名探偵ハロスの日記

甘党むとう

名探偵ハロスの日記

(内容は自伝のようなものだが、自伝は既に出版されている。これは、決して出版さ

 れたような自伝ではない。なので日記とする)


皆が知っているとおり、私の名前は名探偵ハロス。

輝かしい功績をいくつも残した名探偵だ。


一月一日。この日記を書き始める。これは日記だ。誰が何と言おうと絶対に。既に生ける屍である私(九十四歳)が書いたものだ。遺書と間違う人も多いだろう。だが、しつこいようだが、これは日記だ。これだけはゆずれない。私の死後、これを遺書だと自慢げに主張する輩が現れないことを、切に願っている。


刑事さんにはこれまで、多大な迷惑をかけてきた。それも不特定多数の多くの刑事さんに。本当に申し訳ないと思っている。この国の警察は優秀だった。それはまちがいのないことだ。だからどうか、彼、彼女らを責めないでやってほしい。私の死後に、犯人が捕まらないような事が、もしあったとしても、それはしょうがないことだ。死んだ人をしょうがないと言っているのではない。警察も、人間なのだ。化け物(犯人)には敵わないこともある。逆に言えば、化け物と対峙している時点で彼、彼女らはしんじられないほど勇敢なのだ。これだけは皆、肝に銘じていてほしい。


話がそれた。私が書きたかったことはこんなことではない。いや、これらを書こうと

思っていたのは事実だが、こんなに長くなるとは思っていなかった。まるで、私に未練があるみたいではないか。少し恥ずかしいな。


だがここからは私が本当に書きたかったことを書こう。そう、未解決事件について。今でも後悔している。一体どうしてなんだと。私は謎が好きだった。だが、被害者はまだ幼い子から老人までいて、その人たちにとって謎なんてどうでもいいことで、その謎を解いたところで、彼、彼女らは帰ってこない。おかしい。私は思った。犯人は

気が触れている。もしくは、壊れている。と。おそらく、犯人は被害者の気持ちを自分と重ねることができないのだろう。信じられないが最悪の想定をすれば殺人を楽しんでいるのかもしれない。私は遺族の気持ちを思うだけで震えが止まらない。名探偵は、私は一体何をやっているんだ、と何度自問自答したことか。


どうしても伝えたかった。伝えずにはいられなかった。未解決事件は私のせいだ。どう言い訳をしても私は許されないだろう。いや、自分が許せない。私が本当に大好きだった謎はいつしか私の中から消えていった。名探偵という肩書きが私を、ハロスを押しつぶしていった。


歴史的大犯罪者、死神。私の未解決事件の全ての犯人だと言われているこいつを、私は許せない。これは名探偵という肩書きを傷つけられたから許せない、のではない。

最凶で最悪。多くの命を奪った死神を許すことなんて、できる人間はいないからだ。

命はとても重い。命とは一人のものではない。命とは奇跡だ。信じられない確率が起こす奇跡だ。それをあいつは、死神はたやすく奪った。私は死ぬ気で死神を追った。

後ろ指を指されながらも、死ぬ気で。しかし一時期、私は本当に本当に死にかけた。

野垂れ死にかけた。死神を捕まえられない私に、誰も仕事を与えなくなったのだ。掃き溜めで日々を過ごした。でもつらくなかった。私はそうやって自分に罰を与え、自分で自分を許していた。あの日々はよかった。罪悪感がなかったんだ。嘘だろ? しんじられない、と思うかもしれない。しかし、私にとってあの日々は、全ての重荷が

だんだんと消えていき、そして解き放たれる。そんな日々だったんだ。


半年が過ぎた。その間、死神はその名のごとく命を奪っていった。だが全てを失い放浪していた私に転機が訪れる。しんじられないことに、死神が私を殺しにきたのだ。全てが偶然だった。死神のターゲットは不規則だった。だから捕まえられなかった。間違いなく奇跡だった。普通の浮浪者ならば一瞬で殺されていただろう。だが、私は

ただの浮浪者ではない。元名探偵の浮浪者だった。私は死神を捕まえた。

(死神は容疑を否認し獄中で死んだが、皆はどう思う?)


野に草木が芽生え始めた頃だった。私は名実ともに正真正銘の名探偵となった。


長い時を過ごした。正真正銘の名探偵となってからも未解決事件はあった。だがそれを責める人はいなくなった。(もう手に力が入らなくなってきた)


真実を語った。世間は半年もの歳月をかけた計画でハロスは死神を捕まえたという話に踊らされている。しかし、これが真実だ。出版社にもみ消された真実。


外伝では、私は英雄扱いだ。人生に後悔はない。しかし、本当はこんなにも醜い。


皆、自分で見たもの、聞いたものを信じてほしい。君が感じたものが全てだ。

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