甲殻の悪魔編
少年の邂逅《かいこう》
漆黒に近い星のない夜空。とある施設の大きなロビーでは無惨な光景が一人の少年の眼前に広がっていた。
「はぁ……はぁ……」
辺りには大人子供構わず糸の切れた人形のように絶命しており、鉄分と生々しい悪臭が充満している。そして何より少年の目の前には、全長二メートルはあろう虫と人間の女性が混ざりあった様な異形が立っていた。
「ワタシが怖いかニンゲン?なぁ?」
外見は女性に似て華奢だが、その全身は虫の甲殻のように独特な生々しさを醸し出している。両手もカマキリのように人など簡単に裂けそうな鎌が鋭く光る。異形は赤く長い髪を揺らしながら、恐怖で涙ぐむ少年を煽る様に顔を近づけた。
「よ、寄るな化け物!」
少年は咄嗟に見付けた木の棒を振り回すも、異形は軽々と避けてみせ耳を塞ぎたくなる様な甲高い笑い声を上げた。
「バケモノォ?ハッハッハァ!!お前はそのバケモノにいずれ喰われるのサ!」
言葉と同時に異形は右手で少年の持つ木の棒を振り払う。笑顔を浮かべる口から覗く鋭利な四本の犬歯。それ以外の歯も僅かだか鮮血で赤く染っていた。
手も足も出ない獲物を前にしてゆっくりと死を待ちながら弄ぶ異形に、少年の恐怖は限界へと達する。
「まぁスグではないさ。まずはじっくりと様子を見させてもらうヨォ?」
異形が少年から離れた時だった。施設の入り口方面からいくつもの足音が聞こえて来る。まだまだ弄ぶつもりだったのか、異形は足音が聞こえる方向を見て表情を歪ませた。
「チィ!ずいぶんと早いおつきだねぇ……。忘れるんじゃないよぉ?ワタシはいつでもお前をミテイルカラネェ」
まるで呪いの言葉をかけるかのように、異形はゆっくりと少年に語り掛けると施設の影へと移動し跡形もなく姿を消した。
それと同時に勢い良く扉が蹴り開かれる。
「警察だ!手を上げ――嘘だろ……」
「おい何だよこれ……死体だらけじゃないか……!」
数名の警官が拳銃を構えながら部屋に入ると、悲惨な光景に構えていた拳銃を下ろし言葉を失う。だが別の警官が今にも気を失いそうな少年を見付け急いで駆け付けた。
「何やってる!男の子が生きてるぞ!すぐに救急車を!」
警官の姿を見て、糸が切れた様に少年は意識を失う。その首元には、十字架をデザインした紫色の鉱石が輝くペンダント外の明かりに照らされて僅かに光を反射した。
敷地の外では数台の車が建物を囲み、そこから現れた警官が次々と施設へ駆けていく。
「先に入られたか……」
「ほぼ悪魔で間違いないだろうけど、警察様が入っちゃ動けない。少し様子を見よう」
「一旦本部に戻るか……」
そんな光景を施設の外にある建物の影から、二人の黒いコートを着た
二人は忙しそうに動き回る警官の姿を邪魔くさそうに睨み付けると、名残惜しそうにその場を後にしようとした。だがその思いは背後に居た気配に砕かれる。
「どこに行こうと言うんダイ?」
振り返るとそこには、先程少年の前にいた異形が笑顔を浮かべながら立っていた。後方を任せていたもう一人の
「う、うわぁぁああ!」
「まったく……人の顔を見て驚く何て失礼なヤツダ」
異形は鎌に付着した鮮血を舐めながら呆れたように呟く。生き残った
「まさかここまで来るとはネェ」
「や、やめろ!来るな!」
まったく言う事を聞かない滅殺者に苛立ちを覚えながら異形はやれやれとため息を吐く。
「もういいか、バレたら面倒臭いシナ……ここで消エロ」
異形はそう呟くと後退りをすり
「これでバレる事は無いハズ……まだこの蜜を味わうまでは死ぬわけに行かないからネェ」
異形は二人の滅殺者を自身が生み出した黒い穴へと沈ませていく。餌が沈みきったのを確認すると、自身もまた影のような沼のようなな黒い空間へと沈んで行くのだった。
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