無限図書館セラエノ閲覧ランキング1位

玄武堂 孝

【KAC202211】無限図書館セラエノ閲覧ランキング1位

 僕こと加原かばら 一はクラス単位で異世界召喚され淫魔王と呼ばれる存在となった。

 チートで無双し、そのたびに嫁が増えていった。

 チーレム大勝利のはずなのだがちっともそんな感じではない。

 僕の異世界チーレム生活はどこかおかしい。



 久しぶりにレオンハート博士とカバラ邸で打ち合わせとなった。

 賢人街を拡張しようという打ち合わせだ

 最初はレオンハート博士の弟子や知り合いが移住してきただけだった賢人街も徐々に埋まり始めている。

 だが中には明らかに研究ではなく研究結果だけが目的の輩や『自称賢人』を名乗る怪しい輩なども増えてきている。

 今まではレオンハート博士の知り合いだという事で優遇してきたが居住者の審査を厳しくする必要性が出てきた。

 上手くいき過ぎる事の弊害。

 それを審査や処理する人間を集めてこないといけない。

 結局人手不足という結論に新領地であるサザンクロスが陥るのはもはやテンプレなのかもしれない。


 一通りの打ち合わせを終えてお茶となる。

 参加者は僕、正妻のヘラ、レオンハート博士と弟子のクルト。

 おしかけ弟子に納まったがレオンハート博士から可愛がられている。

 博士曰く『やんちゃなところが若い頃の自分に似ている』とか。

 若い頃の博士のやんちゃぶりは淫魔王であるぼくなんかよりずっとワイルドだ。

 映画にしようなんて案があるがアクション役者を育成しないと無理だという結論で頓挫している。


「奥方のお茶は最高じゃの」


「恐れ入ります」


 ヘラ手ずからのお茶。

 ヘラは重要なお客様や親しい人には自分でお茶を淹れる。

 レオンハート博士はお茶を淹れる数少ない男性の一人だ。


「そういえばおめでとう、領主殿」


「何の話です?」


 いきなり告げられたお祝いに考え込む。


「セラエノの件じゃよ」


 無限図書館セラエノは宇宙人アヌンナキの超テクノロジーで作られた図書館だ。

 空中に浮かんだホログラフィーのような画面は未来の図書館そのもの。

 この世界にある本を情報として収集、閲覧出来る。

 早い話がデータベースだ。

 それがサザンクロスでは一般に解放されている。

 ただその情報には閲覧レベルが設定されていた。

 それでも通常の閲覧レベルでさえ知識の宝庫だ。

 まだ本が羊皮紙に手書きという文化レベルでは知識を得るには金が必要だ。

 現代日本人からすれば少ない情報量だと思うが、セラエノにはこの世界のあらゆる知識がある。

 個人的には民衆の識字率を向上させ、漫画文化を普及させる下地を作るための政策の1つだった。

 だが現在は王国中から知識を求める人間が集まってきている。

 帝国にも皇帝陛下の希望でセラエノ帝都分館が建設された。

 閲覧出来る内容は一緒だがこちらは有料だ。

 知識とは金というこの文明レベルの考えを継承している。

 そのうえ皇帝派閥の帰属にだけ入館許可という制限もある。


「セラエノの閲覧ランキング1位獲得おめでとう。

 儂も読ませてもらったよ」


 レオンハート博士の言葉に弟子のクルトも頷く。

 だが何の話か理解不能。


「『淫魔王の日記』とは誰もが読んでみたいと思うタイトルじゃの。

 領主殿が淫魔王と呼ばれておるのを知っておれば誰もが閲覧するじゃろ。

 飛ぶ鳥を落とす勢いで発展するカバラ侯爵領の秘密が書かれているはずじゃからな」


 …僕の日記?

 僕は日記なんて書いた事はない…いや、ある。

 紙を魔法で大量に作った時に日記帳を作った。

 そして何かを書いた。

 だが内容は覚えていない。

 何日か書いた記憶だけはある。

 何を書こうか物凄く悩んだ記憶はある。

 今後の領地の展望とか戦略、この世界の秘密を書き残しておこうかなんて悩んだかも…。

 まずい。


「部屋の本を返した時に紛れ込んでいた…?」


 セラエノに寄贈された本はすべてテキスト(一部は画像)に落とし込まれる。

 その後原本はセラエノ地下にある蔵書室に並べられる。

 僕だけの特権としてそれを借りられる。

 だがあまりに忙しい日々で本を借りても読まずに自室に積みっぱなしにしてしまった。

 セラエノ副館長であるネーベルさんに本が傷むからと返却を切望された。

 すべての本を回収された代わりにセラエノの端末が自室で使用可能になったけどね。

 ちなみに本は昼寝用の枕として使用していたので正直困った。

 ヲタク的にインクの匂いに包まれての昼寝って幸せなんだよ。

 そして回収された本の中に僕の日記があったのかもしれない。


「すいません!それ速攻回収してきます!!」


 間違いなく閲覧レベルを高く設定しないといけない本だ。

 場合によっては禁書指定さえありえる。

 僕はレオンハート博士達を残し【転移】でセラエノに向かう。

 ヘラも同行したいと言ったので一緒に移動した。

 説明する時間さえおしかったからだ。



「アドレットさん!『淫魔王の日記』を回収したいんですが!!」


 ヘラの母親である司書のアドレットさんを見つけ本の回収をお願いする。

 アドレットさんはいきなりの来訪に驚いていたが『少々お待ちください』と言って本をとりに地下ヘと向かう。

 普段は『関係者以外立入禁止』と書かれている扉が開かれた事に室内にいた閲覧者たちが群がった。

 以前に一度最下層まで降りたがエスカレーターとほとんど埋まっていない本棚があるだけだ。

 扉の先に進もうとする人間もいたが司書に制止される。

 このままつっきって奥に進む事も出来るだろうがその場合はセラエノへの出入り禁止になるだろう。

 セラエノ出禁を引き換えにする事など出来ないので大人しく席に戻っていった。



「こちらです」


 アドレットさんが1冊の本を持って戻ってくる。

 そう、こんな感じの表紙がやたら豪華なA4サイズの日記帳。

 僕はその最初の頁をめくる。


 〇月〇日

 今日もヘラは小さくて可愛かった。


 …ああ、そういえばこんな内容を書いた。

 間違いなく僕の字だ。


 〇月〇日

 やはり個人的に手の中にしっかり納まる小さいおっぱいのフィット感がたまらない。

 ヘラのおっぱい最高!

 ちっぱいフォーエバー!!


 よく三日坊主と言われるが2日しか書かれていない。

 そもそも日記っていうのは夜寝る前に書く。

 お嫁さん飽和状態の僕にそんな暇はない。

 だから朝起きてから書こうとした…でも昨夜の叡智な活動しか覚えていなかった。

 結論:僕に日記は無理!

 そうそう、そういう結論を出したんだった。


「娘の可愛さを端的に表現した花丸をあげたい本です。

 ですのでこちらでタイトルをつけて閲覧可能としました」


 ヘラの母親であるアドレットさんはアヌンナキの第2世代実験体だ。

 少々人間離れした感覚の持ち主。

 だがヘラの可愛さは僕以上に理解している。


「…私、ちっちゃくないです」


 ヘラは間違いなく宇宙最強に可愛いのだが本人は頑なにそれを否定する。

 小さい=可愛い。

 可愛い=正義というヲタクの理論は通じない。

 僕はヘラの往復ビンタをもらい3頁目の日記を書いた。


 〇月〇日

 ヘラはまだ成長期の途中だ。

 まだまだおっぱいに伸びしろはある!


 伸びしろと書くとなんとなくまだまだいけるんじゃね?的な感じになるから不思議。

 ヘラはようやく登り始めたばかりだからな…その果てしなく遠い女坂をよ。

 ヘラの胸が成長しないのは僕の嗜好によるものだとアヌンナキからの報告が上がっている。

 つまり淫魔王の呪いだ。

 だがこれは僕が墓場まで持っていくと決めている。



 セラエノの閲覧機能にはコメントを付与する事が出来る。

 その多くに『タイトル詐欺』と書き込まれていた。

 後世『淫魔王の日記』とはそういった意味で使われることわざとなる。

 …みんなは僕の日記に何を期待していたのかな?



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