幸せ日記の真相

砂漠の使徒

調査

「2022年3月27日 やっほー! ねえねえ、みんな聞いてー! 最近、〇〇君が会いたいってしつこいから、会いに行くことにしたの! もう十年ぶりじゃないかな~。とっても遠いところに出張に行っちゃったから会うのが大変なんだけど、私も準備ができたから今夜出発しようと思うの! ブログの更新はしばらく止まっちゃうだろうけど、みんな待っててね!」


―――――――――


 今回の依頼は、あるインフルエンサーの自宅調査だ。

 彼女はネット上でSNSやブログを駆使し、数々の流行を作り出している。

 その中でも、特に人気だったのが「みきちゃんの幸せ日記」。

 中身は、夫との結婚生活が記されている。

 個人的な感想としては、甘ったるくて見てられない。

 が、これも仕事だ。

 なぜ一見幸せに見える彼女は、自殺に至ったのか。

 それを明かすまでは、給料をもらえないからな。


「先輩、まだ連絡は取れないっす」


 件の旦那とは、音信不通だ。

 日記には出張したと書かれていたが、具体的な場所の記載はない。

 旦那の手がかりも見つけたいところだが。


「手がかりはあったっすか?」


「いや……」


 壁一面に貼られている写真は……盛られているって言うんだったか?……不気味なほどにキラキラしているし、家中に夫婦の写真や記念品が置かれているが、自殺の原因になるものは見当たらない。


「こんなに幸せそうなのに自殺なんてするんすかね? 他殺じゃ……」


「いや、断定はできんぞ。これらの物品が、彼女の心を反映していたとは限らない」


「つまり、実際は夫婦仲が悪かったとか?」


「どうだろうな。しかし、ブログにはそんな記述一切なかったんだろう?」


「はい……」


 いくらこの仕事が長い俺でも、人の心は読めん。

 ましてや、死人相手は不可能だ。


 もっと別の手がかりがほしいな。

 俺は部屋を見渡す。

 360度、どこを見ても写真が貼られている。


「ん?」


「どうしたんすか?」


「おい、貼ってある写真をよく見てみろ」


「うえ……こんなゴテゴテに盛ってる写真を見るのきついっすよ」


「つべこべ言わずに見ろ!」


「いてっ!」


 俺達は壁際により、写真の一枚を凝視する。


「若すぎると思わないか?」


「え、そりゃあ、盛ってますから」


「にしても、若すぎるだろ」


 遺体の顔には、もっとしわがあった。

 写真の女性の顔は、画像加工しているにしても若すぎる。


「こいつは、おそらく……」


 一枚剥がして、より近くで見る。


「これだ」


 写真の裏には日付が書かれていた。


「2012年3月か」


「10年前っすね。ちょっと古いけど別に……」


「ここらの写真、調べる価値がありそうだぞ」


 俺の勘がそう告げている。


 しばらくして。

 貼られている全ての写真を確認し終える。


「これ全部、2008年から2012年までの写真でした……」


 中には日付が書かれていないものもあったが。

 これだけ探しても、最近のものはないか。


「なぜ最近の写真がないと思う?」


「撮らなくなったからじゃないっすか?」


「そんなことはわかってる。なぜ撮らなくなったのかを聞いてるんだ」


「……夫婦仲が悪くなったとかっすか?」


「それもあるな」


「けど、おかしいっすよ! ブログは自殺前日まで更新されていたんすよ?」


 後輩よ、お前の言いたいことはわかる。

 だが。


「俺は夫婦仲よりも、もっと根本的なことだと思うぜ」


「な、なんっすか?」


 まだ気づかないか。

 一人前には程遠いな。


「そもそも旦那はいなかったんじゃないのか?」


「ええ!?」


「いない者は、写真に納められないだろ?」


 心霊写真じゃあるまいし。


「けど、ブログには旦那との日々も……」


「果たしてそれは本当か?」


「……違うんすか?」


「この世には嘘つきもいるってことを、肝に銘じておくんだな」


―――――――――


「2012年3月25日 今日は〇〇君と山に遊びに行きましたー! とってもきれいな桜が咲いていて、来てよかったー! でも、ちょっと喧嘩しちゃって、私怒って先に帰っちゃった。後で帰って来た〇〇君に謝ったら許してくれてよかったー♡ これからは仲良くします☆」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せ日記の真相 砂漠の使徒 @461kuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ