執事がお嬢様の勉強をみてあげる話

執事さんの御褒美


こちらは『お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。』の番外編です。


前に、FANBOXに公開したものの再掲となります。

(公開日: 2022.12.3)


本編に基づいた番外編ではありますが、若干、本編よりも、大人っぽいです。


また、本編を第184話(https://kakuyomu.jp/works/16816452219440316469/episodes/16816700428063735001)まで読んでない方にとっては、過度なネタバレを含みます。


もし、ネタバレが嫌な方は、このままUターンしてください。


また、番外編の時系列は、183話と184話の間での話で、季節は12月上旬です。


レオと結月が両想いになり、記憶を思い出したあと、屋敷でのお話です。





✣──✣──✣──✣──✣──✣──✣──✣──✣




          番外編


       執事さんの御褒美





✣──✣──✣──✣──✣──✣──✣──✣──✣



 それは、結月がレオの記憶を思い出し、神隠し計画を進める中でのこと。


 阿須加家のお嬢様である結月には、もう一つクリアしなくてはならない課題があった。


 それは、12月上旬に行われる学期末考査。


 9教科にも渡る期末テストを乗り切らなくてはならない結月は、執事であるレオに、昼すぎから、勉強を見てもらっていた。


「結月、ここ間違えてる」


「え!?……あ、ホントだわ」


「相変わらず、数学は苦手だな。こんなに単純な引っ掛け問題で間違うなんて」


「し、しかたないじゃない。誰だって、苦手なものはあるわ」


 机に向かう結月の隣で、レオが間違いを指摘すれば、結月は、少しだけむくれた顔をした。


 なにより、数学と社会は、結月がもっとも苦手とする教科だった。


 しかも、あさってのテストでは、その二教科が見事に重なってしまい、結月は頭を悩ませていた。


 と言っても、別に赤点ギリギリだとか、成績が悪すぎるわけではなく、どちらかと言えば、結月は優等生だ。


 しかし、ここ最近は色々……本当に、色々(主に婚約者の件)あったため、勉学に集中できなかった。


 それ故に『前よりも成績を下がってしまったら?』そんな不安が、常に付きまとう。


 なぜなら、普段と同等、もしくは、それ以上の成績をおさめなくては、あの両親に何を言われるかわからないから。


 しかも、9月末に矢野(やの)が退職して以降、家庭教師(カヴァネス)の仕事は、レオが引き継いでいた。


 レオに変わってから、結月の成績が落ちたとなれば、きっと、レオまで悪く言われてしまう。そして結月は、それだけは何としても回避したかった。


(ちゃんといい点とらなきゃ、レオのせいにされちゃうわ)


「結月、そんなに心配しなくても、大丈夫だよ」


 すると、そんな結月の思考を読み取ったのか、レオが口を挟む。


「今みたいな単純なミスさえしなければ、結月は、100点を採れる実力だって備わってる」


「そうかしら?」


「そうだよ。だから、俺が教えた通りに、落ち着いて解けば、大丈夫」


 優しく励まされれば、本当に大丈夫なような気もしてきた。


 レオは、結月の苦手分野を的確に見抜き、正しく対処法を教えてくれる。その上、やる気や自信までつけさせてくれるのだ。


 本当に、この執事は、何から何まで優秀だと思う。


「本当に、レオは凄いわね……昔は私の方が、色々教えてあげてたのに、今では、教えられてばかりになってしまったわ」


「そんなことはないだろ」


「そうよ。もう私が教えられることは、なにもないわ」


 幼い頃を思い出す。


 よく図鑑や本を読んでいたからか、あの頃は、結月がレオに教えてあげることが、よくあった。


 そして、それと同じくらい、結月もレオから、普通の暮らしや、まだしらない世界のことを教わっていた。


 だが、大人になってから、その比率は、明らかに変わってしまった。なぜならレオは、結月以上に物知りになっていたから。


「昔のレオは、フランツ・リストのことすら、よく知らなかったのよ。それなのに、この8年で、だいぶ、差がついちゃったわ」


「仕方ないだろ。結月は、記憶をなくしてたんだから……それに俺だって、執事になるために、たくさん勉強してきたんだ」


「たくさん?」


「あぁ、日本を離れて、フランスに移住してからは、死にものぐるいで勉強した。"結月の執事"になるためだけに──」


「……っ」


 結月の──その言葉に、自然と胸が熱くなった。


 レオのこの知識は、全て結月のために培われたものだ。結月のことを思い、結月のためだけに学んできたもの。


 そして、そんなことを言われれば、自然と体の奥が熱くなってくる。


「そ、そう……ありがとう。私のために、たくさん頑張ってくれて」


 頬を染め、恥じらいながらも視線をそらせば、隣に座るレオは、そんな結月の頬に、そっと手を伸ばした。


 整った指先が優しく頬に触れ、その後、ゆっくりと距離が近づく。

 そして、その手が、後頭部に回されたかと思えば、あっさり唇を塞がれた。


「んっ、ふぁ……ッ」


 包み込むように頭を支えられ、深く深く、舌を絡め取られる。すると結月は、あっという間にレオに乱され、息つぎの度に甘い声をもらした。


「はぁ……ぁ、レオ、待って……今、勉強中…っ」


「いいよ、少しくらいいサボっても。それに、頑張ったっていうなら、御褒美くらい与えてくれてもいいだろ」


「ご褒美って……ん、ンッ」


 さっきまで勉強を教えられていたはずなのに、気づけば、大人のキスを教えこまれていた。


 子供の時とは、全く違う貪るようなキスだ。舌を吸われ、執拗にキスを求められれば、結月の身体からは、急速に力が抜けていく。


「は、ぁッ……ふ、…んぅ」


 きっと、椅子に腰かけていなければ、膝から崩れ落ちていたかもしれない。


 レオに支えながらも、荒い呼吸を繰り返せば、口元からは、だらしなく唾液が漏れ、甘い吐息が、部屋中に響く。


 そして、その姿は、普段のお嬢様からは、想像もつかないくらい艶めかしく、結月が、苦しそうにレオを見上げれば、その表情は、レオの加虐心をさらに刺激する。


「いやらしい顔」


「なっ…う、うそ」


「嘘じゃないよ。執事相手に、こんな顔をなさるなんて、お嬢様は、はしたない方ですね」


「っ…ち、ちがっ…レオが、キスなんてするから…っ」


「あぁ、俺のせいで、こんなになってるんだ」


 乱せば乱すほど、可愛らしく喘いでくれる。そして、その姿が可愛くて、つい意地悪をしてしまう。


 だけど、このままでは、本当に勉強どころではなくなりそうで、レオは、己の欲を理性を必死に抑え込むと、その後、結月の額にキスを落とし、静かに語り始めた。


「フランスにいた時、仕事や勉強で挫けそうになると、よく結月のことを思い出してた」


「え? 私を…?」


「うん。ここを乗り越えて、立派な執事になれたら、いつか結月が、御褒美にキスをしてくれるかもって」


「な、なにそれ…っ」


 それで今、キスをしてきたのだろうか?

 8年間、勉強を頑張った、ご褒美に?


「キ、キスが、ご褒美だなんて…っ」


「俺にとっては、御褒美だよ。こうして、結月を抱きしめるのも、話をするのも、全部、御褒美。ずっと、こうしたいと思ってた。結月を抱きしめて、キスをして、愛してるって囁いて……もう一生、手離したくない」


「……っ」


 結月が記憶を思い出してから、レオの言葉は、更に甘くなっていた。


 忘れていた時は、多少なりと遠慮をしていたのかもしれない。だけど、今は、溢れるほどの愛の言葉を、ストレートに叩き込まれる。


 だが、その言葉は、恋愛に不慣れな結月には、まだ、耐えられるものではなく


「レオ、恥ずかしいわ…っ」


「なにが?」


「い、色々と……それに、キスをするなら、する前にいって」


「言わなくても分かるだろ。それとも、言われた方が嬉しい? なら、何度でも言ってあげる。結月と、たくさんキスがしたい」


「ん…っ」


 すると、また、恥じらいもなく囁かれて、キスをされた。

 だが、今度は、貪るようなキスではなく、誓い合うような落ち着いたキスだった。


 それに、確かに言わなくても分かる。キスをする時は、まるで合図でもするように、優しく頬に触れてくる。


 そして、髪を撫でられれば、結月はあっさり受け入れてしまうのだ。


 だから、レオは、いつも許可なく口付けてくる。勉強中でも、お構いなしに──


「っ、はぁ……っ」


 そして、ひとしきり堪能したあと、唇が離れると、その後レオは「たくさん、ご褒美をもらったね」と、満足そうに微笑んだ。


 そして、その瞬間、結月が思ったのは


(ご褒美があれば、私もレオみたいに、頑張れるかしら?)


 結月からのご褒美に、幸せそうにするレオ。


 なら、自分もご褒美が欲しいと思った。


 頑張った後の、ご褒美が──


「ねぇ、私もテストを頑張ったら、ご褒美をくれる?」


「御褒美? いいよ。何が欲しい?」


「……チョコレートがいい」


「チョコ?」


「うん。レオが、よくくれた、あのチョコレート」


 その言葉に、レオは一驚する。


 "よくくれたチョコレート"とは、アレのことだ。幼い頃、一袋100円で売っていた、あの安くて硬いチョコのこと。


「そんなのでいいのか? 結月は本当に、あのチョコが好きだな」


「だって、レオがくれたチョコだもの。食べると幸せな気持ちになれるの」


 名家のお嬢様が望む御褒美が、安いチョコレートだとは。相変わらず、欲のないお嬢様だとおもった。


 しかし、お嬢様が、それがいいというなら、聞くのが執事の運命(さだめ)だ。


「いいよ。じゃぁ、結月が前のテストよりも、いい点を取れたら、御褒美をあげる」


「ホント! じゃぁ、頑張らなきゃ!」




 ✣✣✣




 そして、それから、一週間ほどがたった頃。


「レオ、見て! 前よりもいい点取れたの!」


 二人っきりの部屋の中で、結月は自信満々に、レオにテストを見せつけていた。


 苦手な数学と社会で、見事、98点と96点を取り、前回よりもいい点を取ることができた結月。


 そして、その喜ぶ姿は、もう可愛さが爆発するかのようだった。


(可愛い、ホントかわいい……!)


 子供のようにはしゃぐ結月が可愛すぎて、レオは無意識に頬を緩めた。


 いい点をとれて、こんなにも喜ぶなんて!


 結月のためだったら、学校に忍び込んで、テストの答案を全て満点に書き換えることすら、いとわなくなりそうだ!


「ねぇ、レオ。ご褒美もらえる?」

「あぁ、もちろん」


 だが、そんな暗躍計画も、結月に上目遣いでオネダリされると、あっさり消えうせた。


 そして、レオは、執事服のポケットから、チョコを取り出すと、それを、結月の手の平の上に、ちょこんと乗せる。


 個包装されたキューブ型のチョコは、二人の思い出のチョコだ。


 そして、それを見て、嬉しそうに微笑んだ結月は、その後、チョコを口の中へ。


「ん……やっぱり、懐かしい味がする」


「子供の頃、よく二人で食べてたしな」


「うん。温室の中とか公園で。でも、何度食べても、やっぱり硬いわね、このチョコ」


 じわじわと時間をかけて溶けていくチョコの味は、結月が、普段食べている高級チョコとは全く違う味わいだ。


 でも、これはこれで、意外と癖になる味なのだ。


 しかし、硬いと言ったその言葉を不満と捉えたらしい、レオは、結月に向かって一つ提案をしてきた。


「じゃぁ、その硬いチョコが、もっと美味くなる方法を教えようか?」


「もっと、美味しく?」


 まさか、この安いチョコが、高級チョコのようは味わいになるのだろうか?


 でも、この執事なら、そんな魔法みたいな方法も知っていそうで、結月はわくわくと目を輝かせた。


 するとレオは、ポケットから、またひとつチョコを取りだすと、それを、自分の口の中に放りこんだ。


 そして──


「──んっ!」


 強引に腰を抱き寄せられたかと思えば、なんと、口移しでチョコを与えられた。


「ふ! んんッ……ちょ、や……なに、んっ」


 いきなりキスをされ、何が起きているか、分からなかった。


 だが、口の中に押し込まれたチョコは、その後、じわじわととけだし、そして、それを味わうように、熱い舌が絡まる。


「ふぁ、……っん、ふ、…っあ」


「ん、結月…もっと、舌だして」


「んぅ、はぁ……ぁ」


「そう。美味しい?」


「んんっ……味…なんて…わかんな…っ」


「じゃぁ、もっと深く味わって……俺は一人で食べてる時より……何十倍も甘く感じるよ」


 視覚も聴覚も、その全てが、甘い感覚に包まれる。


 口の中のチョコは、味わう度に卑猥な音が響かせ、顔を真っ赤にした結月が、もう限界とばかりに、レオを見つめる。


 涙目になって、とろけそうな表情。


 そして、その瞳は、チョコレート以上に、甘い感情を与えてくれる。


「俺からの御褒美、気にいった?」


「はぁ、…まって……いつまで…続け…っ」


「そんなの決まってるだろ」


 この硬いチョコが、完全になくなるまで──



 そして、その後、更に5~6個のチョコを口移しで与えられ続けたお嬢様は、執事からのご褒美を貰い終えた後、いつも以上に、クタクタになっていたとか?



 ♡おしまい♡





********************


閲覧ありがとうございました。


久しぶりに読み返しましたが、こんなに、イチャイチャしてたっけ??笑


ちょっと、恥ずかしくなりました(笑)

でも、また、執事たちの番外編も書きたいですね~



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る