オレと友人、そしてあの子

CHOPI

オレと友人、そしてあの子

 ――新学期。

 春休み明け、登校初日。校門で挨拶をしている生活指導の横を抜け、校舎の入り口に既にできている人だかりにオレも潜り込みに行く。

 「おー、おはよ」

 「おっすー」

 「俺ら、また一緒のクラス」

 「お!まじか、よろしくー」

 校舎の入り口には新クラスの張り出しがされていた。人だかりの中目敏くオレを見つけた友人は、既にクラス表の名前を確認し終わっており、挨拶がてらオレら二人が同じクラスだという報告をしてくる。その報告を聞いたオレは、友人と今年も同じクラスになれたことに安堵しながら、二人で下駄箱に向かい上履きに履き替え、新しいクラスを目指して階段を上り始めた。


 「あの提出物終わった?」

 「やっべ、それ、忘れてたわ」

 「うわーやってんねー、あの先生めちゃめちゃ追いかけてくるよ」

 「えー……まじでー……?」

 春休みなんてせいぜい2週間程度なのに、課題が出る意味が本当にわからないと思いつつ、マジであの先生はしつこいんだよなー、と脳内で文句を垂れる。去年の夏休み、課題を出さなかったらシルバーウィークが過ぎても『あれ?夏休みの課題はまだ?』と言われ続けたことを思い出す。冬休みの課題の時に『夏休みの課題もね』と圧をかけられ、その時点で根負けしてついこの間の1月、夏休みと冬休みの課題をまとめて出したばかりだ。


 オレがその経験を伝えると『うわー……めんどくせーから今週中に片付けよ……』と友人はぼやいた。

 「それが一番賢いと思う」

 「てか、お前はよく冬休みまで逃げたよな」

 「どうしても終わらなかった、まじで」


 そんなことを話しながら新しい教室に入る。黒板には席順が張り出されていて、新学期らしく出席番号順。となればオレら二人は席が近くなるのは確定だ。

 「なんか去年の春と似たような眺めじゃね?」

 「それな」

 去年の春、オレらは出席番号順に並んだ席がきっかけで仲良くなった。教室のど真ん中、友人が後ろでオレが前。お互い話してみたら意外と感覚が近いことも手伝って、一番つるむ仲になっていた。


 ――キーンコーンカーンコーン

 チャイムと共に新しい担任が入ってくる。

 『えー、先生が担任なのー!?』

 『そー。副担任は……』

 担任から新しいクラスの説明があり、今日は課題を提出したらLHRをして終了と言う流れだった。担任の話の途中、少し飽きてきたオレは何気なく周りを見回す。この席は周りの情報収集がしやすいと思う。当たり前だけどよく見知った顔もいれば、去年は他クラスであまり関わったことのない顔もあって新しい空気感を感じざるを得ない。


 ふと斜め前、窓際の列の一番前の席に目をやる。オレの目がきれいな黒髪を捉えたその瞬間、開いていた窓から春の風が一気に教室内に舞い込んできた。その黒髪は風を受けてキレイになびいて、横顔が見えた瞬間、キレイで澄んだ『チリン』という鈴のような音が聞こえた気がした。その瞬間、オレは友人からクラス発表の結果を聞いて、自分の目でそれを確認しなかったことを少し後悔した。だってまさか、あの子と同じクラスになるなんて。


 簡単なHRが終わり、一度10分ほどの休憩時間になる。オレの目線はというと、もう窓際のあの子に釘付けで。そんな時、後ろから背中をシャーペンでつつかれ、慌てて振り返る。するとそこにはやけに悪戯な笑顔を浮かべた友人がいた。

 「さっきっからあの子のこと、ずーっと見てますねー?」

 「……、うっせ」

 わかりやす!、と言う友人の言葉を否定できなかった。だって確かにオレは去年からあの子を目で追っていたから。


 同じ部活の部員とマネージャー、と言う関係。あまり話をする仲でもないけど、話すときに聞こえる声がキレイで澄んだ鈴のような声だと思っていた。いつもマネージャーの仕事をひたむきに頑張っている姿にいつの間にか惹かれ、加えてその声だけが他の子の声から浮いて聞こえるようになっていた。今までは部活以外接点がほとんどなかったけど、同じクラスになれたということは、会話のきっかけが以前よりもずっと探りやすくなる、と言うこと。ようやくスタート地点に立てそうな予感がした。


 「チキんなよ、これから」

 ニヤニヤと笑いながら友人は発破をかけてくる。なんでお前の方が楽しそうなんだよ、という言葉を飲み込んで一言、おう、とだけ返す。


――……今日はまだ登校初日。新学期は始まったばかりだ。

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