お兄ちゃんと修学旅行【完全版】②


(え!? 飛鳥、マジでする気か!?)


 友人の見てはいけないものを見てしまう気がして、隆臣は、複雑な心境になった。


 あれだけの絶世の美男子に、ファーストキスを下げたい女子の気持ちはわからなくはない!


 だが、その願いを叶えるために、付き合ってもいない女の子にキスをするなんて、あっていいはずがない!


(どうする……! とめるべきか!?)


 隆臣は、悶々もんもんと考える。

 だが、その直後──


「やめておいた方がいいよ。バカが、俺たちのことを見てるみたいだから」


 そっと、佐々木の耳元で囁かれた飛鳥の声。


 そして、その声は、ハッキリと隆臣たちの耳にも届いていた。


 どうやら、完全にばれていたらしい。

 そして、その瞬間、飛鳥以外の全員が青ざめる。


((ああああああああああああああああぁぁぁ!!?))


 声にもならない悲鳴をあげながら、隆臣と星野と後藤は、もうダッシュで部屋に戻った。


 バレた! バレたよ、悪魔に!?

 でも、あんなにさわいでたら、バレるよな!?


 ──バタン!!!


 その後、いきおいよく部屋に駆け込み、ふすまをしめると、ゼイゼイと息を切らす、三人をみて、他の男子生徒たちが、不思議そうに語りかけてきた。


「どうしたんだよ。顔真っ青だぞ」


「あああああ! ヤベーよ、絶対!」


「なにがだよ、幽霊で見たのか?」


「いや、幽霊よりヤバいって!」


「聞いてくれよ、今、神木が──」


「おい」


「「「「!?」」」」


 その瞬間、どこからか、ヒヤリした声が響いた。


 隆臣や星野、そして、その他、数名の男子たちが、一斉に、入口へと目をむければ、その人物は、ニッコリとを浮かべて、部屋の中に入ってきた。


「さてと、どーしようかな~。星野と後藤と、あとは~」


 そして、その人物は、まるで歌うように部屋の中を進むと、部屋の隅に避難していた隆臣の胸ぐらを、ガシッと掴んだ。


「隆ちゃんも♪」


「なんで、俺だけ殴られそうになってんだよ!?」


 今にも一発きそうな雰囲気に、隆臣は蒼白する。


 巻き込まれただけなのに、なぜか、一番悪いやつみたいになってる!


「飛鳥! 言っとくが、俺は巻き込まれただけだからな!」


「何が、巻き込まれただけだよ。一緒になって、のぞいてた癖に」


「いや、でも……っ」


「つーか、なんで、あのバカ二人、止めなかったの?」


「……そ、それは」


 弁解の余地よちもなく、隆臣はちぢこまる。そして、星野と後藤が、バカといわれていることを訂正するものは誰もいない。


 すると飛鳥は、おびえる三人に呆れながら


「はぁ……お前ら、さっき見たこと誰にも言うなよ」


「い、言わねーよ! 言いらすなんて可哀想だし!」


「そうだよ! 絶対言わない!!」


 飛鳥が、佐々木のことを口外しないように念を押すれば、星野たちは、絶対言わないと口をそろえて、そう言った。


 すると、それを聞いた飛鳥は、隆臣から、あっさり手を離すと


「隆ちゃんも、ないからね?」


「わかってるよ」


 にっこりと可愛らしく。だが、どこか威圧的な笑みを浮かべた飛鳥は、まさに悪魔のよう。


 だが、一段落ついたからか、その騒動を見て、今度は、他の生徒達が声をかけてきた。


「なになに、なんの話?」


「あ、もしかして、また呼び出されたのか!?」


「マジかよ! 神木、今日で何回目だよ!? 昼間も、呼び出されてただろ!」


「いいよなー、神木はー! (生徒会の)副会長なってから、更に増えたんじゃね? 俺も告白されてー…」


「俺なんて、呼び出されたことすらねーって」


「オレもー」


「まー、神木はいいからなー!」


「あぁ、だよなー。いいと、それだけでモテるしなぁ。羨ましい~」


「………」


 だが、その後、淡々て発せられたクラスメイトの言葉に、飛鳥は眉をひそめた。


 良くあることではあるが、さすがに、容姿だけを褒められるのは、気分が悪い。


「別に、モテたいなんて思ったことないよ」


「「…………」」


 すると飛鳥が不機嫌そうに、そう言って、場の空気が、一瞬にして静まり返る。


 ピリリとした空気が、部屋の中に充満する。

 まるで、一触即発とも言える空気。


 だが──


「こらあああぁぁ、神木ぃぃ!! お前、そこに正座しろぉぉ!!?」


「!?」


 そんな中、一人の男子生徒が叫んだ。


「いいか、神木!! お前も俺たちと同じ顔になってみろ!! 絶対モテたいって、思うようになるから!!」


「そうだよ! きっと、わかんねーんだろなぁ、神木には! 俺たちみたいに、下々しもじもの顔を持って生まれてきたやつの気持ちなんかさぁぁぁ!」


「神木! お前は、その顔で生まれた時点で、勝ち組なんだよ!! 神様に選ばれたモテまくりの人生を歩む、数少ない一人なんだよ!! マジで、その顔に産んでくれた親に感謝しろぉぉぉ!!」


「てか、なんでお前ん家は、一家そろって美形なんだよ! なんで神様は、俺を神木の家に産んでくれなかったんだよぉぉぉ」


「つーか、モテたいと思ったことがない!? どうせ神木は幼稚園のころからモテまくってきたんだろ! だから、その有り難みが、わかってねーんだろ!!」


「言ってみてーよ、そんなセリフ! 一度でいいから言ってーよ! オレたちはモテてたいんだよ!! モテまくりたいんだよ! どうしたら、モテるんだよ!! オレのモテ期いつくんだよ、神木の馬鹿野郎ぉぉぉ!」


「あの、ごめん。ごめんなさい。今のは失言だった。謝るから、許して……っ」


 布団に平伏ひれふし、泣きわめくクラスメイト。

 そして、その阿鼻叫喚あびきょうかんとする男子たちの姿を見て、飛鳥が慌てふためく。


 すると、さっきまで強気だった飛鳥が、逆に謝る姿を目にし、隆臣は、ふふっと吹き出しそうになるのを押さえながら


「飛鳥。今のは、お前が悪い。土下座して謝れ」


「土下座!? そこまでしなきゃいけないほど、酷いこといったの、俺!?」


 珍しい姿を見たからか、どさくさに紛れて土下座を強要する隆臣。だが、そこに


たちばなー!! お前は、どちらかと言えば、だろーがぁ! 二人一緒に謝れ! モテない、俺たちに謝れー」


「「え!?」」


 その後、二人が土下座することはなかったが、変わりに、これまでの赤裸々せきららな恋愛話を暴露させられたとか、させられなかったとか?



 ③に続く…

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