夢幻回廊/巨人伝説研究家<角田六郎>の事件簿4
坂崎文明
角田六郎の夢日記
「お兄ちゃん、巨人のお部屋に行こう」
「舞香、お兄ちゃんには無理だよ。僕には
そう、舞香には
お下げ髪の額にひとつ、小さな
ぱっと見はおできのように見える小さな突起である。
巨人に仕える一族である、古代氏族の<
その者は巨人と意志を通じさせることができるという。
「大丈夫、舞香が連れてってあげるよ」
気づけば、六郎は舞香に手に引かれて、細長い岩肌の石室のような空間に迷い込んでいた。
淡い緑色の
その細長い岩肌の石室はしばらく続いたが、そこを抜けると、突然、視界が開けた。
天井はとても高く、三十メートルほどあり、横幅と奥行きも同じぐらいある。
その洞窟のような空間の奥に、おぼろげに何かの遺跡のようなものが浮かび上がっている。
よく見ると、それは
燐光のお陰で、次第に目がなれてきたら、それが巨人が王座に座ってる姿だと分かってきた。
これはおそらく、六郎達の先祖が作った巨人信仰の遺跡ではないか。
その時、巨人の像が突然、動いたようにみえた。
「お兄ちゃん、行ってくるね。ここで、お別れよ」
妹は六郎の手を離して、巨人の像に近づいていく。
「…舞香、何処に行くんだ? 待ってくれ!」
六郎は声を張り上げた。
身体は何故か金縛りにあったように動けない。
伸ばした右手は虚しく空を切った。
†
「いつも、その夢はそこで途切れるんだ」
六郎は手にした古い夢日記を閉じながら、助手の
大学ノートなので、黄ばみが酷く、もうボロボロである。
「なるほど。それは【夢幻回廊】というものかもしれません。秘密結社<
星は残念そうに目を伏せた。
夢日記は舞香と別れた7歳の時からつけている。
舞香とはぐれた直後はよく同じ夢を見ていたが、最近、数年間はとんと見なくなった。
ほとんど、その存在を忘れかけていた。
45歳になった
先日、巨人にまつわる三級遺物【猫の手】事件の際に知り合った、武蔵野美術女子大生の
ひょっとしたら、舞香はまだあの巨人の神殿にいるのかもしれないと感じた。
【夢幻回廊】、いつか、その夢への回路を開いて、妹に、舞香に会いたいと六郎は強く思った。
その日は、いつか、来るのだろうか?
それは分からないとしても、願い、祈りつづけていれば、それが実現するような予感があった。
もう、逢えないと思っていた妹に、夢の中だとしてと、逢えたのだから。
「…お兄ちゃん」
そして、今も、妹の悲しそうな声が六郎の耳に、確かに残っていた。
夢幻回廊/巨人伝説研究家<角田六郎>の事件簿4 坂崎文明 @s_f
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