@SMNH

櫻花

櫻は嫌いだ。

名前は私と同じで、咲いたら綺麗。

そこまでは良い。

ただすぐに散っていく。 木は生き続けるが、散った花びらはもう見れない。


来年に見れるのは、今年と違う花びらで…

拗らせていると言われれば言い返せないが…


散っていく様が、櫻吹雪が綺麗だと言う人達がいる。 私には理解出来ない。

その年の、その花びらが散っていく、死んでいく様のどこが綺麗なのか。

短い人生の終わりを綺麗だとか言われた時、良かったと思えるのは人間どころか、動物にも植物にも存在しないだろう。





話は変わるが、好きな人がいる。

幼馴染で、親同士が結婚の話もしていた。


私も彼を好きだし、彼と結婚するのに何の違和感も嫌悪感も無かった。

むしろ、私から勇気を出して告白せずとも親が決めるなら楽で良いと。


これからもずっと一緒にいるものだと思っていた。



彼は小さい頃から航空機の操縦士になりたいと言っていた。

「目が良くないといけない!」と言って夜に星を一緒に見るのに付き合わされたり。

「頭が良くないといけない!」と言って勉強に付き合わされたり。


結果、それらが功を奏したか。

彼は海軍の操縦士になってしまった。



入隊してからというもの、全く会えない。

たまに手紙を送って来るが

「酒を飲みまくって騒いだら憲兵に怒られた」

「蛇を食ってみたら不味かった」

とか馬鹿な話ばかりだ。


まあ、そんな話に同じ様に返してみる。

「塩をこぼしたら母に凄く怒られた」

「蛇、私も食べたい」

まあ彼しか見ないのだから良いだろう。




櫻が咲いた頃、久々に彼が帰ってきた!

手紙ではあんな馬鹿な話をしておいて、帰る事は書かないとは…呆れると言うかなんと言うか……


しかし、ちゃんと帰ってきた。

手足もある。指もある。怪我も何も無く。

ちゃんと帰ってきた事を嬉しく思う。



その昼。

お花見をした。

満開の櫻の下。


と、いっても私の家の横にある1本の櫻の木。食べるのも近所で買った みたらし団子1本ずつ。


それでもこれ程の幸せはない。

満開の櫻に青い空、本当に綺麗だ。

こればっかりは見事と言うしかない。




「あまり言っては駄目だろうけど、実は新しい航空機の操縦士になる事になったんだよ」

「今度の航空機はプロペラが無いんだ。凄いだろ」


微笑みながらそう言う彼だったが、私としては嬉しくはない。

新しい機体となれば今よりも敵と戦うという事か。

今までも会えずにいたのに、また会った時に手足も指も確認せねばならない。


彼を大して知らない大人達や子供達が嬉しそうに「万歳!」と彼を送り出す。


私は行ってほしくない。

いくら彼の夢だったとはいえ、いくら国家の、国民の為だとはいえ、ずっと一緒にいたいのだから。


それでも彼は「行ってきます」と。


櫻には申し訳ないが、櫻の枝を少し折って、彼に渡した。







櫻花は散った。

やっぱり櫻なんて大っ嫌いだ。

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