言葉と勢いに何も言えなくなったリュウトは拳を握り締めながら俯く。トウヤも返す言葉が浮かばずただ名前を呟く事しか出来ない。
「レン……!」
「おれは強くなるんだ、お前らなんかよりずっとな。もう後ろも下も見るのは嫌なんだよ」
レンの視線が僅かに下に向けられる。その表情はまるで泣きそうな子供のようにも、怒りに震える表情にも見えた。
「レン!だったら俺達と一緒でも――」
それでも希望は捨てられないと、リュウトが再び言いかけた瞬間、侵入防止の金網が弾け飛び、距離を詰めてきたレンがリュウトへと襲いかかる。
尻もちをついたような体勢のリュウトの前に刀を構えたレンが立つ。咄嗟に出現させた魔剣で防いだ事でダメージは無かったが、襲いかかった
「ぐッ……レン……!」
「まだ分からねぇようだからはっきり言ってやるよ。邪魔なんだよお前らは……ほらな」
突然の出来事に反射的に
「そうだトウヤ。今まさに
「そんな事……」
レンも友達だと思っている。だが武器を構えた事を説明出来ないトウヤは鎌を背中に戻しながら口ごもった。
「おれも最初は友達だと思ってた。でも
「はぁ?何言ってんだよレン!俺達は一回もそんな事思った事ないぞ!」
レンの持つ刀から僅かに魔力を感じ取るリュウト。弾き返す事は簡単にも関わらず、不思議と体がそれを許さなかった。
「ふん、今更そんな事信じられるかよ。お前らとはこれで終わりだ。いらねぇもんは全部捨ててやるよ」
「レン……そんな……ッ!」
レンは刀でリュウトの持つ魔剣を叩き落とすと、リュウトに向かって横一線に刀を振るう。着ていた黒いコートで防ぐ事は出来たがリュウトの体は道の奥へ吹き飛ばされた。
トウヤはレンに視線を向けるも目が合うことすら叶わない。目元に込み上げてくるものを抑えながらリュウトの方へ駆けていく。
「おれは力を手に入れて
「レン君そろそろ時間だよ。専用車両が来る」
突然、レンの背後に白衣の
倒れたままのリュウトには目もくれず、二人は到着した電車に乗り込むのだった。
「リュウト、リュウト!」
トウヤは倒れたままのリュウトに駆け寄り声をかけると、やがて数回咳き込みながらゆっくりと上半身を起こす。
「……大丈夫だ」
「無事で良かった」
リュウトが魔剣を杖代わりにして立ち上がると、すでに姿の無い友を探すように駅の方へ視線を向ける。
「……なぁトウヤ」
「何……?」
「俺は、どうしたら良かったのかな……」
感情が無いようにも見える虚空を映したような瞳で言葉を交わすリュウト。トウヤは目を泳がせながら応えを見つけるも、辿り着いたものは一つしか浮かばない。
「俺にも、分からない」
「……そっか」
「もう人が来る。行こうリュウト……」
不幸中の幸いか、レンの攻撃は黒いコートによって防ぎ切る事が出来て、大きなダメージには至らなかった。
だが外傷よりも致命的に深い傷を別の場所に負った二人。防護柵の破損に近隣の人々が群がり始める中、身を隠すように二人はビルへと足を進めた。
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