お兄ちゃんと修学旅行・加筆修正版

お兄ちゃんと修学旅行【完全版】①


こちらは、前に公開した番外編『お兄ちゃんと修学旅』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054888822143/episodes/1177354054918921799)の完全版です。


公開時に、ボツにしたエピソードを、がっつり詰め込んでおります。

通常版と展開が、若干変わってる部分もありますが、違いを楽しみつつ読んで頂ければ幸いです。



↓↓↓



*─────────────────────*



「橘ー!」


 それは、飛鳥と隆臣が、まだ高校二年生の秋のこと。


 文化祭が終わり、気持ちも落ち着いた11月下旬、桜聖高校では二泊三日の修学旅行が行われていた。


 旅行先は、奈良、京都。


 そして、それは修学旅行一日目、奈良を観光し、京都で宿泊した旅館でのことだった。


 食事を終え、殆どの生徒がお風呂をすませ、客室でくつろぎ始めたころ、隆臣は旅館の廊下の先で、男子生徒二人に声をかけられた。


「橘ちょっと、こっち来い! マジ、やべーから!」


「なんだよ」


「告白だよ、告白だよ! 神木が、呼び出されてる!」


 興奮気味に話す星野と後藤に唆され、隆臣がこそっと、廊下の先を覗き込む。


 すると、人けのない非常階段前の廊下で、男女が一組、窓から射し込む月明かりの中に立っていた。


 そこには、金色の髪をした華奢きしゃで美しい男子生徒と、黒髪で目がパッチリとした可愛らしい女子生徒の姿。


(飛鳥、また呼び出されたのか? 今日だけで、何人目だ?)


 今更説明はいらないとは思うが、飛鳥は隆臣が小五で出会ったあの頃から、他とは比べ物にならないくらい整った容姿をしていた。


 そして、その容姿は、成長するにつれ、更なる進化を遂げていた。


 幼く愛くるしかった顔立ちは、人形のように美しく整い、大人の色気がプラスされたことで、どこか儚く、それでいて幻想的な雰囲気すら感じさせる。


 長いまつげに、青く深い綺麗な瞳。


 白くキメの細かい肌に、細く整った指先。


 金色に輝く髪は、風が吹けばサラサラと流れ、光に当たれば、それは息を飲むほど美しい。


 そして、これは──


 そんな人を魅了する容姿をもつ、神木飛鳥が、男女問わず、モテまくっていた頃の修学旅行でのお話です。











 お兄ちゃんと修学旅行 【完全版】









 ***


「あのね、神木くん……っ」


 月明かりの中、飛鳥の前に立つ女子生徒が、頬を染めながら、ゆっくりと顔を上げた。


 対する飛鳥は、特にめんどくさそうにする訳でもなく、至って真面目な表情で、その女子生徒を見つめていた。


 人の告白シーンを覗き見るのは良くないが、さながらそれは、恋愛ドラマのワンシーンでも見ているかのようで、隆臣は、星野や後藤とともにゴクリと息を飲む。


「あの子、情報科の子だよな?」


「A組の佐々木さんだよ」


(情報科? なら飛鳥、面識なさそうだな)


 星野と後藤がヒソヒソと話すのを聞いて、隆臣は、飛鳥の答えは、もう決まっているだろうと察する。


 だが、そんな中、佐々木は、ついに告白を始めた。


「あの、私ずっと……神木くんのことが……っ」


「…………」


 だが、なかなかそこから先の言葉が、出てこず、飛鳥は、急かすことなく、じっと待っていた。


 ちなみに、気に入らないことは、ニッコリ笑って、すぐさまバイバイする飛鳥だが、相手の真剣な告白を遮るようなことは、基本的にしない。


 どんな相手だろうが、気持ちだけはしっかりと受け止めて、お互いにしこりを残さないような対応を心がける。


 それが、飛鳥なりの優しさらしい。


 すると、佐々木が、ぎゅっと目を瞑ったかと思えば、やっとのこと、続きの言葉を発した。


「私、神木くんが、好き! 良かったら、私と付き合ってくれませんか……っ」


 赤らんだ頬が、更に真っ赤になる。

 まさに、青春の1ページ!


 そして、そんな佐々木の告白に星野と後藤は


「いったーーー!!」


「うぉっしゃー! さぁ、どうするんだ、神木!?」


 と、酷く興奮気味で、はしゃぎまくっていた。そして、そんな二人の背後から、隆臣が冷静に見つめる。


 だが、きっと、断るだろう。

 隆臣が、そう飛鳥の次なる行動を予測すると


「ありがとう、佐々木さん。でも、俺、誰とも付き合うつもりはないから……ゴメンね」


 どこか申し訳なさそうな笑顔を浮かべながら、飛鳥は、隆臣が予想した通りの言葉を簡素に述べた。


 そして、断ったあとは、下手に優しくもしないそうだ。そこで、優しくしてしまうと、まだチャンスがあると相手に思わせてしまうかららしい。


「じゃぁ、俺、もう行くから」


 すると、一切の期待をもたせることなく、飛鳥は、すぐさま立ち去ろうとした。


「待って!!」

「!?」


 だが、そんな飛鳥の腕に抱きつき、佐々木が引き止める。


 これは予想外の展開だ!

 普通なら、大抵の女子は、ここで引き下がるのだが……


「ひ、一つだけ……お願いを聞いてほしいの……っ」


「お願い?」


 佐々木が、少しだけ身長の高い飛鳥を見上げながら、儚げに声を漏らす。


 その雰囲気は、妙に艶めかしく、見ているだけでドキドキしてきた。


 思春期まっただ中の男子高校生には、少しばかり刺激の強い光景だ。しかし、その刺激は、更に高まる。


 なぜなら──


「私、神木くんのこと、ちゃんと諦める……でも、せめて、私のファーストキス、貰ってくれませんか?」


「…………」


「来たぁぁぁあぁぁぁぁぁ!???」


「やばい!! まじヤバい!! これどうなんの!? するの?? キスしちゃうの!? うわぁぁぁ羨ましいぃぃぃいいいいいいいい!」


「……うるせーよ」


 突然の超展開に、微かな動揺を見せる飛鳥と、興奮しまくって鼻息の荒い星野と後藤と、その二人の声にイラつく隆臣。


 だが、飛鳥に限って、そんなことするはずない。


 ……と、思うのだが、流石の隆臣も、この先どうなるのかが気になって、二人から目が離せなかった。


「あの……っ、ダメですか?」


 すると、佐々木は、目を潤ませて飛鳥を見上げてきた。


 佐々木はそこそこ可愛いし、お風呂上がりなら、きっとシャンプーの香りくらいするかもしれない。


 言っておくが、普通の男子ならイチコロだろう。


 あんな可愛い子に、自分のファーストキスを貰ってくれなんて言われたら、例え好きでなくても、悪い気はしない。


 そう、"普通の男子"なら!!


「神木、どうすんのかな?」


「そりゃ、行くだろ。断るななんて失礼だろ」


(いやいや、流石に……)


 『しない』と思いつつも、まさかの事態を考えると、なぜか、こちらまでドキドキしてくる。


 すると、その直後、飛鳥がやっと口を開いた。


「……佐々木さん」


 囁くように佐々木の名を呼び、細い肩を掴む。


 距離が縮まれば、真剣な表情で見つめる飛鳥に、佐々木が頬を赤らめる。


 その雰囲気は、今にもキスしそうな雰囲気で……


「きゃぁぁぁぁ、やべーよ!!」

「あれマジでするよ!! あぁぁぉぉ!?」


 てか、コイツら、うるさい!!

 全く、集中出来ないんだが!?


「お前ら、女子か! キャーキャー、うるせーよ!」


「だって、同級生同士のキスなんて、生で見る機会ねーじゃん!」


「そうだよ! これが興奮せずにいられるかよ!?」


 まぁ、気持ちはわか無くはないが、とりあえず落ち着いてほしい。


「っ……神木…くん」


「「「!?」」」


 すると、少し艶のある佐々木の声が聞こえてきて、3人は息をとめた。


 見れば、佐々木が、そっと目を閉じ、飛鳥の綺麗な顔が、ゆっくりと近づいていくのが見えた。


(え!? 飛鳥、マジでする気か!?)


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