私の名はキャシー 【KAC2022】-⑪

久浩香

私の名はキャシー

 私の名はキャシー。

 私は史緒ふみおの47冊目の日記帳だ。


 史緒が私に『はじめまして、キャシー』と書いたのは、彼女が小学3年生の時だ。キャシーというのは、当時、史緒が好きだった本の主人公の親友からとったのだそうだ。


 史緒にはそれまで、佳代ちゃんという友達がいたそうだが、佳代ちゃんが引っ越して行ってしまったので、私を誕生させたのだ。私の名を佳代にしなかったのは、佳代ちゃんは、佳代ちゃん一人だけだから、と書いていたな。


 その頃の史緒が私に書いたのは、その日の天気だとか食べた物、本の感想、それから、佳代ちゃんのいない寂しさだった。登場する人物からして、史緒には、佳代ちゃん以外の友達がいなかったようだ。

 そんな史緒だったから、私を47冊にしたのだろう。


 人間の美醜というのは、もちろん私には解らないが、史緒はどうやら世間一般的にみても可愛い子であったようだ。

 小学生の史緒は、1年に4冊ほど私を作った。私が史緒の年齢と同じ12冊目になった時には、学年で人気のある男子数人に告白されたと書いてきた。そして、どうやらそれが、史緒に友達がいなかった理由らしい。


 1冊目の私の頃を振り返るように史緒が書いた事によると。史緒はクラスで一人ぼっちだったわけではなかった。先生や、史緒に告白して来た男子達の目には、ちゃんと女子の友達がいて、彼女達と仲良くしているように見えたようだ。しかし、その実情は、「借りる」と言って取っていかれた物は返してもらえず、その告白してきた男子に「色目を使うな」とか「密告チクるな」といったような事を言われていたようだ。


 史緒は、私には雄弁であったが、人に対しては無口であったようだ。


 私が史緒を可愛いと思うのは当然だが、誰の目から見ても、大人になるにつれ可愛くなっていったようだ。中一と中二の時の史緒は、年に8冊も私を作ったが、それは書く内容が増えたわけではなく、彼女の母親に私を覗き見られない為に鍵のかかる私に変えたせいだ。だが、中三の時には3冊しか私を作らなかった理由は、けしからん事に、受験勉強で私に書くのを忘れる事が多々あったからだ。


 史緒が高校に合格して、私は36冊目になった。

 史緒は、私にキャシーと呼びかけなくなってきた。

 この頃の史緒を、何と言えば良いのだろうか。

 中学の時にもその片鱗はあるのだが、高校にあがった彼女は女王様だった。

 役に立つかどうかで男を評価していた。飴と鞭の使い分けも巧みであったようで、私に書いてきたのだけでも、違う相手と15回はファーストキスをしている。

 最初にファーストキスの事を書いていたのは、確か史緒が中三の時の35冊目で、担任の先生であった筈なのだが…。


 それはさておき、史緒が私に書く事といえば、どの男と何をして、何をしてもらったかと、してもらった事の評価が殆どだった。

『佳代ちゃんに会いたい』と書いていた史緒は、どこへ行ってしまったのか。


そして、本当に史緒はどこへ行ってしまったのか。


高三になった史緒は、予備校の先生がカッコいい、と書いてきた。

そして、その先生ともファーストキスをした事を、踊る文字で書いてきてもいたのだ。

そして、私に

『明日は先生とデート💗 あ~。も~。ドキドキする。やだ~。も~、どうしよー』

と書いたのを最後に、史緒は私を開かない。

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