明日はどっちだ?!

金澤流都

未来は想像の斜め上をいく!

 ◇◇◇◇

 ここまでのあらすじ


 ふつうの中学生、比野旅人。ある日彼の机の引き出しから現れた謎の妖精さん(自称)、ハタケちゃんのくれた謎のノートに、旅人がなにかを書き込むとそれは何故か現実になるようになってしまった。旅人はそれで冴えない日常を楽しくしようと考えるが……?

 ◇◇◇◇


 きょうも、僕はほぼほぼぼっちだった。解せない、確かに僕はノートに「クラスの人気者になる」とデカデカと書いたはずだ。

 僕はずっと根暗オーラを発散しているタイプの人間だ、ハタケちゃんのくれたノートでもそう簡単にいかないのかもしれない。帰ってハタケちゃんに聞いてみよう。

 というわけで家に帰ってきた。ハタケちゃんは僕の部屋でのうのうと桜餅をぱくついていた。うまそうである。


「ハタケちゃん、ノートに人気者になる、って書いたのに人気者になれなかったよ」


「そりゃああんたが悪いんじゃよ」


 ハタケちゃんは僕に桜餅をくれた。うまい。まあそんなことはともかく、理由を聞いてみる。


「単純に言えば、未来にだけ叶うことしか叶えられないんじゃよ。人気者には去年なれたかもわからんじゃろ?」


 んん、ちょっと難しいぞ。僕はそんなに賢いほうでないのを自覚している。


「分からんという顔じゃな」


 と、ハタケちゃんはノートを開いた。


「きのう書いた願い事を見てみようかの。えーと、『小夜ちゃんがうちにくる』か。それから少しして小夜ちゃんが何でか分からんけど、と言って遊びにきた」


「うん、これは叶った」


「これはつまり、小夜ちゃんはあの時点で未来にしかこの家に来られない、ということじゃろ? じゃから叶ったんじゃよ」


「じゃあ、なんで人気者になれなかったのさ」


「それは、おまえさんの努力次第で、去年人気者になれたかも分からん、ということじゃ」


「……そんなあ」


「それにおまえさんは人気者になってうれしいか?」


「……僕は、暗い性格で友達を連れてきたこともないし、人気者になれるならなりたいよ」


「それならオススメは日記スタイルじゃな。ちょっとずつ自分が変わっていく様子を書くんじゃよ。朝起きたら1キロ痩せてた、とか」


「それも前に叶うことなんじゃないの? 努力しだいで」


「飯を食うたらその時点できのうには叶わんことじゃろ」


 よく分からない理屈である。

 正直、いや本当に訳がわからないのだが、しかし叶えてもらえる願い事には何らかの法則性があると分かった。それなので、僕は未来の日記を書いてみることにした。

「マル月ペケ日(金)

 定期テストの結果が張り出されて、一番のところに僕の名前が書いてある」

 これでよし、と。僕はろくに宿題もせず布団に入った。


 そして日付が変わってマル月ペケ日。学校の廊下にテスト結果が張り出された。

 ……いちばんのところに名前があったのは、賢木くんの名前だった。この賢木くんというのは成績優秀スポーツ万能でしかも性格までいい、といういやーなやつである、しかも小夜ちゃんと交換日記をやっているらしい。

 僕の名前はテスト上位のなかになかった。そりゃそうだ、返ってきたテストはどれもボロボロだったからだ。


 その文句をハタケちゃんに言うと、

「テストの結果はおまえさんが答案に書いたとこで決まっておる。それを変えることはできない」

 とど正論で返ってきた。うぎぎぎ……となりながら、

「マル月ホシ日(土)

 今日は好きな漫画の発売日。大人気で売り切れ続出のなか、ちゃんと買えたうえに付録つき特装版が買えた」

 と書いた。これでよし。僕はきょうはちゃんと宿題をして寝た。


 翌朝早起きして、財布の中身を確認し、近所の書店に自転車で向かう。何故か一冊だけ特装版が売れ残っていた。ありがたく買って、付録のキーホルダーをリュックサックに取り付けた。やったあ。

 ウキウキで家の近くまできたところで、小学校からことあるごとに僕の持ち物をかっさらっていく松千代に出くわしてしまった。


「お? 旅人。『めつきのやばい』買ったのか。それも特装版じゃないか。貰うぞ」


 ああっ。リュックサックのファスナーに取り付けていた、付録のキーホルダーを取られてしまった。しかも松千代はリュックサックから漫画本編を引っ張り出して持っていってしまった。

 おのれ松千代。怒りと悲しみに駆られながら帰ってきて、僕はその恨み言をハタケちゃんに言う。

「そこは『松千代にとられることなく持って帰れた』と書くべきじゃったな」

 ハタケちゃんは冷静にそう言うと、

「まあ懲りずに書いてみよし。より良い明日を得るために、未来の日記をつけてみるのは大事じゃよ」と言ってきた。


「でもハタケちゃん、このノートに日記を書いても、うまくいかないことがしょっちゅうなんだけど」


「そりゃあなにをもって成功とするかの違いじゃな。このノートを作った妖精大王だって、こんな使い道は想像しておらんかったじゃろうな」


「じゃあなんに使うのさ」


 僕が口を尖らせてそう言うと、ハタケちゃんはニンマリと笑って、


「そりゃあ、生きとし生けるものすべての寿命を定めるために使うんじゃよ」


 と、恐ろしいことを言ってきた。

 それってデスなんとかじゃないですか。海外だと残酷漫画として年齢制限がかかっているとかいないとかいう。

 僕はため息をついた。


「まあ、上手くいくかいかないかは別として、未来の日記を書くのはいいことだと『はれときどきぶた』のあとがきにもあるじゃろ。わしはおまえさんの人生をマシにするためにここに来たんじゃから」

「いやリアルで『はれときどきぶた』は実践しないでしょ。小学生のころ読んだけど」


 とにかく、きょうも明日の日記を書くことにした。

「マル月サンカク日(日)

 松千代がいままで取り上げたものをぜんぶ返してくれた。常彦がスイッチを譲ってくれた。小夜ちゃんに告白された」

 これならイケるはず。僕は明日の僕に宿題を任せてさっさと寝た。


 翌朝起きて着替えて、朝ごはんを食べていると、玄関チャイムが鳴った。出ていくと松千代が、大量の漫画や昔のゲームを抱えて立っていた。

「なんでかわからんが返さんとまずい気がして持ってきた。ほれ」

 という、最高の出だしで、マル月サンカク日は始まった。じゃあ、常彦がスイッチをくれるぞ。なにで遊ぼうかな、やっぱりモンハンかな。

 少ししてまた玄関チャイムが鳴った。常彦は相変わらず人格の歪んだお坊ちゃんの顔をしている。

「なんでか分からないけど、旅人に恵んでやらなきゃいけないと思って持ってきた」

 と、常彦は手のひらを差し伸べた。

 ……機械工作に使う、トグルスイッチを持っていた。いや、スイッチという点では合っている。でもこれじゃない、僕が欲しいのは京都の花札製造会社の作ったあのゲーム機だ。そう言いかけたが、常彦は従兄のスポーツカーで帰っていってしまった。

 じゃ、じゃあ、小夜ちゃんはなんとかなるか。そう思っていると小夜ちゃんが現れて、


「旅人くん、旅人くんにだけ打ち明けたい大事な話があるの」

 と、恥ずかしそうな顔をしている。ワクワク興奮して、

「なんだって聞くよ」と答える。小夜ちゃんはしばらくもじもじしてから、


「わたし賢木くんが好きなんだけど、交換日記に書くのもおかしいし、手紙渡してもらえない?」


 と、そう言ってきた。


 僕は、未来を変えようと思うまい、と、ハタケちゃんに日記帳を返した。

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明日はどっちだ?! 金澤流都 @kanezya

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