カレと私の古い日記 KAC202211

天雪桃那花(あまゆきもなか)

修羅場寸前! カレが初めておうちに来た日♡

 今日は、現在いまお付き合いしているラブラブなカレが、初めて私のおうちにやって来ました。


 ――ええ〜っ?


 うぅっ、どうゆうことぉっ?


 私はどうしちゃったのか分からなかった。

 カレが怒っている?


 ついさっきまではラブラブだったのに。

 

 私がキッチンに紅茶と珈琲を用意している、そんなたったの何分なんぷんかに。


 カレが怒るような何かが起きたようだった。




「なんか怒ってる?」

「いや」


 やー、明らかに怒ってるっしょ?

 口数が明らかに少なくなった。

 カレはぷんぷんムスッとしながら、小さいコタツに座り肘をついてテレビを見ている。

 こっちは……、私の方は見ない。


「私なんかした?」

「いや」


 だっておかしいじゃん。

 さっきまで二人で腕組んだりして、ラブラブでイチャイチャなイルミネーションデートして来たのに。


「珈琲飲むでしょ?」

「……うん。……まあ、飲む」

 私は紅茶党でカレは珈琲党だ。

 飲む気あるわけ?


 今日のこの日が、カレがうちに来る日がそのうち、近々来るかも♪ と、ウキウキしながら買って用意してた珈琲なんだけどなっ!


 だんだん腹がたってきた。



 いったいぜんたい、なにを怒ってるっていうんだい?

 カレがムスッとしてて。

 私もつられてムスッとして。

 

 なんかちっとも楽しくなくなった!


 さっきまであんなに楽しかったのに〜。

 イルミネーションデートの盛り上がりはどこへやら。


 カレと私。

 二人して何も話さない。



 もう、カレの態度がこんなんで。

 理由もよく分からなくて悲しい。

 

 カレも私も見てもない、お笑い番組の笑い声が部屋に響いている。


 むっ、むなしい。

 私はらちがあかないのでこんな雰囲気に耐えられず、とうとう口を開いた。


 あー。

 なんでこんな風に言ってしまうのか。

 もっと可愛らしく言えたなら、ケンカにならなかったかも知れない。


「ちょっとさっきからなんなのよ! 人ん家に来てそんな態度でさ。なんか不満があるなら、はっきり言いなさいよね!」


 しまった!

 言っちゃった……。


 あ〜っ、もうっ。

 我ながら可愛くないなあ。

 せっかく

 付き合ったばかりだっていうのに。


 この私の一言にカレがブチ切れた。


 いきなり珈琲を飲みながら

 立ち上がるカレ。

 まっ、まさか。

 珈琲カップを投げつけて

 来ないでしょうねっ!?


 ワナワナと震える珈琲カップを持つ

カレの手!


 振り上げたあ!


 投げるっ?


「やっ、やれるもんならやってみなさいよ!」


 私は立ち上がりカレに向けて、出来もしないボクシングのポーズをして構えた。


 カレは珈琲カップを持ち振り上げた手をスウッと静かに降ろした。


 珈琲カップをコタツにそっと置く。


 私はカレの姿を固唾かたずを飲んで見守っていた。


 そして。

 カレはなぜか私の部屋の本棚に向かう。


 まっ、まさか?!


 カレは迷うことなく『ソレ』を本棚から抜き取り右手に握りしめて、怒りの形相でコタツまで戻って来た。


 バアッン……!


 コタツのテーブルに叩きつけられる私のかつて大事だった『ソレ』!!


「これなにっ!? なんだよこれは!」

 本気で怒るカレ。

 いやどこか悲しそうなのは私の気のせいか?


(あちゃー。

 見られていたとは)


 私の前カレへの熱く切ない思いを綴った古い日記はやいばと成りて、私と今カレのラブラブモードをぶったっていった。


 やっちゃったわ。

 捨てときゃ良かった。

 私はなにも言えなくなってた。


 確かに今カレと付き合い始めは、前カレのことちょこっとまだ好きだったし。

 

 急に前カレには好きな人が出来てね、私の方が捨てられちゃったんだから。

 この時はまだ、前カレをきっぱりスッパリ忘れられてなかったんだよ。

 どうしようもないじゃん。


 でも、君が忘れさせてくれるって思ったし。


 忘れたかったし。



「あと」


 あと?

 まだあんの?

 もうやだ〜。


「俺コイツのこと知ってるからな」


 はっ、はい〜?

 なんとおっしゃいました?


 ちょっとよく分からないんですけど〜。


 ――まさか。

 私の前カレをご存知で?


 カレは私の古い日記を読んでしまった。

 やばい。

 カレは内容にもいくつか怒っていた。

 カレは特に二つの理由を私に説明してた。


「ここ。

 【○月○日。

 彼がまだ好き。】

 俺と付き合い始めた日だよな?」


「ううっ。……そっ、それは」


 はい。

 すいません。



「きっと。どっ、同姓同名だよ」


「まさか? へぇ〜。同姓同名に違いないと? 君はそう言うわけだ?」


「は……、はい」


 カレは高らかに笑った。

 勝ち誇ったように、なんかのドラマかアニメの悪役のように。

 そして。

 言い放つ一言にまたグサッと私は斬られる。


「こんな変わった名前の奴なかなかいねえだろ〜」


 カレは目の奥は明らかに怒りながら笑っていた。


 こっ、こわい〜。


 どこまで話を聞かれる?


 どこつながり?


 どうやら世間は狭いようだ。


 私がこの恋を守るべく打つ手はあるのか?

 私は反撃材料を探していた。

 

 こうなって来るともう好きとか嫌いとかではなくて、一対一の勝負の世界に近い。


 だいたい私の日記の中にしかもういない幽霊みたいな存在、残像の前カレが、大事な大事な今カレの知り合いだろうが、知ったこっちゃない。


 だってさ、終わった恋なのだ。

 前カレをその時はひきずってたって、現在の私は目の前の今カレが好きで付き合っている。


 そんなん言ったら初恋は?

 あとは別れなくちゃならなかった恋を、たまに思い出すことって誰にもあることじゃないの?


 もう好きじゃなくとも。

 あんなことあったなぐらいは思わないのかな?


 んっ?

 ちょっと待てよ?


 フフフッ。

 心の中で私は笑っていた。


(これだ! これならいける!)

 

 私は反撃反論材料が見つかっていた。


 二つも今カレに対してあった。


 形勢逆転を一気に狙う!


 ここから恋の巻き返し!

 

 私と今カレの、穏やかなラブラブ土曜の夜を取り戻せ戦争の始まりだっ!


 私は笑い出しそうになった。

 これならいけると思ったからだ。




 怒りをかせる今カレに冷水を掛けるかのごとく。


 まずは、一発目の逆転材料を発射だ!


 ホラ貝吹きで戦闘開始の合図を意気揚々いきようようと、合戦場にしらしめるイメージがく。


「プライバシーの侵害だ。勝手に人の日記を見たな!」


 これには、今カレがびっくりした顔でこちらを見ている。


 さあ一気にたたみかけるわよ?


「それにっ! さっきイルミネーション見てた時!」


 今カレの体がビクッと怯えた。

 これはやましいことがある証拠だ。


 フフフッ。

 私は気分は勝負師だった。



 二発目の逆転材料を発射だ!


「隣りの高校生カップルの女の子のなま足に見惚れてただろうっ? 気づいてないと思ったか!?」


 よしっ!

 決まった!


「すいません」


 今カレは私に謝ってきた。


 ふうっ。

 形勢逆転か?


 ミッションは成功か?


 じっと私は今カレを見つめて見極めることにした。


 よしっ!

 やり方は少々手荒かったが手応えはあった。


 釈然としない部分もあるが丸く収まれば良いのだ。


「ごめん。俺を捨てないで」


 急に今カレはウルウルとした瞳で、私を見てきたぞ。


 割と弱気な今カレを発見!

 自信なかったのかあ。


 なんか。


「私の方こそごめんね」


 ふうっ。

 手に汗握った。

 なんとかなった。


 あぶない。

 あぶない。


 今カレは私をぎゅうっと抱き締めてきた。



 ようやく土曜の夜のデートの甘さが戻って来た。




 みなさま、くれぐれも私のように古い日記や見られちゃ困る前の恋の思い出の取り扱いにお気をつけ下さい。


 恋をする者の勘をあなどるなかれ。


 見られたくないものに限って見つけてくる恋人の嗅覚の恐ろしさよ……。あ〜、怖い。

 

 かつての恋愛の残骸、思い出。

 今の恋人に見つけ出されて困るものは、さっさと処分してしまいましょう。


 この作品は作者の実体験を基に、物語としました。(笑)




     おわり♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

カレと私の古い日記 KAC202211 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ