魔装具と日常

 模擬戦から数週間の時が過ぎる。レンやリュウトの活躍によりマナのクラスは平穏を取り戻し、またもう一つのクラスは別の滅殺者が担当する事となった。

 空が映された窓の修復も終わり、マナの声が教室内に聞こえている。


「よーしちょいと時間が余ったから少し難しい事を教えてやろう」


 得意気に教科書を閉じるマナだか、他の生徒はポカンと口を開けたまま見つめている。そんな中、レンはため息を漏らすかのように呆れ返っていた。


「余ったって50分の授業を20分も余らすか普通……?」

「はいそこ!静かにしろ!今回は滅殺者スレイヤーでも所持者が少ない魔装具まそうぐについて教えてやる」


 魔装具と言う単語が出た瞬間、レンも含め他の生徒も目の色が変わる。リュウトもまたその一人であった。


魔装具まそうぐってのは簡単に言えば魔力を宿した武器の事だ。剣にしろ銃にしろ、本来悪魔しか使えねぇ魔力を使って戦う事が出来る」


 黒板に簡単な剣の絵を描くと、魔力の文字を丸で囲い矢印のマークで繋げる。画力はあまりにも悲惨なものだったが、生徒達は皆釘付けとなっていた。


「そして魔装具まそうぐは細かくすると二種類に分かれるんだ。一つは元ある武器に魔力が付与された物と、悪魔自体が魔装具まそうぐになった物だ」


 先刻の絵の隣にもう一度剣の絵を描き、今度は悪魔の文字を矢印で繋げる。マナは簡単に説明していくが、リュウト達にとっては大きな事態だった。


「悪魔が魔装具まそうぐに?」

「って言ってもロボットみたいに変形するとかじゃねぇぞ?悪魔が自分の魔力を全て使って造るらしい、言わば全身全霊の武器ってところかね」

「じゃあ俺が持ってる剣は?」


 リュウトが魔剣を持っているのは、模擬戦の一件で生徒を含め一部の滅殺者スレイヤーにも認知される事となった。

 滅殺者スレイヤーでもない子供が魔剣を持っている――。

 それだけでも異例な事態だったが、マナやリサ、そしてユウキが周りを説得したと授業復帰後にリュウトは聞かされた。初めは物珍しさに生徒達に見せろと頼まれ出していたが、今ではその事自体が当たり前になっている。

 今回魔装具の話しをするならリュウトの質問は当然だろう。だがマナは一瞬だけ間を置いて答えを話した。


「うーん……多分付与された方じゃねぇか?悪魔は自分の力をホイホイ寄越す様なマネはまずねぇし、そもそも自分の魂賭けて力を渡すなんて向こう《悪魔》から見りゃ裏切りみたいなもんだしな」


 マナの言葉にリュウトはそれ以上聞く事が出来なかった。

 何故自分が魔剣を持っているのか、その理由をマナが知る訳ないと分かっていながら反動的に答えを求めてしまっていた。リュウトは誰にも聞こえない程のか弱い声で呟く。


「それもそうか……」

「魂を武器にねぇ……まぁ敵にマヨネーズ贈るって言うやつだよな」


 物凄く真剣な顔付きで言い放ったレンに教室中の視線が一気に向けられる。

 突然の凍り付いたような雰囲気にレンはただ意外そうな表情を浮かべた。同時に頭痛でもしてきたのか、マナは大きくため息を吐きながら我が生徒に頭を抱える。


「レン、それを言うなら塩な……」


 マナが本来の解答を言ってもまだ納得の行かなそうなレン。だがそんな異質な雰囲気を破る様に終礼を伝えるチャイムが鳴り響いた。


「よーし、レンのアホさ加減がわかった所で今日は終わりだ。外出るやつは気を付けろよー」


 そう言い残して教科書同士を叩きながらマナは教室を後にした。余程納得がいかないのか、不機嫌な子供のように顔を顰めながら黒板を見つめる。


「何だよ、マヨネーズの方がいいと思うけどなぁ。まぁいいや、とりあえず帰ろうぜリュウト」

「マヨネーズはお前の好みだろ……わかった」


 マナの言葉を皮切りに次々と帰りの支度をしていく生徒達。レンから帰ろうと誘って来る事も、模擬戦以来からの日常的な流れとなっていた。

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