番外編 ⑤(高校時代のお話)

お兄ちゃんと修学旅行 ①

 ※注意※


 多少のBL要素が混じります。


 と言っても、たいしたことはないですが、一応、前置きをしておきます。



 ✤✤✤✤✤✤



「橘ー!」


 それは、飛鳥と隆臣が、まだ高校二年生の秋のこと。


 文化祭が終わり、気持ちも落ち着いた11月下旬、桜聖高校では二泊三日の修学旅行が行われていた。


 旅行先は、奈良、京都。


 そして、それは修学旅行一日目、奈良を観光し、京都で宿泊した旅館でのことだった。


 食事を終え、殆どの生徒がお風呂をすませ、客室でくつろぎ始めたころ、隆臣は旅館の廊下の先で、男子生徒二人に声をかけられた。


「橘ちょっと、こっち来い!マジやべーから!」


「なんだよ」


「告白だよ!告白だよ!神木が呼び出されてる!」


 興奮気味に話す星野と後藤に唆され、隆臣がこそっと、廊下の先を覗き込むと、人通りのない薄暗い非常階段前の廊下で、男女が一組、窓から差し込む月明かりの中にたっていた。


 そこには、金色の髪をした華奢で美しい男子生徒と、黒髪で目がパッチリとした可愛らしい女子生徒の姿。


(飛鳥、また呼び出されたのか?今日だけで、何人目だ?)


 今更説明もいらないとは思うが、飛鳥は隆臣が小五で出会ったあの頃から、他とは比べ物にならないくらい整った容姿をしていた。


 そして、その容姿は、成長するにつれ、更なる進化を遂げていた。


 幼く愛くるしかった顔立ちは、人形のように美しく整い、大人の色気がプラスされたことで、どこか儚く、それでいて幻想的な雰囲気すら感じさせる。


 長いまつげに、青く深い綺麗な瞳。


 白くキメの細かい肌に、細く整った指先。


 金色に輝く髪は、風が吹けばサラサラと流れ、光に当たれば、それは息を飲むほど美しい。


 そして、これは──


 そんな人を魅了する容姿をもつ、神木飛鳥が、男女問わず、モテまくっていた頃の


 修学旅行でのお話です!







  ──お兄ちゃんと修学旅行──








「見て見て、これ、可愛い~」


 修学旅行、二日目──


 班別の自由行動となった今日、数名の班を作り、隆臣達は京都市内を観光していた。


「ホント、可愛いー」

「お土産、どれにするー」


 二条城から京都御所に向かう際、休憩がてら、立ち寄った一軒の土産屋で、女子が和柄模様のハンカチや、ストラップなどを楽しそうに見つめながら明るい声を発した。


 隆臣は、一人店の外のベンチに座ると、制服姿で買い物をする班のメンバーを見守りながら、次の観光地までの道のりを確認していた。


(あと、10分くらいしたら移動しねーとな)


「隆ちゃ~ん」


 すると、飛鳥が深いため息とともに、やっとのこと戻ってきたかと思えば、隆臣の隣に一人分スペースを空けて腰掛ける。


「はぁ……もう、疲れた」


「ご苦労さん、しつこかったな」


「ホント、まさか京都まで来て、スカウトされるなんて思わなかった」


「お前、目立つからな。さっきも、また告白で呼び出されてたし、お前と一緒にいると、予定通り進めなくて困る」


「そんなこと言わないでよ。俺だって予定通り進みたいよ」


 班長である隆臣の愚痴に、飛鳥が顔を引きつらせながら言葉を返す。


 深緑のブレザーに、グレーのズボン、ボルドーのネクタイと、着ている物は他の男子生徒と同じなのに、その見た目とスタイルのせいなのか、飛鳥はどこに行っても、目立つのだ。


 既にここにくるまでに、二条城で一回告白で呼び出され、途中の道中でモデルのスカウトにあう始末。


 飛鳥が一緒だと、急なアクシデントに見舞われ、予定通りに進めない。


 正直、余裕をもってプランを立てているとはいえ、本当にこの「美人すぎる友人」は、色々な意味で厄介だと思う。


「あ。そう言えばさ」

「ん?」


 すると、ベンチでくつろぎ出した飛鳥が、思い出し間際に声をあげた。


「隆ちゃん、昨日俺が告白されてるの、覗き見てなかった?」


「…………」


 その瞬間、しおりを目にしていた隆臣の視線がピタリととまる。


 昨夜、星野と後藤に唆され、飛鳥が情報科A組の佐々木さんに告白されているところをバッチリ目撃した隆臣。


 人の告白シーンを覗き見る趣味はないのだが、さながらそれは、恋愛ドラマのワンシーンでも見ているかのようで、ついつい目が離せなくなってしまった。


 というか、なぜ、バレた?!

 相変わらず、感がいい上に地獄耳だ。


 これは、どうするべきか?

 素直に認めるべきか?

 はたまた、しらを切り通すべきか?


「あ、しらばっくれようなんて思わないでね。星野や後藤に問いただして、もうネタは上がってるよ!」


「マジか!?なにしてんだ!アイツら!?」


 だが、もうすでに言い逃れできないところまで来ていて、隆臣は口元を引き攣らせた。


「一緒になって覗き見なんて、最低~」


「言っとくけど、俺は巻き込まれただけだからな」


「何が巻き込まれただよ。あと、佐々木さんのこと言いふらすなよ?」


「言いふらすかよ。だいたい、バレたくないから、もっと人気のないところ行け」


「仕方ないだろ。呼び出されたのが、あそこだったんだから……でも、なんでみんな、修学旅行で告白したがるんだろうね?」


「ま、学生がイベントで告白すんのは定番だろ?嫌なら、また彼女作ればいいじゃねーか」


「…………」


 すると、どこか不機嫌そうに飛鳥が眉をひそめたかと思えば、はっきりとした言葉が返ってきた。


「嫌だよ。暫く、彼女はいらない」


「………」


 ここ一年ほど彼女を作っていない飛鳥。その返答からすると、もう懲りたといったことろか?


「しかし、生徒会入ってから、呼び出されること更に増えたんだよねー。生徒会役員って、そんなに凄いの? 言っとくけど、うちの生徒会なんの実権も握ってない、ごく普通の生徒会なんだけど」


「ま。現実はそんなもんだな」


「それに、告白断るのも結構大変なんだよね。気使うし、泣かれちゃう時もあるし」


「まぁ、仕方ないだろ。なんなら思い切って、作れば?女寄ってこなくなるぞ?」


 彼女はいらないという飛鳥に、冗談混じりに隆臣が提案する。


 どうせこの後は、いつものように、にっこり笑って罵声でも浴びせられるか、悪ノリしてくるかだろうが。


「ねぇ、隆ちゃん……」


「ん?」


 だが、そう思った矢先、飛鳥は怒りもせず、ふざけることもせず、至って真面目な顔をして、隆臣を見つめ返してきた。


 吸い込まれそうなほど綺麗な瞳と、視線が絡む。そして……


「隆ちゃんは……俺のこと、どう思う?」


「は?」


 冗談で言った言葉に、どこか真剣な言葉が返ってきて、隆臣は目を丸くした。


「ど……どうって?」


「だから、可愛いとか思う?」


 そう言って小首をかしげた飛鳥の肩から、金色のしなやかな髪がさらりと流れた。


 秋の風がふわりと吹き抜ければ、細い髪がキラキラと光に反射し、飛鳥の白い頬をかすめる。


 その姿は、とてもたおやかで、どこが儚げで、可愛いか?と問われたら


 可愛い……の、かもしれないが──


「いや、あの……言ってる意味が、分からない」


 いつもと違うと飛鳥の雰囲気に、隆臣は軽いパニックに陥った。


 なんで、そんなことを聞いてくるんだ?

 その意図がまったくわからない。


 てか、どう思う?とか、可愛い?とか、聞き用によっては、女子が意中の男子に、好きか嫌いかを、確かめるときのセリフではないか?!


「何が分からないの? だから、俺のことどう思う? 可愛いとか、いいなーとか思ったりする?」


「ちょ、お前、どうした……っ」


 ずいと顔を近づけ、少し苛立つような声で問いつめられた。


 視線の先には、中性的で、とてつもなく綺麗な美少年がいる。不意に近づいたその顔に、隆臣は無意識に距離と取ると、頭の中で、理想の答えをぐるぐると考える。


 これは、なんと答えればいいんだろうか?


 飛鳥が求める答えが、さっぱりわからない。


「あ、飛鳥……お前、店見てこなくていいのか? もう少ししたら、移動」


「話そらさないでよ。俺、真面目に聞いてるんだけど?」


「……っ」


 再び距離をつめられて、ベンチの端に追いやられた。逃げようにも逃げられず、隆臣は焦り、その額にじわりと汗をかく。


 真面目に?


 てか、逆に飛鳥は、俺のこと、どう思ってるんだ?


 どう思ってて、そんなこと聞いてくるんだ?


 一瞬、あってはならないことが過ぎって、隆臣は飛鳥から逃げるように視線をそらした。


 いや、そんなはずない。


 だって、今までずっと「友人」として、過ごしてきたわけで……


「……隆ちゃん?」


 すると、顔を背け黙り込んだ隆臣に、飛鳥が、その瞳をのぞき込むようにして、見つめてきた。


 この調子だと、きっと何かしらの「答え」を出さないと、飛鳥は納得してくれないのだろう。


 隆臣は、そう思うと……


「お、俺は……」


「……」


「俺は、お前のこと親友だと思ってる!!」


 真剣な問いかけに、率直に返した真面目な答え。


 はっきりいって、今はこれしか言えない。


 だが、飛鳥は、その後暫く沈黙すると……


「隆ちゃんて、小五の時もそうだったけど……親友宣言とか恥ずかしくないの?」


「うるせーな! 恥ずかしいに決まってんだろ!? てか、お前が変なこと聞いてくるからだろーが!?」


 隆臣とて、よくわからないことを問い詰められ、その上、恥ずかしいことを言わされ(自分で言った)納得がいかない。


 すると、恥ずかしさのあまり声を荒らげ隆臣に、飛鳥は少し困った顔をして、また話し始めた。


「あのさ、実はここだけの話、マジであるんだよね?」


「は? なにが?」


「だから……"男"に告白されること」


「…………」


 ──男?


 まさかの言葉に、隆臣はキョトンと目を丸くした。


「小学校の時には、そんなこと全くなかったんだけど、中3くらいからかな? だんだん増え始めて……俺、男の人にどう思われてるのかな?」


 どうやら、いたって真面目な相談だったらしい。


 つまり、彼氏作れば?と言われて、男に告白されたことを思い出したのか?


「だ、だから……俺に可愛い?とか……聞いてきたのか?」


「うん、男から見ても、可愛いとか思うものなのかなって?」


 男に告白されるから、自分の事を男目線でどう思おうのかを聞きたかったらしい。


 なんて、紛らわしい。


「自分が、女顔なのは良くわかってるんどけど、なんで急に男の人に好かれだしたのか、その要因が、よく分からなくて」


「なんだ、そんな事かよ!?」


「そんなことって何!? ラブレターの差出人が男だった時の気持ち、隆ちゃん、味わったことある!?」


「あるわけねーだろ!」


 隆臣は、酷く動揺していた胸の音が、静まるのを感じ、ほっと息をつく。


(男に、ねぇ……)


 そして、飛鳥が男に好かれる原因。隆臣は、それに心当たりがあった。


 飛鳥は中学2年の時、突然髪を伸ばし始めた。


 そして、それは数年の歳月を経て、高校二年の今では、胸元あたりまでのびたセミロング。


 だからか、飛鳥は髪を下ろせば、その見た目は「女の子」でしかなく、その実績は先日行われた文化祭の女装で、まさに折り紙付きだ。


 中身や言葉遣いは、普通に男らしい飛鳥。


 それなのに、男に好かれるということは、やはりその原因は女みたいに長い髪と、線が細く華奢な身体と、どこか弱々しい雰囲気によるものだろう。


「お前、中学2年の終わり辺りから、突然、髪を伸ばし始めただろ?たぶん、原因はそれだ」


「え?」


「まー。お前、見た目は可愛いからな。は!髪下ろせば、女だし。だから、とりあえず髪切って、その中二病、直せ!」


「中二病!?なにそれ、俺、中二病扱いされてんの!?髪伸ばしてるだけで!?」


 サラッととんでもない原因を究明され、顔をしかめる飛鳥。


「ふ……てか、マジかよ!?男にも告られるとか、お前スゲーな!」


「笑い事じゃないんだけど?」


 すると、腹を抱える勢いで笑い出した隆臣をみて、飛鳥は口元を引きつらせた。


「結構、怖いんだよ。男に呼び出されるって……最初、恐喝されるのかと思ったし。好きになってくれる人がいるってありがたい事だって教わったし、それが男でも女でも、気持ちはちゃんと受け止めるつもりだけどさ、時々、身の危険を感じるというか……」


「身の危険ねー。お前が、か弱いのは見た目だけだろ?」


「その見た目のせいで、色々と危ない目にあってるんだろ?」


 その言葉に、飛鳥はひどく不服そうな顔をして、隆臣を睨みつけてきた。


 だが、飛鳥のその相談を、この時笑い飛ばしてしまったことを、隆臣は後々、後悔することになるのだが──



 ②につづく!

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