他愛のないやり取り。でも、記しておこう。

秋空 脱兎

人と同じ事をする事だってあるよ

 地球、日本のどこかの都市部。

 『惑星の内側に空が広がる世界』での戦いを経て役割を終え、次元を越えた剣士コギトは、色々あった末に、踏鞴たたら流介りゅうすけという高校一年生の少年の家に居候している。


「ただいまー!」


 そう言いながら、日本なのでバリバリ銃刀法に引っ掛かるため両腰の剣も全身に隠し持っている刃物も全て外しているコギトは、流介の部屋のドアを開けて中に入った。

 やや珍しく机に向かっていた流介が、椅子を回転させつつ振り向く。


「ああ、コギト。おかえり」

「うん。何してるの?」


 コギトは流介の方へ歩いて行き、机を覗き込む。見てもいいものだったようで、流介は少しだけ横にずれた。


「日記書いてる」

「へえ、日記! 紙媒体なんだ、懐かしいなあ……」

「コギトも、日記書いてるの?」

「そうだよ。長く旅をしているとどうしても嵩張っちゃうから、紙に書くのはやめちゃったけど」

「じゃあ、今はなにで書いてるの?」

「今はね、これに記録してる」


 コギトは右手の人差し指に嵌めた『白金色に輝く指輪』を流介に見せた。


「……それ、何でも出来るんだね」


 出会った初日に音声認証で『肉食恐竜型ロボットに変形する大型バイク』を呼び出しひったくり犯にけしかけたのを思い出しながら、流介が言った。


「何でもって程じゃないさ。多機能ではあるけど」

「ちなみになんだけど、日記、紙にしたら何冊分あるの?」

「あー…………っと」


 コギトは視線をぐるりと一周させながら考え、


「ちょっとした図書館一つ分には、なっちゃう、かな……」


 何とも歯切れの悪い言葉を返した。


「……コギト、本当はいくつなの?」

「それを教えるには、もうちょっと仲良くならないと、かな」

「えぇー」

「あははっ。ただまあ、見た目よりは歳取ってる、とだけ。」


 外見は十代中頃の少女が、朗らかに笑いながら言う。


「何じゃそりゃ……」

「まあ、それはそれとして。日記に書く事、決まってる?」

「今のやり取りで、今日の分になるよ」

「おお、それは何より」

「コギトは?」

「うーん……」


 コギトは腕を組み、しばし小首を傾げ、


「今日も『私がここに現れた理由』らしき何かは発見出来なかった、って書こうと思ってたんだけどさ」

「うん」

「君と同じ事を書こうかなって、今決めたよ」


 そう言ったコギトの表情はどこか不安そうで、どこか穏やかだった。

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他愛のないやり取り。でも、記しておこう。 秋空 脱兎 @ameh

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